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7 ミツバチ社会の構造と巣仲間認識
 ニホンミツバチのコロニーは一匹の女王蜂と一〜二万匹の働き蜂からなり、春の繁殖期にだけ、これに雄蜂が加わる。女王蜂は体重が働き蜂の三倍(二四〇ミリグラム)くらいで、産卵に専念する。一日に産む卵の数は数百〜千個程度。寿命は女王蜂が二〜三年と長く、働き蜂は約一か月(越冬期は半年)と短い(図[10][11])。
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[10]中央の大きな蜂が女王蜂。体重は働き蜂の二〜三倍くらいある
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[11]六角形の巣に卵が産みつけられる
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[12]巣房の中の幼虫。孵化後三〜四日目で与えられる餌がミルクから蜜にかわったところ
 女王蜂は雌雄の卵の産み分けができる。働き蜂が用意する二種類の巣房のうち、雄用のものは直径が一五パーセント程度大きい。女王はこの違いを識別し、大きい方には精子をかけない卵を産む。それが産卵の際に輸卵管を通過する物理的刺激で発生を開始し、雄になる(図[13][14])。雄用の巣板は春の繁殖期にだけ作られ、夏になると壊されてしまうか、貯蜜用にのみ使われる。また、受精卵なら必ず雌になるかというと、近親雄の精子で受精された卵の一部は、二倍体の雄になってしまう。このような雄は幼虫のうちに食い殺され、近親交配による遺伝子は抹殺される。
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[13]雄蜂巣房の蓋には、小孔があき、繭が露出する
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[14]左側の黒い蜂が雄蜂。雄はいっさいの働きをしない(中央左)
 「縁者びいき」があるとの報告は少なくないが、この血縁識別説には疑問がある。というのはミツバチの女王の交尾は十数回にも及ぶからである。多数の雄から得られた精子は受精時にランダムに使われるから、一つのコロニー内の働き蜂は、父親を異にする義姉妹の集合体なので、「働き蜂と女王間の血縁度の高さこそが、献身的に働く不妊雌の進化を可能にした」とのハミルトン説がうまく説明できない。また、コロニー内の遺伝的多様度がこれほど高くては、複雑過ぎて真に姉妹関係にある働き蜂を識別し、選択的に接することも困難と考えられる。
 一方、一つのコロニーのメンバーは遺伝的には“混成部隊”でありながら、他巣の蜂が蜜を盗みに侵入しようとした時には、門番蜂が激しい攻撃を加える。“巣仲間識別”は紛れもない事実である。これを可能とするため、彼らは自分たちの体表ワックスの成分、およびそこに吸着している環境臭を“読んで”、識別しているらしい。最近の私たちの一連の実験から、ミツバチはこれらの違いを触角で識別し、記憶できることがわかってきた(Sasaki et al.1998)








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