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2 HNS輸送船舶
 調査結果の提示に先立ち、以下にHNS輸送船舶の種類について解説するとともに、国内外の船腹量について述べる。
2.1 HNS輸送に係るIMOの規則と船型タイプ
 IMOにおけるHNS輸送に関する規則としては、BC Code(Code of Safe Practice for Solid Bulk Cargoes:固体ばら積み貨物のための安全な措置に関する規則)、IBC Code(International Code for the Construction and Equipment of Ships Carrying Dangerous Chemicals in Bulk:危険化学薬品のばら積み輸送のための船舶の構造及び設備に関する国際規則)及びIGC Code(International Code for the Construction and Equipment of Ships Carrying Liquefied Gases in Bulk:液体ガスのばら積み船舶の構造及び設備に関する国際規則)がある。
2.1.1 BC Code
 輸送中に液状化するおそれのある貨物、化学的危険性を有する固体物質のばら積み輸送、ばら積み時のみ危険となる物質及び船体傾斜により容易に移動するおそれのある物質の輸送要件を定めたもので、国内法である「危険物船舶運送及び貯蔵規則(以下、危規則という。)」の固体危険物のばら積み輸送に関する規程は、これを取り入れたものである。
2.1.2 IBC Code
 総トン数500トン未満の船舶を含めて、その大きさにかかわらず、次の危険液体化学物質(石油製品または類似の引火性製品を除く。)のばら積み輸送に従事する船舶に適用される規則
 
・石油製品及び類似の引火性製品より著しく高い火災危険性を有する物質
・引火性以外の著しい危険性を有する物質及び引火性に加えて他の著しい危険性を有する物質
 
 この規則は、1986年7月1日の1983年改正SOLAS条約発効に伴い、危規則第3章ばら積み液体危険物の輸送第3節液体化学薬品として取り入れられている。
 IBC Codeによるタンカーの種類は、船体損傷による貨物の残存性とタンクの配置条件により次のとおり規定されている。
 
タイプ1:環境及び安全に対し非常に重大な危険性を有するため、貨物の流出を防止する最高の予防措置が要求されるケミカルタンカー
タイプ2:環境及び安全に対しかなり危険性を有するため、貨物の流出を防止する高度の予防措置が要求されるケミカルタンカー
タイプ3:環境及び安全に対し重大な危険性を有するため、損傷時の残存能力を増大させるある程度の防護が要求されるケミカルタンカー
 
 タイプ1船は、もっとも大きな危険性を有すると考えられる貨物の運送を予定したケミカルタンカーであり、タンク2船及びタンク3船は、順次危険性の低くなる貨物の運送に用いられるものである。
 したがって、タイプ1船は、もっとも厳しい損傷基準から残存しなければならず、また、その貨物タンクは外板から最大の規定距離内側に配置しなければならない。
 IBC Codeによる船型タイプ別の貨物タンクの配置を図 2.1-1に示す。
図 2.1-1: IBC Codeによる船型タイプ別の貨物タンク配置図
 
 なお、タイプ2船で輸送することができる貨物はタイプ1船で輸送することができ、また、タイプ3船で輸送することができる貨物は、タイプ1船もしくはタイプ2船で輸送することができる。
 IBC Codeの構成を表 2.1-1に、主たる要求事項を表 2.1-2に示す。
表 2.1-1: IBC Codeの構成
内  容
第1章 総則 適用、危険性、定義、同等物、検査及び証書
第2章 船舶の残存能力及び貨物タンクの配置 総則、乾舷及び非損傷次の復原性、乾舷甲板下の船側排出管、載貨状態、損傷の仮定、貨物タンクの位置、浸水の仮定、損傷の基準、残存条件
第3章 船舶の配置 貨物の隔離、居住区域、業務区域及び機関区域並びに制御場所、貨物ポンプ室、貨物区域内の場所に至る通路、ビルジ及びバラスト設備、ポンプ及び管の識別、船首または船尾荷役設備
第4章 貨物の格納 定義、個々の貨物に対するタンク形式の要件
第5章 貨物の移送 管寸法、管の組立及び継手の詳細、フランジ継手、管に対する試験要件、配管、貨物移送制御装置、船舶の貨物ホース
第6章 構造材料 総則、材料に関する特別要件
第7章 貨物温度制御 総則、追加要件
第8章 貨物タンク通風及びガスフリー装置 適用、貨物タンク通気装置、タンクベントシステムの形式、個々の貨物に対するベントの要件、貨物タンクのガスフリー
第9章 環境制御 総則、個々の貨物に対する環境制御要件
第10章 電気設備 総則、危険場所並びに機器及び配線の形式、接地、個々の貨物に対する電気要件
第11章 防火及び消火 適用、貨物ポンプ室、貨物区域、特別要件
第12章 貨物区域における機械通風装置 貨物取扱作業中、通常において人が入る区域、ポンプ室及び通常において人が入る他の閉囲区域、通常において人が入らない区域
第13章 計器 計測、蒸気検知
第14章 人身保護 保護装具、安全装具
第15章 特別要件 アセトンシアンヒドリン及びラクトニトリル(80%以下)、硝酸アンモニウム溶液(93%以下)、二硫化炭素、ジエチルエーテル、過酸化水素溶液、自動車燃料用アンチノック剤(アルキル鉛を含有するもの)、黄リン(白リン)、酸化プロピレン及び酸化エチレンと酸化プロピレンとの混合物(酸化エチレンが30%以下)、塩素酸ナトリウム溶液(50%以下)、硫黄(溶融状)、酸、有毒物質、自己反応を制御された物質、摂氏37.8度において1.013バールより高い蒸気圧を有する貨物、貨物の混合、強化通風要件、特別な貨物ポンプ室要件、溢出制御、硝酸オクチル、温度検知器
第16章 作業要件 タンクあたりの最大許容貨物量、貨物情報、船員の訓練、貨物タンクの開閉及び出入り、貨物試料の保管、過度の熱にさらしてはならない貨物、追加作業要件
第16A章 海洋環境保護のための追加の方法 一般、運送条件、方法と設備のマニュアル
第17章 最低要件一覧 452品目の貨物対象品に対する最低要件一覧
第18章 規則の適用を受けない化学品の一覧 品目のリスト
第19章 液体化学廃棄物の洋上消却に従事する船舶に対する要件 総則、船舶の残存能力及び貨物タンクの位置、船舶の位置、貨物の格納及び焼却炉の基準、貨物移送、構造材料、タンクの通気装置、貨物タンクの環境制御、電気設備、防火及び消火、貨物区域及び焼却炉場所における機械通風装置、計器及び溢出制御、人身保護
第20章 液体化学廃棄物の運送 液体化学廃棄物の運送、化学廃液にかかる要件
 
表 2.1-2: IBC Codeの主たる要求事項
項 目 内  容
配置等 貨物タンクを他の区域から隔離し、かつ、居住区域、業務区域、貨物ポンプ室等を居住区域、業務区域等に危険なガスが侵入しないように配置する。
消防設備 貨物ポンプ室に固定式鎮火性ガス消火装置、貨物区域に固定式甲板泡装置を備え付ける。
貨物タンク室 貨物タンク及び管装置等の材料は、一般には鋼とする。特定の貨物にかかるものには、耐食性材料の使用、ライニングを義務付ける。貨物タンクは構造上独立型タンク、一体型タンク、重力式タンク及び圧力式タンクの4種類に分類し、各貨物ごとに積載することのできるタンク形式を定める。
貨物区域内の通風装置 貨物ポンプ室その他の貨物区域内にある閉囲区域等に危険なガスを十分に換気できる通風装置を備え付ける。
温度制御装置 貨物の加熱または冷却装置は貨物と危険な反応をしないものとする。
貨物タンクの通風装置 貨物タンクに過大な圧力を生じさせず、かつ、危険なガスを居住区域内等に侵入させるおそれのない通気装置を取り付ける。
計測装置及びガス検知装置 貨物タンクに備え付ける計測装置は、計測する貨物の危険性に応じ計測者に危険を及ぼさない方式のものとする。毒性または引火性のガスを発生する貨物を運送する船舶には、ガス検知装置を備え付ける。
環境制御 貨物の種類に応じ、貨物タンクをイナートガス等により環境制御する。
電気設備 引火性の貨物を運送する船舶に設ける電気設備は、火災を起こすおそれのないものであること。
保護装具等 荷役作業時の保護のための耐薬品性の保護装具を備え付ける。危険なガスを発生する貨物を運送する船舶には、ガスが充満した区画に入って作業するための安全装具を備え付ける。
損傷時の復原性 貨物ごとに運送する船型を、厳しい要件の順にタイプ1,2,3に分類し、各々の損傷時の残存要件に適合する船体構造とする。
2.1.3 IGC Code
 総トン数500トン未満の船舶を含めてすべての大きさの船舶により、37.8℃において280kPa/cm2絶対圧力を超える蒸気圧を有する液化ガス及び定められた物質を輸送する場合において、当該船舶の構造、設備等について規定しており、危規則には、第3章第2節液化ガス物質として取り入れられている。
 IGC Codeの主たる要求事項を表 2.1-3に示す。また、品名別の輸送要件を表 2.1-4に示す。なお、品名によっては、表 2.1-3に記載の要求事項ついて、特別要件が定められているものがある。
表 2.1-3: IGC Codeの主たる要求事項
項 目 内  容
配置等 船艙区域を他の区域から隔離し、かつ、居住区域、業務区域、貨物ポンプ室等を居住区域、業務区域等に危険なガスが侵入しないように配置する。
消防設備 引火性または毒性の貨物を運送する船舶には水噴霧装置、引火性の貨物を運送する船舶には固定式粉末消火装置を備え付ける。
貨物格納設備及び管装置等 貨物格納設備の材料は圧力用あるいは低温用のものとし、また、管装置は居住区域に配置しない。
通風装置 貨物ポンプ室、貨物圧縮機室、電動機室に危険なガスを十分に換気できる通風装置を備え付ける。
圧力及び温度制御装置 貨物タンクが設定圧力以上になることを防止することができる冷却装置を備え付ける。
貨物タンクの通気装置 貨物タンクには、当該タンクに過大な圧力を生じさせず、かつ、危険なガスを居住区域内等に侵入させるおそれのない通気装置を取り付ける。
環境制御 貨物に応じ貨物タンクまたは船艙区域をイナートガス等により環境制御する。
計測装置及びガス検知装置 貨物タンクに有効な液面計測装置、圧力計測装置、温度指示装置を備え付ける。毒性または引火性のガスを運送する船舶には、ガス検知装置を備え付ける。
貨物を燃料として使用するための設備(LNGのみ) 貨物であるLNGを燃料として使用するための設備は、居住区域、機関区域等に貨物を漏洩または滞留させるおそれのないものとする。
充てん限度 温度変化による貨物の膨張を考慮して定められた充てん限度を超えないように貨物を積載する。
電気設備 引火性の貨物を運送する船舶に設ける電気設備は、火災を起こすおそれのないものであること。
保護装具等 荷役作業時の保護のための保護装具及びガスが充満した区画に入って作業するための安全装具を備え付ける。
損傷時の復原性 船舶の船型を、厳しい要件の順にタイプ1G,2G,3Gに分類し、各々の損傷時の残存要件に適合する船体構造とする。
 
表 2.1-4: IGC Codeによる液化ガス物質の輸送要件
品名 国連番号 船型 独立型タンクの要求 貨物タンクの環境制御 ガス検知装置 液面計測制御
アセトアルデヒド 1089 2G 不活性化 F−T C
アンモニア(無水) 1005 2G T C
ブタジエン 1010 2G F−T R
ブタン 1011 2G F R
ブタンとプロパンの混合物 1011 2G F R
1978
ブチレン 1012 2G F R
塩素 1017 1G 乾燥 T I
ジエチルエーテル 1155 2G 不活性化 F−T C
ジメチルアミン 1032 2G F−T C
エタン 1961 2G F R
塩化エチル 1037 2G F−T R
エチレン 1038 2G F R
酸化エチレン 1040 1G 不活性化 F−T C
酸化エチレンと酸化プロピレンとの混合物(酸化エチレンの含有率が30質量%以下のもの) 2983 2G 不活性化 F−T C
イソプレン 1218 2G F R
イソプロピルアミン 1221 2G F−T C
メタン(LNG) 1972 2G F C
メチルアセチレンとプロバジエンの混合物 1060 2G F R
臭化メチル 1062 1G F−T C
塩化メチル 1063 2G F−T C
モノエチルアミン 1036 2G F−T C
窒素 2040 3G O C
ペンタン 1265 2G F R
ペンテン 1265 2G F R
プロパン 1978 2G F R
プロピレン 1077 2G F R
酸化プロピレン 1280 2G 不活性化 F−T C
冷媒ガス 3G R
二酸化イオウ 1079 1G 乾燥 T C
塩化ビニル 1086 2G F−T C
ビニルエチルエーテル 1302 2G 不活性化 F−T C
塩化ビニリデン 1303 2G 不活性化 F−T R
 
 船型の「1G」、「2G」及び「3G」は、貨物の海からの隔離及び損傷時復原性の基準を示すものであり、前述のケミカルタンカーの船型タイプ「タイプ1」、「タイプ2」及び「タイプ3」に相応する。
 なお、タイプ2G船で輸送することができる貨物はタイプ1G船で輸送することができ、また、タイプ3G船で輸送することができる貨物はタイプ1G船もしくはタイプ2G船で輸送することができる。
 ガス検知装置のFは引火性ガス検知装置を、Tは毒性ガス検知装置を、Oは酸素濃度計を、F−Tは引火性及び毒性ガス検知装置を示す。
 液面計測装置のIは密閉式を、Cは密閉式または貫通密閉式を、Rは密閉式または貫通密閉式あるいは制限式を示す。








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