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 Case Managementは米国看護協会によれば,「包括的でQOLを向上させる質の高い健康管理(Quality Health Care:QHC)を,費用を勘案しながら供給することを目的とし,効果的に効率よく,かつ,費用効果比に基づいて供給される論理的な医療供給のプロセスであって,入院から退院までの患者のすべての問題に焦点を当て,タイミングよく適切に医療を遂行する方法を促進するものである」と定義されている(1988)。しかし,現在では単に入院中だけでなく退院後も引き続いてコミュニティナースがプライマリ・ナーシングとして行われるケアも含めて述べられるのが普通である。ケアのスタンダードやプロトコルはこれまでに得られている結果(アウトカム)から決められ,患者のアウトカムとプロトコルはクリティカルパスやタイムライン・プロトコルに集約されており,そこでは適切な入院期間を達成するために設定された時間内に生じ得る主要な予測可能な緊急事態が明示されている。クリティカルパスでは必要となる治療,薬物,標準のケア,そして,患者のあるべき状態が各ケア日ごとに示されている。そして,ケースマネジメントのゴールは,
(1)予想され,標準化されたアウトカムの達成,
(2)医療を共同化し,調整し,そして,継続を促進し,
(3)医療資源を適切で無駄なく利用し,
(4)適切な入院期間内での可能な限り早い退院をめざし,
(5)医療者の職業的進歩と職業的な満足度を高めることにある。ケースマネジメントのモデルは図5に示すごとく統合されたケアは縦のヒエラルキーではなく,平面上の関連にあって中心にケースマネジャーとしてのナースと患者が位置し,周辺より供給される医療資源を効果的に適時選択していく。
 このようなケースマネジメントは入院患者で行われることは当然であるが,これを地域医療へ拡大する試みが報告されており,地域医療→入院→退院→地域医療のサイクルのなかで統合した医療が可能となる。老人医療におけるキーワードをまとめると,包括的医療,チーム医療,ケースマネジメント,急性期ケア,慢性期ケア,病院,老人施設,ホームケアとなるが,脆弱老人(frail elderly)にとって医療システムを効果的に利用するには支援が必要であるとするコンセプトにもとづいてケースマネジメントが行われ,これが生涯を通じて効果的に継続管理されるには,ナースによって果たされるケースマネジャーとしてのコーディネーターの役割が重要である。ナースは患者や家族を評価し,他の医療者によるケアを計画して実施させ,また,直接ナーシングケアも行いながら,チーム医療を調整し,経過観察するとともにアウトカムをモニターする。このように,ナースは患者のそばにいて患者とともに機能するが,同時に入院の際には急性治療チームの一員としても重要な役割を果たす。
 したがって,ケースマネジャーとしてのナースの役割をまとめると,直接には健康教育,カウンセリング,健康モニター,外傷(転倒)の予防,自立の支援,患者の弁護,静注,服薬,更衣などの医療行為,そして,間接には他の医療者や生活支援者への紹介,他の社会的関わりへの援助(予約や輸送の手配)など多くの対社会的なサポートも行う。したがって,ケースマネジャーとしてチーム医療への関わりをまとめると,
(1)主治ナースとしての役割
(2)患者の健康に関するすべての基本情報を有している
(3)主治医や他の医療者チーム,サービス供給者と常にコミュニケーションを保っている
(4)退院計画の促進に重要な役割を果たす
(5)退院後の経過観察プランを作成し,実施するといった機能を有する。
 このようなことからCommunityにおけるケースマネジメントの有用性をまとめると,下記のようになる。
(1)患者の健康や社会的状態を事前に認知している
(2)非常事態の際に安定時に築かれた信頼関係が役立つ
(3)病院との垣根がなくなる
(4)継続した医療を可能にする
(5)診療録へのアクセスがよく,患者情報をケアに生かすことができる
 わが国の医療において最も欠けている部分の一つである医療の継続性が,このようなケースマネジメントの方式を取り入れ,かつ医療に対する医療者の基本的な意識の改革を通じて,一日も早く改善されることを望んでやまない。








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