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2.2.1 調査趣旨
 潮汐流が卓越する海湾では、海水交換の大きさを代表するパラメーターとなりうる。また、データが蓄積されている点、平均滞留時間より簡易に表現できる点などから、海水交換能力のトレンドを評価する際に有用である。
 
2.2.2 使用データ
 潮位データは気象庁の検潮所の記録が一般に入手可能である。特に毎年発行される「潮位表」には、過去5ヶ年間の実測潮位の統計値が記載されており、これを用いることにより容易に潮位差を知ることができる。気象庁以外では海上保安庁等の検潮所記録も同様に入手可能であり、データもある程度蓄積されている。
 
2.2.3 調査手法
 ここでは、海水交換という観点から海湾内の潮位振幅の推移を算定する。図III-12に示すように、各検潮所での朔望平均満潮位(大潮時の満潮位の平均値)と朔望平均干潮位(大潮時の干潮位の平均値)の差をとって潮位振幅とし、その推移を整理した。
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図III-12 潮位の関係
 
2.2.4 調査結果の評価手法
 現在、東京湾や有明海などの潮位振幅の減少が問題として取り上げられている。これらの事例を参考として「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。
 
潮位振幅の減少が10年間で5cm以下であること。
 
2.2.5 調査結果の事例
 図III-13には、潮位振幅の変遷を示す。周防灘については、検潮所として下関のデータを採用したが、1993年にデータの不連続が見られる。これは下関検潮所が壇ノ浦から弟子待に移設されたことによる。
 1960年以降のデータのみであるが、全海湾において潮位差が下降している傾向が見て取れる。この傾向は宇野木・小西(1998)1においても、東京湾、伊勢湾、大阪湾に関して報告されている。宇野木・小西(1988)によると、東京湾、伊勢湾では埋め立ての進行に伴って1960年頃より潮位差の減少が顕著であるが、大阪湾に関しては、背後に瀬戸内海が控えていること等により、東京湾、伊勢湾とは振る舞いが多少異なり、潮位差の減少傾向も少なめであるとしている。さらに、東京湾では潮位振幅が5%程度減少しており、この値は岸ら(1993)2の数値計算による潮汐残差流が10%程度減少しているという知見と併せても妥当な値であると述べられている。
 図III-13には周防灘および有明海についても整理を行っているが、同様な傾向がみられ、同じく潮汐流の大きさの低下が示唆される。当然のことながら、潮汐流が弱くなることにより、海水交換が悪くなっていることが考えられ、物質循環への影響が懸念される。さらに、大西ら(1997)3によると、東京湾の場合において、潮位差の減少に伴う富津岬周辺の堆積物の変化を検討しており、埋め立てによる潮流の減少が底質に及ぼす影響も懸念される。
1宇野木早苗,小西達男(1998):埋め立てに伴う潮汐・潮流の減少とそれが物質分布に及ぼす影響.海の研究,7,1-9
2岸道郎,堀江毅,杉本隆成(1993):東京湾をモデルで考える.東京湾−100年の環境変遷(小倉紀雄編),恒星社厚生閣,139-153
3大西和徳,柳哲雄,郭新宇(1997):東京湾の潮汐・潮流の経年変動・1997年度日本海洋学会春季大会講演要旨集,171.
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【データ出典】 
有明海以外: JODCホームページおよび気象庁潮位表 
有明海 : 1970〜1972 気象庁データ 
      1973〜1996 気象庁「潮汐概況」
      1996〜2000 気象庁「潮汐観測原簿」 
注) 朔望平均干満差とは朔望平均満潮位(H.W.L)から朔望平均干潮位(L.W.L)を引いたものを示す。
図III-13 海湾ごとの潮位差の経年変化
 
 さらに、各海湾での潮汐減少を比較するために、各海湾における最も古い順に5ヵ年平均値から直近の5ヵ年平均値の潮位振幅がどの程度減少したかを算定して比較した。その結果を減少率に関しては図III-14に、潮位減少の絶対値は図III-15に示す。
 全ての海湾で潮位振幅の明瞭な減少がみられその大きさは有明海を除くとおよそ2〜6%程度である。有明海は潮汐振幅が著しく大きいので、減少率でみると小さな値となる。また、潮位減少の絶対値は大きいところで10cm程度に達する。
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図III-14 海湾ごとの潮位振幅の減少率比較
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図III-15海湾ごとの潮位振幅の減少値比較
 








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