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2 バリアフリー化に向けた具体的な対応の方向性
 バリアフリー化に向けて取り組むべきさまざまな項目は、1)新船導入、ターミナル新設・大改良時に対応すべきもの、2)既存の船舶・ターミナルの改造によって対応すべきもの、3)主にソフト面での対応によって対応すべきもの、の3つに分類して考えることができる(表3参照)。
表3 バリアフリー化の対応の方向性
  1)新設時
対応
2)改造
対応
3)人的
対応
ターミナル内 通路 出入口の段差解消・自動ドア化
通路幅の確保・段差解消
昇降設備の設置
情報
提供
誘導ブロック・点状ブロック
視覚情報提供設備
音声情報提供設備
標識設置
案内板・点字案内板
便所 車いす対応便所
手すり設置・腰掛便座・段差解消
  券売所の車いす対応


休憩設備
車いすの貸出    
介助体制の整備    
案内・介助ボランティアの配置    



ボーディングブリッジの設置  
タラップの幅の確保・段差解消・手すり設置
出入口幅の確保・段差の解消
車両区域の幅の確保・段差解消
転落防止設備
乗船経路の雨よけ
優先乗船の実施    

客席 基準適合客席
車いすスペース・固定設備
優先席
通路 手すりの設置・段差解消
通路幅の確保
昇降設備の設置
遊歩甲板の出入口・戸・段差等
便所 車いす対応便所
手すり設置・腰掛便座・段差解消
情報
提供
誘導ブロック・点状ブロック
視覚情報提供設備
音声情報提供設備
案内板・点字案内板
港までの
アクセス
路線網・運航ダイヤの改善
低床車両等の導入

注)◎=重点的に対応すべき事項 ○=対応すべき事項 △=必要により対応すべき事項
[1]ターミナル内のバリアフリー化
 旅客船ターミナルのバリアフリー化については、ほとんどの項目が既存施設の改造で対応可能と考えられる。特に、出入口の段差解消・自動ドア化といった改良については、すでに実施されているターミナルの事例もみられ、必要性が高く、かつ比較的改造が容易なものと言える。また、車いす対応トイレについても、必要性が高くかつ既存施設において対応可能なものと言える。ただし、スペースの関係上設置不可能な場合、段差解消・腰掛式便座および手すりの設置といった対応だけでも実施することが望ましい。
 このほか、既存施設において対応すべきものとして、現状はほとんど未対応であるがハード面の大規模な改造が不要な各種情報提供設備の設置があげられる。また、大規模なターミナル等においては、介助体制の整備や車いすの貸出、案内・介助ボランティアの配置等も検討すべきと考えられる。
 また、大型スーパーでバスの運行状況を案内したところ、買い物客等の利用者に好評を得ている事例がある。こうしたことから、利用者にとっての「わかりやすさ」の観点から、旅客船ターミナル内や船内だけでなく、主な目的地(官公庁、総合病院、大型商業施設等)において、運航状況やアクセス交通手段の情報を提供することも有効と考えられる。
 エレベーター等の昇降設備については、ボーディングブリッジを使用する港湾以外では既存施設に設置する必要性は低く、基本的に新設時の対応でよいと考えられる。
[2]乗下船時のバリアフリー化
 乗降用設備としては、タラップを使用する場合が多いが、その段差解消等の対応は、基本的に船舶の新造・改造とは別に対応できることから、既存船舶においても積極的に対応することが必要と考えられる。ただし、長崎県内では潮位差の大きい港湾が多く、スロープ化する場合には港湾側に十分なスペースが必要となり、その確保が困難な場合、スロープが急傾斜となる可能性がある。また、舷門・出入口や車両区域の幅の確保・段差の解消についても、できる限り既存船舶でも対応すべきと考えられるが、小型船舶での対応は難しい場合が多い。フェリー等で出入口〜客室の間に垂直移動を伴う場合には、エレベーターの設置が望ましいが、既存船舶でそれが困難な場合、階段昇降機の設置が想定され、船員等が操作にあたる必要がある。
 こうしたことから、乗下船については、ボーディングブリッジを用いる場合を除いて、車いす使用者や全盲者の船舶利用を実現させることを当面の目標とし、人的な介助を中心に、優先乗船等も含め、ソフト面での対応を併せて行うことを基本とする必要がある。
 このほか、既存施設において対応すべきものとして、安全性確保の観点から緊急性の高い転落防止設備の設置があげられる。また、乗船経路の雨よけについては、「移動円滑化基準」には定められていないが、各ターミナルの構造に応じて必要性が高い港湾については、早急に対応すべきと考えられる。
[3]船内のバリアフリー化
 船内の移動・滞在においては、乗組員等の人的対応がなくても、乗客が自分で移動できることが望ましい。このうち、車いす使用者への対応として、車いすスペース、客席、通路幅、トイレ等の対応が望ましいが、いずれも大型フェリー等を除く既存船舶の改造では対応できない場合が多い。このように車いす使用者への対応が難しい場合でも、車いす使用者以外の身体障害者や高齢者を対象として、段差の解消、手すりの設置、優先席の設置、各種情報提供設備の設置等を鋭意進めるべきと考えられる。
[4]港湾までのアクセスのバリアフリー化
 港湾までのアクセスにおいては、港湾に発着するバス路線を対象に、車両更新によるバリアフリー化対応車両の導入のほか、路線網・運航ダイヤの見直し等による利便性の向上が求められる。
<海上旅客輸送全般>
*「高齢者・障害者の海上移動に関する調査研究報告書」
(交通エコロジー・モビリティ財団、2000年3月)
 
<船舶>
*「内航旅客船における移動制約者のための設備の整備に関する調査研究報告書」
(運輸施設整備事業団、1999年3月)
 
<旅客船ターミナル>
*「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等の移動円滑化ガイドライン」
(交通エコロジー・モビリティ財団、2000年度策定中)
*「バリアフリー度評価基準作成のための調査研究事業報告書」
(交通エコロジー・モビリティ財団、2000年2月)
*「長崎県福祉のまちづくり 条例施設整備マニュアル」
(1997年12月、長崎県)
*「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備ガイドライン」
(財団法人運輸経済研究センター
(現:運輸政策研究機構)、1994年3月)
[5]ソフト面での対応全般
 ハード面での対応が不十分な場合には、人的介助を中心としたソフト面での対応によりこれを補完する必要がある。特に、既存の施設・船舶においてハード面での対応が十分でない場合には、人的介助がバリアフリー化への対応の中心を占めることとなる。
 このため、旅客船事業者の職員(船員・地上係員等)や旅客船ターミナルの管理人は、研修の受講等により、身障者等の移動を支援する際の留意事項等についての知識を持ち、旅客船事業者団体や港湾管理者においては、対応マニュアルを策定していることが望ましい。
 このうち、船員においては、船舶で1月に1回程度、船員法に基づき非常時に備えた操作訓練と通常業務のミーティングを行っており、陸上に配置されている船舶運航管理者については、年に数回、船舶運航管理者研修会が開催され、安全運航の知識を深めているが、これらの会議を含めた諸般の会合でバリアフリー化の研修を行うことが重要である。
 ただし、その前提として、職員等が、海上旅客輸送のバリアフリー化における人的介助の重要性を認識し、困っている人に対して誠意をもって応対するという心構えがまず重要であり、仮に専門的な知識がなくても、「何かお手伝いすることはありませんか」と声を掛けることなどして、何を必要としているのかを聞くことで、最低限の対応は行うことができる。
[6]具体的な設備の機能・仕様等
 個別設備の機能・仕様等については、交通バリアフリー法に基づく「移動円滑化基準」のほか、下記の資料において具体的な内容が示されている。新設もしくは既存の施設・船舶のバリアフリー化にあたって、各設備の機能・仕様等を決定する際には、これらが参考となる。
 また、交通バリアフリー法の施行に先立ち、長崎県内では五島列島の郷ノ首〜福江航路において、五島旅客船(株)がバリアフリー化対応船「ニューたいよう」を就航させており、県外も含めた先行事例も大いに参考になる。








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