日本財団 図書館


天からの贈り物−第94回−
野村 祐之(青山学院大学講師)
地球村、食事のマナー(2)
 今年のカーニバルは、リオでもベネチアでもニューオーリンズでも2月26、7日迄でした。
 そして翌28日から、世界中の多くのクリスチャンが自省と禁欲的な生活に入りましたが、これは4月半ばまで続けられます。
 カーニバル自体はキリスト教の行事ではありませんが、その日程は教会の暦に従って決められるため、全世界で同じ時に祝われるのです。
 でも、リオのカーニバルじゃみんな裸に近い真夏の格好で踊ってたよ、というのは大正解。ブラジルは南半球にありますから北半球とは季節が逆転し、2月は暑い夏の盛りというわけです!
 カーニバルが明け、2月28日に始まった今の期間は「レント(四旬節または受難節、大斎節)」と呼ばれ、キリストの受難と十字架に思いを馳せて、自分の生活を顧み自省して心を整える、教会にとって一番大切な季節なのです。
 今年は4月14日まで続くレントですが、この間、断食を続ける人も多くあります。断食といっても飲み物以外口にしない断食ではなく、肉は食べないとか、好きなチョコレートやケーキを我慢するとか、贅沢や御馳走をひかえるといった「断ちもの」をするのです。
 僕がジュネーブの世界教会協議会に勤めていたときには、レントになると食堂に行かず、特別に用意された別室で昼食をとる人も少なくありませんでした。
 別室の入口にはバスケットがあり、そこへ普段の昼食代理店のお金を自主的にいれ、セルフサービスでランチをとりますが、食卓に準備されているのはパン、チーズ、りんご程度。飲み物は水のみです。
 バスケットのお金は世界の飢餓対策のために捧げられます。
 先進国では食べ物が美味しいかまずいかが問題であり、まずいものや食べきれなかった分はゴミとして捨てられます。
 しかし人間の半数近くの人達にとっての問題は、今日、食べ物が手に入るか、子供にひもじい思いをさせずにすむかどうかなのです。
 こういうことは知識として分かってはいても、なかなか実感が伴いません。レントはそういったことへの思いを深める時でもあるのです。
 もっとも別室のランチで毎日顔をあわせる若い秘書に感心したら、「春先この時期にダイエット始めると丁度いいのよね、夏に向けて」とのこと。まあ心の思いは人それぞれでいいのでしょうが。
 それはともかく、世界がますますグローバル化する現在、食糧の自給率が4割を切る日本で、政府の「食品ロス統計」によれば家庭で購入した食料の1割近くが手付かずで捨てられているそうです。
 こうした現実の前で、レントの伝統は今まで以上に深い意味を持ってきているのではないでしょうか。
 教会暦の伝統では、レントのほかにもクリスマス前の40日間(待降節)にも断食を守ります。
 また、クアトル・テンポラ(四季の斎日)といって、年に4回(6月、9月、12月、そしてレントの第1週目)の断食を守るという古い、古い伝統があります。
 このクアトル・テンポラのとき、ポルトガルでは肉のかわりにワカサギのような魚をオリーブ油で揚げて食べる習慣がありますが、これがキリシタン宣教師によって日本にもたらされ「テンプラ」と呼ばれるようになったと思われます。
 天麩羅は本来、魚の揚げもので、野菜は「精進揚げ」と呼びます。
 広辞苑の「テンプラ」の項を見ると、この呼び名は元来「ポルトガル語。斎時の意」とあります。
 キリシタンを苛酷に迫害し禁制とした徳川家康はテンプラが大好物で、鯛のテンプラに当たって死んだという説には歴史の皮肉が込められていたのでしょうか。
 聖書によれば、キリストが十字架上で息絶えたのは金曜日。そのため金曜日には肉を食べないという習慣は、今でもカトリックの方々の間に残っています。
 レントが終わると待ちに待ったイースター(復活祭)がきます。
 キリストが復活されたのは三日後の日曜日の朝のこと。それを記念して世界中の教会は日曜日の朝、礼拝を守っているわけです。
 今年の復活祭は4月15日。ヨーロッパやアメリカの人達が心から春到来の喜びを実感する日です。
(つづく)








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION