日本財団 図書館


(4)東亜酒造株式会社肥土工場
所在地 :下吉田3786-1
<店蔵>  
建築年 :明治期(ヒアリング調査によるが、昭和3年頃という説もある)
<旧郵便局>  
建築年 :昭和3年頃(ヒアリング調査による)
建築面積 :72m2
延面積 :135m2
主体構造 :木造
屋根 :瓦葺
階数 :2階
所有者 :肥土豊氏
z1022_01.jpg
▲旧郵便局正面現況
z1022_02.jpg
▲店蔵
z1022_03.jpg
▲旧郵便局背面現況
○現況
 店蔵、和洋折衷の旧郵便局、ファサードを作るかしぐねなど、さまざまな要素が組み合わされている。旧郵便局の裏側は書院造りとなっており、内部には繊細な装飾が施されている。建物は現在でも使用されており、毎日通風がなされ、大切に保全されている。
○歴史的経緯(肥土豊氏、青葉佐一氏へのヒアリング調査による)
<東亜酒造の来歴>
 肥土家の祖先は中世の鉢形城主北条氏の家臣で、豊臣秀吉の小田原攻めの後、吉田に落ちのびて地主となり、江戸時代に入って徳川家光の頃に、余剰の小作米を利用して酒造りを始めたと言われている。吉田川沿いの宿場町として水質が良く水量も豊富だったので、江戸期から明治にかけて肥土酒造と並んで「おびつ蔵」(下蔵)、そして中間の「中蔵」と3軒の酒蔵があった。
 店蔵は明治からあった建物であるが(店蔵の建築年については昭和3年頃という説もある)、その後、幾度も改修を重ねている。昭和32年の大火でもかしぐね(防火林)に守られて焼けなかった。屋根や裏側の部分は長い年月をかけて大規模に改修しているためそれほど古くはないと思われるが、表から見える部分は当時の姿を残している。この蔵は非常にしっかりと作られており、昭和26年頃、肥土氏がこの本家居宅を改修するにあたって、一坪当たり30万円の費用をかけると言ったので、大工が驚いたというエピソードが残っている。また、敷地の奥にある蔵は江戸期に作られたものがそのままの形で残されている。
 東亜酒造は太平洋戦争中、軍用機のアルコール燃料をさつまいもから製造するために軍の指導で各県に一ヶ所づつつくられた酒造会社の一つで埼玉県の酒造組合が羽生に作った会社である。その後、多くの組合員が儲からないという理由から皆撤退し、組合長であった先先代の肥土氏が経営を続けた。昭和30年代に肥土酒造を法人化するにあたり、東亜酒造と経営を一元化して名称も東亜酒造に統一した。2年前から生産は一ヶ所で行った方が経済的であるという会社の方針から吉田工場での酒造りは止めている。
<旧郵便局の歴史的経緯>
 旧郵便局は昭和3年頃に先先代の隠居所として建てられたものである。郵便局と言われているが、実際に使われたのは短い期間でその後は祖母の実家である上吉田の新井家が郵便局を引き継いだため附属家となった。当時としてはとてもモダンな建物であった。
 昭和32年の大火では、かしぐね(防火林)に守られて火の回りが遅かったため消防活動が間に合った。すぐ裏手の吉田川の水を消火に利用できたことも大きかったと想像できる。
 戦争前までは祖母が住んでいたが、先代は店蔵対面の敷地に家を建てそこを隠居としたため、その後は客間や従業員の宿舎として利用している。
z1023_01.jpg
▲昭和2年頃
○所有者の利活用への意向
 吉田の気候や水は羽生よりも酒造りにとっては優れており良い酒が造れる他、蔵を使わないのはもったいないため、羽生の工場とは別会社にすることで、良い酒のみを造る酒蔵として再開しようと考えている。また、それに併せて簡単な休憩スペースや食事スペース、試飲コーナー等を設け、訪れた人がくつろげる空間にしていきたいと考えている。
 店蔵の建築物や旧郵便局を壊すつもりはないが、手入れはしていく必要があると考えている。
 旧郵便局は現在も使用している。中の用途に差し支えない範囲で、例えば外観的な整備等、町の事業としてやりたいということであれば協力できると思う。
z1024_01.jpg
敷地図 S:1/500
z1025_01.jpg
1階平面図 S:1/150
z1025_02.jpg
▲1階広縁
z1025_03.jpg
2階平面図 S:1/150
z1025_04.jpg
▲2階障子戸
z1025_05.jpg
西側(正面)立面図 S:1/150
z1025_06.jpg
東側(裏面)立面図 S:1/150
z1026_01.jpg
北側立面図 S:1/150
z1026_02.jpg
南側立面図 S:1/150
○旧郵便局の簡易耐震診断結果
 目視では建物の劣化、老朽化はほとんど見当たらず、耐久性上の問題はない。
 平面、立面形状はほぼ整形であるが、洋室部分と和室部分で壁のバランスが良くないことと、耐力壁量そのものが少ないことから、大地震に対しては耐力不足と思われる。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION