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「千葉市における都市型新産業創出方策」について
 千葉市 企画調整局 政策調整課
 課長 栗原 裕夫
I 現状分析 
1 千葉市の経済動向 
 本市の経済は、平成3年度以降、実質経済成長率が平均して1.2%、平成9年度及び平成10年度には連続してマイナス成長を記録するなど、長期にわたって低迷を続けています。市内の事業所数も、平成3年度をピークにして全産業において減少し、従業者数も、平成8年度を境にして減少に転じています。
 事業所の開廃業率は、平成8年度から平成11年度にかけて、開業率が5%、廃業率が7%と、2ポイントも廃業率が上回っています。ここ数年は100件前後の企業倒産が続いており、平成12年には負債総額が過去最高を記録するなど、事業環境が悪化しています。また、有効求人倍率が国の水準を下回り、1倍を大きく割り込むなど、雇用環境も悪化しています。
 製造業を見た場合、平成8年度から平成11年度にかけて、開業率は2. 1%、廃業率が6%と事業所数の減少が顕著で、実に7千人以上もの従業者数が減少しています。市内総生産額に占める製造業の比率も減少傾向にあります。
 本市は、臨海部の埋め立てにより、鉄鋼・電力を中心として発展が進み、食品コンビナートをはじめ、内陸部における鉄工業団地が形成されるなど、製造業を基幹産業として成長を続けてきました。
 しかし最近では、サービス業の市内産業に占める割合が伸びてきており、特に、情報関連産業は新たな集積が進み、事業所数で約120社、従業者数で1万人以上もの規模に拡大するなど、本市の産業構造は大きく変化しつつあります。
 千葉市の人口は、バブル景気以降、一時期はかなり増加率が低下したものの、一貫して増加を続けており、最近4年間は人口にして毎年8千人前後、平均0.9%の伸び率となっています。
 また、本市の人口構成は、全国と比べて生産年齢人口の割合が高く、少子高齢化の進み具合も緩やかなものとなっています。しかし、今後は全人口に占める老齢人口の割合の増加と年少人口の減少により、急速に少子高齢化が進行していくことが予想されているところです。

2 千葉市における地域産業資源の蓄積状況 

(1)千葉市の立地条件
 本市は、首都圏東側に位置し、東京湾に面した19kmにおよぶ海岸線をもち、大都市でありながら、内陸部は緑豊かな丘陵地域となっています。
 総人口は全県の約15%を占める89.5万人(H13.10.1現在)、市域面積約272.08km2を擁し、平成4年に全国で12番目の政令指定都市となっています。都心まで約40km圏、関東地域の新たな交通網である東京湾アクアラインまで約30km、新東京国際空港まで約30kmと至便な地理的位置にあり、高速交通体系、鉄道網が整備されているほか、国内屈指の貨物取扱高を誇る「特定重要港湾」千葉港を有し、首都圏はもとより、海と空の両面から海外を視野におさめることができるなど、新産業・事業活動にとっては極めて優位な位置にあります。
 また、本市は、業務核都市として、首都機能の一翼を担う「千葉都心地区」、先端成長産業の中枢業務・研究開発・高度学術教育機能等の集積を促進する「幕張新都心地区」を擁しているほか、臨海部の未利用地の活用・整備による新産業導入を目指す「蘇我副都心地区」など、地域の特性を活かしたプロジェクトを推進しており、これらの中で、地域産業資源を活かした都市型新産業創出の支援に取り組んでいます。 

(2)千葉市の産業集積
 臨海部においては、京葉工業地帯の一翼を担う鉄鋼・電力・食品等の素材型工業集積が形成されています。これら「臨海部地区」の産業集積は、高度な環境・リサイクル・新素材分野をはじめとした新規産業分野への進出を活発化させており、これら鉄鋼等の大手企業・関連企業が保有する特許を市内中小企業・創業者へ移転する取り組みや、退職者による特殊技術を活かした創業の事例もみられるなど、都市型新産業創出のポテンシャルが高まってきています。今後、長期的には、蘇我副都心地区において環境技術産業集積の拠点整備を目指しているところです。
 内陸部においては、「千葉鉄工業団地」での一般機械・金属加工型工業集積があり、主要な中堅企業等では、新技術・製品開発型企業への転換をはじめ既存製造技術を活用しつつ、環境関連、医療・福祉関連等での新技術・製品開発への取り組みが進められています。これらの産業集積と関連した基盤技術型企業の中には、オンリーワン企業が存在するほか、既存技術の高度化から新分野への取り組みに対する意欲が高まっています。
 幕張新都心地区では、情報関連の大手情報・通信産業の業務・研究機能が集中的に集積しており、ソフト・コンテンツ・ネットワーク等の最先端の情報系ベンチャー企業や創業・起業家が集結しつつあります。これにより、幅広い情報関連産業の集積が確立され、さらに、京葉線沿線、千葉中心市街地に広がる情報サービス産業等の集積が形成されつつあります。
 このように本市においては、戦後の臨海部における分厚い工業集積の形成を契機として、内陸部・都心部にわたる新たな産業集積が形成されつつあり、これらの産業集積のもつ技術蓄積や新分野進出への取り組み等を最大限に活かした都市型新産業創出を図ることが重要となっています。

(3)千葉市の研究機関の集積
 市内及び周辺地域には、多くの大学・短大が立地しており、総合大学である国立千葉大学(9学部)をはじめとして、社会システム工学全般の研究開発行っている千葉工業大学等の理工系大学、経営情報に特化した東京情報大学、地域総合研究所を有する千葉経済大学、千葉商科大学、敬愛大学等の社会科学系大学が立地しています。
 特に、千葉大学では、「共同研究推進センター」、「電子光情報基盤技術研究センター:ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー」に加え、新たに「産官学連携推進室」が設置され、理工系・社会科学系両面からの産学連携促進の体制づくりが進みつつあります。
 本市には、千葉県の「工業試験場」、「機械金属試験場」等の公設試験研究機関をはじめとして、臨海部における大手民間研究機関、技術開発部門、技術センター等、幕張新都心地区における情報系の大手民間研究所・業務施設が立地しています。また、内陸部の「千葉土気緑の森工業団地」では環境・素材・石油・電力等の研究所及び高度な技術支援サービス部門が立地しているなど、市内に20以上の民間研究所・研究開発部門が集積しています。
 したがって、本市では、これらの大学、民間研究機関等の研究機関の集積による新事業シーズを、産学官連携や企業間交流等を通じて、企業ニーズとのマッチングを図り、都市型新産業創出に向けて有効に活用していくことが必要となっています。

3 千葉市における都市型新産業創出促進の方向性

(1)都市型新産業創出に向けた取り組み
 経済のグローバル化・情報技術革命などにより、国を超えたボーダーレスの経済活動が活発化し、一地域であっても世界経済の影響から全く無縁でいられる状況ではなくなっています。また、働く場が減少しながらも人口が増加し、さらに少子高齢化が進行するという本市の経済状況を鑑みると、国内・世界経済の動向を見据えた施策を図ると同時に、地域に根ざした内発的な経済活動を確保していく必要があります。
 このような中で、都市における経済活動を活性化し、活力ある地域経済社会を構築していくためには、市内における既存企業の新分野進出や成長力のあるベンチャー企業への支援、さらに、新たな経済主体となる創業の支援といった、いままでとは違った新たな取り組みに対して重点的に支援し、都市型新産業の創出を促進していく必要があります。
 千葉市は、平成11年度に「千葉市新総合ビジョン」を策定し、産業振興を通じたまちづくりの進展のために、市内既存産業の研究開発力を高め、多くの新技術・新製品の開発を支援するとともに、地域の新しい産業や次世代をリードする産業を創出する施策を展開していくことを基本方針としました。そして、施策展開として、都市型新産業の創出に取り組む企業の支援や、ベンチャー企業の育成を行う専門の組織を設立することに加え、地域産学官の連携による「都市型新産業創出支援体制の整備」を掲げました。
 平成12年度には、「千葉市新総合ビジョン」の実施計画である「千葉市新5か年計画(平成13〜17年度)」を策定し、新総合ビジョンの実現に向けて、都市型新産業創出支援事業を実施していくこととしました。
 平成13年4月1日には、千葉市における産業振興のための中核的な支援機関として、(財)千葉市産業振興財団を設立し、事業者の経営革新及び都市型新産業創出の促進を支援する様々な事業を展開しています。 

(2)都市型新産業創出促進の基本方向
 これらの状況を踏まえ、今後の本市の都市型新産業創出促進の方向性として、本市の特性を活かし、次の3つを基本方向を目指すこととします。 

ア 新技術・製品開発等の競争力のある都市型新産業創出の促進
 本市の産業支援機関である(財)千葉市産業振興財団は、事業者の経営革新及び新事業創出の促進に資する支援事業を行うことを目的として設置されています。これまでの市内中小企業への支援にとどまらず、市内企業の技術開発の支援はもちろん、企業の分社化、スピンオフによる創業など、新技術・製品開発力を重視した競争力のある地域ベンチャー企業や製品開発型企業の創出・振興もターゲットとしています。
 今後、本市における経済活動の活性化に寄与し、それを牽引できるような先導的・先駆的な役割が期待される新技術・製品開発を支援し、競争力のある都市型新産業の創出を促進していきます。 

イ 円滑な「事業化」に向けた都市型新産業創出の展開
 本市では、平成13年度にインキュベータ施設を整備するとともに、その他の支援事業と合わせて、創業支援を行っていますが、立ち上がり期だけにとどまらず、様々な事業段階に応じて、一貫した支援を一層強化・充実していきます。
 さらに、今後、中小企業やベンチャー企業等が、市場ニーズにあった「都市型新産業」を展開し、地域経済の主体として健全に成長していけるように、創業の支援に加えて、新技術の技術開発から、その開発成果の量産化やサービスの提供、新たな市場開拓・販路拡大、経営基盤の確立等に至る「事業化過程」を一貫的・継続的に支援することを目指します。 

ウ 産・学・官の連携による事業環境の形成
 都市型新産業創出のため、地域に存在する様々な産業資源を効果的に結びつけることで、それぞれ独自の資源・ノウハウを十分に発揮し、かつ、相互補完できる総合的な事業環境の形成を目指します。
 特に、市内・外の理工系・社会科学系の大学・研究機関等との幅広い連携により、その研究成果及び人的資源を都市型新産業創出のための地域産業資源として、有効活用していきます。
 さらに、優れた民間専門支援事業者における事業ノウハウを十分に活用するとともに、その民間専門支援事業者の育成・振興を推進することにより、市全体の事業環境の向上を図っていきます。

(3)都市型新産業創出を目指す「重点分野」
 本市における都市型新産業創出の促進に向けて、都市型新産業創出に意欲のある企業・事業者、創業者が目指している事業分野のうち、特に発展可能性の高い「情報通信関連分野」「環境関連分野」「医療福祉関連分野」「新製造技術関連分野」の4つの事業分野を「重点分野」として設定することとします。

ア 情報通信関連分野
 本市では、幕張新都心を中心に臨海部にかけて、大小様々な情報関連企業が集積しています。その中では、ソフトウェア・プログラム作成・開発から、コンテンツ制作、インターネット関連技術、画像処理関連技術等の最先端の情報技術等を用いた活動が展開されており、多様な市場・適用分野において、急速に情報ベンチャー企業や新たな創業者が輩出されつつあります。
 このため、今後、これらの情報関連のベンチャー企業のクラスター化及び創業・ベンチャー予備軍の育成支援を進めることで、様々な領域にわたり都市型新産業の創出促進を図っていきます。 また、有能な情報処理技術者・クリエーターや経営ノウハウをもつ起業家を育成支援するため、企業間・産学官の連携による支援事業を展開し、情報関連産業の新たな集積を促進していきます。 

イ 環境関連分野
 本市内には、ISOをはじめ環境・素材技術コンサルティング、高度検査測定サービス力のある有数の技術開発支援型企業が複数立地しており、すでに、鉄鋼関連企業では、その高い技術力の蓄積を活かして、幅広い環境関連・新素材関連分野への取り組みが進められています。他の市内企業にも環境関連分野への進出を図ろうとする動きが活発化してきていることから、これらの企業と大学や研究機関を含めた技術開発支援企業とのマッチング、技術シーズの発掘・移転など、地域産業資源を活用した支援を展開し、新事業の創出を図っていきます。 

ウ 医療・福祉関連分野
 本市においては、現在の高齢化率は必ずしも高くないものの、今後は高齢化率が急速に上昇することが予想されており、少子高齢化が大きな地域課題となっています。医療・福祉関連分野における多様な技術、製品、サービス等の充実は強く求められており、この分野での都市型新産業創出の促進を図っていく必要があります。
 この分野における中小・中堅企業の「集積規模」は大きくないものの、本市には福祉介護機器、バイオ関連で独自の技術・販売ノウハウをもって創業したベンチャー企業や、医療・衛生等のニッチ分野においてユニークな中堅・中小企業が存在しています。
 また、市内の新製造技術関連分野の企業から、この分野への進出・新規参入のニーズが多く見られています。
 このため、今後、長期的な視点から、市場ニーズの把握・技術開発から市場化に向けた総合的な支援を行い、都市型新産業創出の促進を図っていきます。 

エ 新製造技術関連分野
 本市においては、臨海部・内陸部における工業集積はもちろん、特定の分野で優れた技術開発や新製品開発を行っている製品開発型企業が集積しており、それらの中には、国内・外におけるニッチ・トップ企業やオンリー・ワン企業などのユニークな中堅・中小企業も点在しています。
 これらの集積は、他の重点分野である「環境関連分野」「医療・福祉関連分野」への進出の主体ともなっており、基盤的な役割を担っていることから、今後とも、新技術・新製品の開発の支援、その商品化や市場進出の支援等までを展開していきます。 

 千葉市は、人口約90万人を擁し、首都圏の一翼を担う都市の一つであります。このような本市の立地環境の特性を活かした新技術・新製品・新サービスを生み出す取り組みに対して積極的に支援することによって、都市のアメニティを向上させていきます。 








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