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(3)これまでの成果
 KSPは雇用創出という点では、建設前の工場の雇用者200名に比べ、20倍に相当する4、000名以上の雇用を生み出すとともに、多くの研究者・技術者の集積を形成している。さらに、インキュベート施設では、1998年時点で146社(うち72社が卒業)。1998年時点で、入居中のスタートアップ企業56社の従業員数は約450名、売上総額は約100億円に及び、1社平均では従業員数8人で、売上1.8億円だったことをもとに推計すれば、10年間で約1、000名の雇用、220億円以上のビジネスを創出したことになる(図5参照)。
図6 インキュベーター卒業企業の退去理由
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出典:久保孝雄編著「知識経済とサイエンスパーク」日本評論社
 さらに、インキュベートされたベンチャー企業は、原則5年、最大でプラス2年以内に卒業していくことになるが、1998年時点で卒業した57社(現在は72社)について追跡調査したところ、引き続き成功している企業が3分の1、なんとか現状を維持している企業が3分の1、失敗企業が3分の1という結果であり、かなり高い比率であるといえる(図6参照)。ただ、そのスケールをみるとシリコンバレーなど世界各地での実績にはほど遠いというのが実情だといえよう。 

(4)今後の課題
 大きな成功をあげているKSPではあるが、今後の課題としては以下のものがあげられよう。
 [1]起業家の評価の問題(インキュベーションマネージャー)
 当初は、「厳重審査、濃厚支援」とう方式をとっていたが、これを「簡易審査、途中評価、段階支援」へと方式を改めていった。こうした変更を経て、現在では「創業カウンセリング」から始め、ビジネスプランにまとめてもらう中で、「シェアードオフィス」に入居してもらう方式に変更している。こうした方式を推進するうえでは、技術も経営も分かる、インキュベーションマネージャーの問題が一番大きい。実際、技術もわかり、マーケットの知識もあり、アントレプレナーからも信頼される人、こういう人は少なく、今後いかにこうした人材を育成し、発掘していくことができるかが課題である。
[2]起業家の発掘
 KSPは、これまで、起業家が門をたたくの待つ「待ち」のインキュベータであったが、今後これまでの成果を踏まえつつ、さらに成功率を高めていくためには、起業家を発掘していく積極性が必要であると言える。今後、21世紀へ向けて、成長産業は何か、地域の特性を踏まえた成長産業は何かといった戦略を持つことが必要であり、このためには、自治体などともに、地域の産業政策を考えていく視点を取り入れなくてはならない。
[3]起業家へのフォロー
 (株)KSPのインキュベータは起業家の入居期間を原則5年、最大7年としているが、時代の変化の早い現代においては、少し長すぎる感も否めない。適切なフォローを行いながらも、適宜評価を行い、入居企業の活性化を図っていく視点も取り入れる必要性が高い。
[4]公設民営ヘ
 インキュベーション事業を始め産業振興策は、そのほとんどがスタート時点においては、リスキーで先端的な事業であるものが多く、行政主導、特に自治体主導でやる必要があると考えられるものの、自治体からの出向人事などでは産業構造の転換や素早い動きに対応できない側面も否定できない。このため、行政は税制、金融、人材育成に力を入れるべきで、「公設民営」といった思想を取り入れていくことが望まれる。 

2 マイコンシティ
(1)概要
 「マイコンシティ」は、川崎市麻生区の小田急多摩線黒川駅から南西に徒歩5分〜10分の栗木地区(パートI)と同線黒川駅北側に接した南黒川地区(パートII)の2地区に展開されているマイクロコンピューター関連企業等の集積である。東京都心部や京浜地区に立地する企業、羽田空港や成田空港へのアクセスの良さ、緑の多い牧歌的なイメージなどの立地特性を活かしてエレクトロニクス関連企業の集積を計画的に進め、情報発信の先進基地として事業展開をしてきたものである。 

(2)経過
 マイコンシティ計画は、オイルショック以降、主要産業が停滞し地域活力が後退している時期に、「先端技術を中心として、地域産業の活性化を目指す視点に立って、本市産業を生産機能から研究開発・試作機能へ、基礎資源型から電気機械産業を中心とする付加価値の高い産業へと転換し、研究開発都市として成熟すべき」との「川崎市産業構造雇用問題懇談会」(昭和54年11月設置)答申を受けたものである。最終的に、「マイコンシティ開発構想」は、昭和56年2月に高度研究開発・生産都市への展開を図るため、地域環境に適したマイクロコンピューター関連の研究開発及び試作機能を誘導するものとして発表された。 

(3)事業内容
 事業は、区画整理手法を用いてすすめられ、組合の施行区域全体44.23haのうち、マイコン企業用地として17.37ha、その他は、住宅用地や農用地等となっており、9.06haを川崎市が区画整理組合から取得し進出企業に分譲(32区画)する一方、残りが地権者の分譲(19区画)となっている。これに先行して、事業展開を行った南黒川地区は、3.1haを研究開発施設用地として分譲(10区画)している。
 また、マイクロコンピューター関連の研究、開発、試作機能等の集積を目指しているので、用途地域は準工業地域に指定している。さらに、研究・開発地区にふさわしい快適な環境と良好な景観を形成し保全することを目的として、研究開発施設地区と関連施設地区に区分し、建築物の用途の制限、敷地面積の最低限度などが地区計画で定められた。
 そして、立地企業数及び従業員数は、従業員数11、500人、企業数60社に及ぶ一大研究開発団地の形成をめざした。 

(4)成果と課題
[1]パートIIの成功
 先行してすすめられた南黒川地区(パートII)については、バブル経済の崩壊など景気低迷の影響を受けることなく、事業がすすめられた結果、10社の入居がすぐに決定し、800名に及ぶ雇用創出された。エニックスなど日本を代表するソフトウェア関連企業は、入居後の活動を通じて、本市の産業に大きく貢献してきたといえる。
[2]パートIの課題―未分譲用地とこれまでの成果
 一部地権者の未同意等により、計画の推進が遅れた栗木地区(パートI)については、平成7年度から分譲を開始したものの、平成11年度までに32区画中9区画の分譲に止まっていた。この間、価格引き下げや進出企業の業種拡大等を講じたにもかかわらず、地価の下落による実勢価格との乖離等により、計画が思うように進展しない状況となっていた。このため、平成12年度には実勢価格で分譲することを決定し、入居企業が拡大した。
 これまで、10社が操業中、2社が建設中となっており、すでに650名の雇用を生み出している。現在、映像産業関連企業が関心を示しているものの、IT不況の中で、入居企業の拡大が鈍化しており、新たな企業分譲の展開が急務となっている。
[3]他の産業振興政策との連携
 細長い本市の中で、マイコンは北の端で行われているとの感も否めず、KSPや後述する新川崎創造のもり事業との連携を図っていくことが新産業の育成の視点、さらには入居企業の拡大の点からは必要であるといえる。
 
3 エコタウン構想
(1)事業の概要
 川崎エコタウン構想は、臨海部約2、800haをエコタウン地域と位置づけ、新たに立地する企業や従来より培われた既存事業所の高い環境関連技術の蓄積を活かすとともに臨海部のインフラストラクチャーを最大限に活用し、産業の活性化と資源・エネルギーの循環利用、廃棄物削減への取組みを進める産業政策と環境政策の融合を図ることを目的としている。
図7 エコタウンのプログラム概要
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 川崎エコタウンの基本方針と事業推進のプログラムの概要は、図7のとおりである。
これらの事業展開とともに、エコタウン地域内での資源循環をより具現化するために、表3に示したりサイクル事業導入の可能性について検討を行っており、このうち使用済みプラスチックリサイクルのプラントは平成12年4月、廃家電リサイクルは平成13年4月より事業を開始しているほか、現在、新たにいくつかのリサイクル事業について検討を進めている。また、川崎エコタウン構想の象徴的核施設として位置づけられているゼロ・エミッション工業団地の建設については、一部国の特殊法人である環境事業団の制度を活用して進めているものであり、進出企業は金属加工・製紙・鍛造・めっき・プレス・ガラスリサイクルなどの中小企業17社で平成13年度中の操業開始を予定している。
表3 リサイクル事業導入可能性検討事業
 ・飛灰の灰水洗処理法によるセメント原料化マテリアルリサイクル
 ・エコセメント原料化マテリアルリサイクル
 ・使用済みプラスチックリサイクル
 ・廃家電リサイクル
 ・溶融スラグ化によるマテリアルリサイクル
 ・高温ガス化直接溶融炉によるケミカルリサイクル
 
(2)期待される効果、今後の課題
[1]地域総体での循環システムの構築
 ゼロ・エミッションを基本コンセプトとしているため、企業間の連携を通して、工業団地では、事業活動に投入される原材料やエネルギーの削減と生産や流通工程から排出される排出物・廃棄物を可能な限り抑制・再利用・再資源化し、環境調和型の団地づくりに積極的に取組むこととしている。しかしながら、さらに一歩進んで工業団地内でのエネルギー・資源循環にとどまることなくエコタウン地域全体を視野に入れた周辺立地企業とのリンケージの構築に向けた取組みを進めているところである。具体的には、製紙業から排出されるペーパースラッジは、焼却され廃熱エネルギーの再利用を図るとともに、焼却灰は地域内のセメント工場の原料として再資源化することや廃プラスチックを製鉄工程でのコークス代替原料(鉄鉱石の還元剤)として活用すること、金属クズは鋳物原料として再製品化すること、生ゴミはコンポスト化して団地内の緑地に施肥するほか蒸気エネルギーや公共下水処理場の処理水の生産工程での循環活用などを進めることとしており、ゼロ・エミッション活動を通し環境負荷の最小化を目指す先駆的な工業団地づくりに取り組んでいる。
[2]低コストシステムの構築
 事業ベースでの課題としては、資源供給の仕組みづくり、技術開発によるコストの低減や新システムの確立、再生品の用途開発や市場性の確保、環境マインドの醸成など今後取り組むべき課題は山積しているが、今後これらを含めエコタウン地域全体として環境に調和した産業活動のあり方などを研究・協議していく場として立地企業や研究機関などの参加による協議体を立ち上げることを予定しており、こうした活動を通じ、連携関係が構築されることで、課題解決とともに新たな技術開発にも貢献すると考えられる。
[3]新事業創出への波及効果
 ゼロ・エミッション/エコタウンの原点は資源循環であるが、そこで循環される資源は通常の原料や財とは異なり、廃棄されてしまうものであることから、問題の解決は容易でなく、企業間の連携を密にしていくことが不可欠である。ただ、石油化学など装置型産業が主要な産業の一つである川崎臨海部の産業群では、企業立地の始まった時点から、様々な形態をとりつつも、資源循環が行われていたといえ、こうした視点を踏まえれば、これまでのノウハウを活用しつつ、ゼロ・エミッション活動を通した新しい取組みによって新たな産業構造による企業連関や環境技術の研究を確立していけば、新事業の創出や雇用の拡大も期待されるところであり、これが市内の産業や市民生活に波及し、資源循環型のまちづくりを具体化していくといえよう。








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