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地域医療と福祉のトピックス―その44
難聴者の社会とのつながりを取り戻す
(社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 常務理事 森 孝一
難聴者600万人!
 
 高齢化社会が進行しています。人は誰でも年をとると,聞こえが悪くなります。人の聴力は40歳を過ぎると,少しずつ落ちていきます。65歳以上の人の4人に1人は補聴器を付けているといいます。
 今日の文明社会が難聴を引き起こしている面もあります。騒音は聞こえに悪い影響を与えます。ストレスや生活習慣病,そしてある種の薬も聴力を損ないます。現代社会に生活する私たちは,ここから逃れることができません。こういうことで聞こえが悪くなった人を含めると,難聴者は600万人に及ぶといわれます。
 難聴になると,人とのつながりを失い,孤独になりがちです。これまでのように仕事を続けることは難しくなります。社会とのつながりも細くなります。家庭でもコミュニケーションに支障をきたします。私たち(社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)は,難聴者が社会とのつながりを持って生活できるよう,運動しています。
視聴者の聞こえを助ける要約筆記
 
 難聴者は聞こえが悪いので,人と会うときや会合のとき困ります。要約筆記がありがたい情報保障です。要約筆記というのは,難聴者に話し言葉を書いて伝える,いわば文字による通訳です。講演会や集会,会議の場合は,OHP(オーバーヘッドプロジェクター)の上に透明なセロハンを載せ,話し言葉を書いてスクリーンに映します。1,2人のときは,話し言葉をノートに書き,難聴者はこれを読んで話を理解します。
 前・厚生省は,平成11年4月,要約筆記奉仕員養成カリキュラムを発表しました。全難聴は,全国要約筆記問題研究会と一緒になって,このカリキュラム作成に協力したり,この講師講座を開いたり,テキストを作ったりしました。これによって各地で養成講座が開かれるようになってきました。要約筆記奉仕員の養成は,各県,市町村で行っています。各地の難聴協会が協力して,講座をしているところもあります。
 養成された要約筆記奉仕員は,県や市町村に登録され,難聴者が派遣を申し込めば来てくれます。これが普及すると,会議をしたい,人と会いたい,会議に参加したいという場合に,話を書いて通訳してもらうことができます。
テレビに字幕を!
 
 今日テレビは,日常生活の中でタイムリーに情報を提供し,居ながら娯楽を楽しませてくれます。しかし聞こえが悪い人にとっては,動く絵の箱にすぎません。現代の最も便利なメディアの恩恵に浴することができないのです。残念です。
 私たちは,テレビに字幕を付けて欲しいと要望しています。1997年には,40万5千人の字幕放送拡充請願署名を国会に提出しました。こういう運動により,2007年までにすべてのテレビ放送に字幕を付けるという国の目標が決まりました。
 しかし現在字幕放送が行われている番組は, NHK総合が19.8%,民放総合5局3.3%です。特に民放は字幕番組が少ないです。これでは,2007年までに全部の番組に字幕を付けるという目標は,達成できません。私たちはもっと増やすよう要望しています。字幕放送を義務化して欲しいと運動をしています。それで総務省は,字幕番組を増やすようテレビ局に要望しています。
耳マークの普及
 
 難聴者の体験談によく出る話があります。…病院の受付で呼び出しを待っているが,なかなか名前を呼ばれない。いつまで待っても呼ばれない,ついに最後の1人になってしまう。それでも呼ばれないので,「名前を呼ばれない」と申し出ると,「前に呼んだけれど返事がなかった」といわれる。…難聴者は皆経験があるのでうなずきます。
 ろうの人は,手話で話しますから聞こえないことがわかります。難聴者は,よく聞こえなくても話し言葉で対応しますから,相手に聞こえると思われてしまいます。「難聴だ」と告げても,音声で会話をする人は聞こえる人と思われてしまうということです。聞こえが悪いことが外見では分からないので,無視されてしまうのです。
 難聴者のことを知ってもらうために,私たちは「耳マーク」というものを作りました。「耳マーク」は,「手招きなど合図で知らせて下さい」,「はっきりとゆっくり話して下さい」,「筆談でお願いします」と訴えています。耳マークを付けている人に会ったら,よろしくお願いします。
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 また耳マークの普及をお願いしています。病院や役所,銀行などの受付に,耳マークを表示していただきたいのです。そして難聴者がきたら,筆談で対応していただくようお願いします。病院では,カルテなどの書類に耳マークを付け,診察のときにはお医者さんにゆっくりとはっきり話していただく,筆談をしてもらうようお願いします。耳マークの理解が広がると,難聴者は病院,役所,銀行などにも,安心して行けるようになります。
すべての難聴者の聞こえを助ける
 
 難聴者の数は600万人ですが,聴覚障害者と認められているのは,ろう者を含めても35万人です。多くの難聴者に福祉の手が及んでいません。今は70 dB以上の音が聞こえない人,重度と高度の人だけを聴覚障害者と認めます。しかし50dBの人も,電話が聞き取れないし,会議の話がわかりません。中度,軽度の難聴者も補聴器や聞こえを助ける電話が必要です。働けるように仕事を保障すること,社会参加を助けることが必要です。難聴者が社会参加できるような環境を整えるように全難聴は運動しています。
社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(略称 全難聴)
〒162-0066 東京都新宿区市谷台町14番地 MSビル市ヶ谷台1F
電話 (03)3225-5600 FAX(03)3354-0046








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