3)全負荷運転における燃料流量の影響
トルク点域における全負荷時の供給燃料流量を増加して性能に及ぼす影響について試験を行った。試験条件を表4・13に示す。
表4・13 試験条件
ターボチャージャA/R |
12%、15%、20% |
連絡口面積比 |
1.5% |
連絡口数 |
6(60°等分) |
噴射ノズル |
φ0.4×4-60° |
回転速度 |
1200 rpm |
負荷 |
4/4 |
燃料噴射時期 |
10 degBTDC |
全負荷運転における供給燃料流量を変えた場合におけるエンジン性能、燃焼経過を図4・54、図4・55にそれぞれ示す。
いずれの燃料噴射時期においても、燃料の増加とともに図示平均有効圧は増加するものの、図示熱効率は低下している。一方、噴射時期が遅い方がより多くの燃料を増加することができる。これは、噴射時期が遅いほどシリンダ圧力が低く、このためシリンダヘッド温度が低いためである。
燃焼経過は、燃料の増加が多くなると増加した燃料の熱発生は主に燃焼の後半となっている。このため、燃料を増加させ、出力が増加するにもかかわらず、追加した燃料の燃焼が後半となるため燃焼の終了が遅れ、結果的に燃焼期間が長くなって図示熱効率の低下となったものである。したがって、出力増加のために燃料供給量を増加させるためには、燃焼系の再適合が必要である。
図4・54 エンジンの性能線図
(全負荷燃料供給量増量の影響)
図4・55 エンジンの指圧線図
(全負荷燃料供給量増量の影響)
4)燃料噴射ノズル突出し量の影響
本エンジンでは、燃料噴射ノズルは副室の上部に設けられ、噴射した燃料は副室側面に衝突して連絡口付近で空気と混合し、早期に主室に噴出するような燃焼のコンセプトを設定している。噴射系および噴射方向、壁面衝突位置は直接噴射式エンジンほどではないと考えられるものの、燃焼に影響を及ぼす因子である。そこで、4気筒エンジンにおいても比較的容易に変更が可能な燃料噴射ノズルの突出し量が性能に及ぼす影響について試験を行った。なお、ノズル突出し量の変更は、ノズルホルダー取り付け座面のガスケットの厚みを変えて行った。試験条件を表4・14に示す。
表4・14 試験条件
噴射ノズル突出し量 |
-2.0、0、+0.8、+1.4mm |
ターボチャージャA/R |
12% |
連絡口面積比 |
1.5% |
連絡口数 |
6(60°等分) |
噴射ノズル |
φ0.4×4-60° |
回転速度 |
1260 rpm |
負荷 |
4/4 |
燃料噴射時期 |
10 degBTDC |
燃料噴射ノズルの突出し量を変えた場合の性能を図4・56に、燃焼経過を図4・57に示す。今回は構造上の制約もあり大幅な突出し量の変更はできなかったが、現行品に対して+0.8mm突出したところで図示熱効率が最も高くなっている。排気ガスへの影響は少ない。
図に示すように、燃焼におよぼすノズル突き出し量の影響は、燃焼初期、中期に大きくなっており、ノズル突き出し量が大きくなるほど初期燃焼のピークが低下している。燃焼中期の熱発生率は、ノズル突き出し量が0.8mmの時に最も高くなっており、このため、図示熱効率がこの突き出し量のときに最大となったものと考えられる。 試験における仕様では燃焼噴霧の壁面衝突が避けられず、ノズル突き出し量を変えると燃焼噴霧の壁面衝突位置も変化する。このため、ノズル突き出し量を多くすると連絡口までの距離が短くなり、火炎の連絡口まで到達する時間が短くなる。この結果、火炎の主室流出量が増加する。 このため、主室、副室での燃焼量が変化し、図4・57に示す熱発生率の変化となったものと考えられる。すなわち、主室での燃焼が増加すると相対的に副室での燃焼量が減少する。主室での燃焼量の増加は出力増加、図示熱効率向上の要因であるが、一方では副室での燃料量の減少となり、これは副室からの燃焼ガスの噴流を弱くする方向であり、主室での混合不良・燃焼悪化の要因となる。以上のことから、ノズル突き出し量によって、図示のような性能、燃焼の変化となったものと考えられる。
図4・56 エンジンの性能線図(噴射ノズル突出し量の影響)
図4・57 エンジンの指圧線図(噴射ノズル突出し量の影響)