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○鉄道整備による定量的な効果の検証
 答申第10号にもとづいた鉄道整備による評価を行うと、表 2-7-1に示すような時間短縮効果や乗換回数の減少がみられ、また鉄道利用交通量が増加する。
 これによると、鉄道乗車中の所要時間は変化しないものの、鉄道駅までのアクセス時間や乗換所要時間がそれぞれ短縮されることにより、総所要時間が近畿全域で約1%削減される。また、鉄道間の乗換回数についても、約6%削減される。
 以上のように、アクセス所要時間の短縮により鉄道不便地域の解消が図られ、乗換回数の削減ならびに乗換所要時間が短縮されたことにより、鉄道のシームレス化が図られるなど、鉄道サービスの高度化に寄与したことが挙げられる。
 
表 2-7-1 答申第10号当時から現在までの鉄道整備による効果
(答申当時の指標を100とした比)
鉄道利用者1人あたり 答申時 平成12年
  平均OD間所要時間(鉄道乗車時間) 100 100
平均OD間所要時間(アクセス) 100 98
平均OD間所要時間(乗換時間) 100 92
平均OD間所要時間(合計) 100 99
平均OD間乗換回数 100 94
鉄道利用交通量 100 102
※上記の数値は、都市鉄道調査(平成11、12年度)で用いた需要予測モデルを用いて、平成12年の現況鉄道ネットワークにおける予測結果と、同年において答申路線が未整備だった場合を仮定したネットワークにおける予測結果を比較したものである。
 
 また、答申時から平成12年までの鉄道整備により鉄道利用者に帰着する利用者便益を算出すると、表 2-7-2のようになり、鉄道整備により一定の便益が発生していることが分かる。
 
表 2-7-2 鉄道整備による利用者便益
ケース 利用者便益
(億円/年)
答申当時→平成12年 1,191
※ここで言う「利用者便益」とは、「鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル99」(運輸省鉄道局(当時)監修、(財)運輸政策研究機構発行)における費用便益分析手法に則って試算したものである。
 
 答申時から平成12年までに開業した総延長キロは約260km(単線換算)であり、ここで単純に建設費をキロあたり約100億円(単線換算)と仮定すると、表2−7−2に示した便益額の約22年間分が答申から平成12年までの建設費にほぼ等しくなり、鉄道整備による一定の費用対効果が得られていると考えられる。
 
 
○鉄道整備による経路の変化例
   ・中ふ頭→西梅田
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   ・尼崎→京橋
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※乗換時間はすべて5分として算出。
 
(2) 計画実現方策に対する評価
[1] 導入空間の確保
評価
・ 鉄道ルートの計画策定にあたり、可能な限り公共用地の地下利用を図る。
→JR東西線、阪神西大阪線延伸、京阪中之島線等
・ 他の計画との調整による導入空間の計画的な確保を図る。
→関西国際空港線、京阪奈新線、北港テクノポート線等
・ 構造物や車両の低公害化を図る。
→関西国際空港アクセス鉄道の騒音対策、車両の低量化等
 
[2] 建設費の低減
評価
・ 貨物線や不活性路線の活用、需要規模に見合った適切な規模、新技術導入も含めた経
・ 済的な施設、工法等の選択等に努める。
→大阪外環状線(貨物線旅客化)、地下鉄7号線(リニア方式)等
・ 道路事業等他事業との一体的施工によるコストの削減を図る。
→関西国際空港線、大阪モノレール、ポートアイランド線等
 
[3] 適切な建設・運営主体の選択
評価
・ 公共性を維持しつつ民間活力活用を図ることができる第三セクター方式等による建設についても検討する。
→ポートアイランド線、南港テクノポート線、大阪モノレール、地下鉄東西線、泉北高速線、JR東西線、京阪奈新線、阪神西大阪線延伸、京阪中之島線
・ 効率的な運営確保の観点から、運営主体における既存事業者の活用が望ましい。
→京都市・京阪電鉄(地下鉄東西線)、JR西日本(JR東西線)、近鉄(京阪奈新線)、阪神電鉄(阪神西大阪線延伸)、京阪電鉄(京阪中之島線)
 
[4] 建設資金の確保
評価
・ 開発利益の鉄道整備財源としての活用方策について検討する必要がある。
→泉北高速線、京阪奈新線(開発者負担金:ニュータウン鉄道)
→京阪中之島線(導入空間の調整)
・ 所要の公的助成を行うとともに制度のあり方について検討する必要がある。
→自治体による第三セクター鉄道に対する応分の出資
   ※JR東西線、阪神西大阪線延伸、京阪中之島線等
→自治体による無利子・低利長期貸付
 
[5] 需要の確保
評価
・ 需要喚起の推進を図るため輸送サービス水準の向上を図る必要がある。
→相互直通運転の推進や乗換施設の整備等による乗換不便の軽減
   ※地下鉄烏丸線・近鉄京都線、JR東西線・東海道線・片町線・福知山線
→乗り継ぎ切符の発売や情報案内サービスの提供等による乗り継ぎ利便の向上
→駅前広場整備やバス路線網の再編等によるフィーダー輸送機関との連携強化
→運行本数増、速達性、快適性向上等によるサービス水準の向上
・ 鉄道駅を活かした街づくり、学校や集客施設の誘導等による逆方向、閑散時需要の喚起等鉄道需要の喚起を図るための環境づくりに努める必要がある。
→地下鉄東西線山科駅・醍醐駅等
・ 需要の成熟に合わせた鉄道の段階的整備についても検討する必要がある。
→京阪奈新線、神戸電鉄公園都市線、大阪モノレール、地下鉄7号線等
 
[6]経営の合理化、安定化
評価
・ 経営合理化の実践に努める必要がある。
・ 定期割引率の見直し、新線における特別運賃の設定等による適切な運賃水準の維持を図る必要がある。
→大手民鉄(定期割引率の見直し)
→鴨東線、関西国際空港線(特別運賃の設定)
 
(3) 答申第10号以降における新たな課題
 答申路線についてそれぞれ整備が進められてきたところであるが、新たな課題が顕在化してきている。
 新たな課題の発生は、以下のように整理される。
 
(拡大画面: 111 KB)
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図2-7-1 新たな交通課題の発生








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