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4 交通エコロジー・モビリティ財団の取組み
(1)グリーン経営(環境負荷の少ない事業運営)の推進
 環境マネジメントシステムに関する国際規則はISO14001は、環境問題を改善するための一つの方法として注目され、ISO14001認証を取得する企業が増えています。しかしながら中小規模の事業者が大部分を占めるトラック運送業界においては、経済的・人的負担が大きい認証取得は容易ではありません。
 そこで、トラック運送事業における環境改善への取組みを支援・推進するため、(社)全日本トラック協会と協力し、環境パフォーマンス評価に関する国際規格ISO14031の考え方に則り、「エコドライブの実施」、「低公害車の導入」、「車の点検・整備」、「廃車・廃棄物の適正処理およびリサイクル推進」等を柱としたグリーン経営推進マニュアルを作成しました。パフォーマンス評価の基準は継続的な環境改善につなげるためISO14001の考え方も参考にして作成したものです。本マニュアルを活用することにより、中小規模の事業者でも環境改善に向けた取組みの目標設定とその評価が容易になり、目主的な環境改善の取組みの推進が期待されます。
 2002年度には、グリーン経営についての講習会や指導・助言などによる普及活動を実施します。また、この取組みを定着させる仕組みについても検討していきます。
 更に、2002年度には、トラック運送事業に続いて旅客分野(バス・タクシー)におけるグリーン経営推進マニュアルを作成することとしています。なお、最終的には自家用車(社用車、公用車)への拡大につなげていければと考えています。
 
●グリーン経営推進マニュアルにおける評価項目
大項目 小項目 (具体的取組内容)
1. 環境保全のための仕組み・体制の整備 環境方針
推進体制
従業員に対する環境教育
2. エコドライブの実施 燃費等に関する定量的な目標の設定等
エコドライブのための実施体制
アイドリングストップの励行
推進手段等の整備
3. 低公害車の導入 低公害車等:導入目標の設定と取組
最新規制適合ディーゼル車:導入目標の設定と取組
地域で定める低公害車等に関する制度への取組
4. 自動車の点検・整備 点検・整備のための実施体制
車両の状態に基づく適切な点検・整備
法定点検に加えて、厳しい使われ方等も考慮した独自の基準による点検・整備の実施
5. 廃車・廃棄物の排出抑制、適正処理およびリサイクルの推進 廃車・廃棄物の適正な管理
廃梱包材の排出抑制
(2)環境負荷の少ない交通を取り込んだライフスタイルヘの転換の推進
 モータリゼーションの進展は、地球温暖化や大気汚染の一因となっています。こうした現状を改善するには、車単体の環境負荷低減だけでなく、車に過度に依存した私たちのライフスタイルそのものを変更し、環境へのやさしさを考えていかなければなりません。このような考え方のもとに、様々な試みが世界各地で繰り広げられております。
 このような試みの一環として、当財団は2001年度において次のような取組みを行いました。
 
[1]カーシェアリング社会実験の実施
 マイカーの利便性を残しつつ、車所有にかかるコストと手間を軽減し、車に過度に依存したライフスタイルからの転換にも役立つ、車の新しい使い方として、カーシェアリングという手法があります。これは、複数の個人で車を共同利用するもので、十数年前にドイツやスイスで始まり、現在では欧州全体で約200の組織があり、会員数は12万5干人以上と言われています。車の台数や走行量の削減や、都市空間の有効利用などに資することも指摘されています。
 当財団では、1999年度からこのカーシェアリングに注目し、海外調査、わが国での普及のための課題検討、社会実験案の策定等を行ってきました。そして2001年度、わが国での普及可能性や社会的効果を検証するため、東京都北区と三鷹市の2箇所でそれぞれ約3か月間、社会実験を実施しました。北区では民間分譲マンションの住人43名が車4台を、三鷹市では公団賃貸住宅の住人28名が車2台を、それぞれ共同利用しました。車は低公害のガソリン車(低燃費かつ低排出ガス認定車)を使用し、利用に応じて料金を徴収しました。
 今回の実験では、マイカーからカーシェアリングに転換した人の車移動回数が7割程度減少しました。また、実験後のアンケートで、マイカー保有者に対し、カーシェアリングが事業化されたらマイカーを手放すかという質問をしたところ、料金を検討してからと答えた人が5割、車両台数、参加人数を検討してからと答えた人が4割を占め、手放さないと答えた人は僅か4%でした。さらに、マイカー非保有者でいずれ車を持ちたいと考えている人のうち、カーシェアリングが事業化されたら車は持たないと答えた人が6割いました。一方、本格的な事業化のためには、貸渡し時の本人確認や、車両保管場所と管理事務所との間の距離規制(現行2km以内)等の現行法規則を緩和したり、公営駐車場の無償提供等様々な公的支援を実施したりすることが重要であることを再確認しました。
 今後カーシェアリングヘの関心を高めつつある地方公共団体、市民団体、市民、事業者などに対し、今回の実験データを公表し、得られたノウハウの普及に努めていきます。
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東京都北区での実験駐車場に並んだ共同利用車両
 
[2]エコモビリティ活動交流会の開催
 交通分野でライフスタイルの転換を推進するにあたっては、市民の関心を集めながら、具体的な現実に根ざしたニーズを汲み上げた活動を推進することができるという観点から、市民団体等の自主的な活動に大きな期待が寄せられています。
 近年、グリーン購入やリサイクル等の分野では市民団体の活動が広がりを見せ、そのネットワーク化が進みつつありますが、こと交通環境対策の分野ではこうした動きが未だ不十分なことから、当財団は市民団体と協働し、環境負荷の少ない交通を取り込んだライフスタイルヘの転換を推進したいと考えています。その一環として実施したのが、エコモビリティ活動交流会の開催です。
 2001年12月に東京で開催されたライフスタイル見直しフォーラム2001(市民団体等からなるフォーラム実行委員会と環境省が共催)の行事の一つとして、当財団は環境自治体会議と共催し、エコモビリティ活動交流会を開催しました。
 はじめに、交通計画における市民・行政の協働の重要性についての講演を聴いた後、住民主体の環境配慮型地域交通に関連する活動を各地で展開している7市民団体の報告を聴き、現状認識と課題、市民団体の役割、一般市民の協力の取り付け方などについて意見交換しました。
 報告では、市民1200人を動員した地道な実地調査により自転車マップを作成している金沢の事例、市民団体が地方公共団体や事業者を巻き込んで電気自動車を活用したカーシェアリングの事業化を検討中の福岡の事例などが紹介されました。
 
コラム
・・・路面電車の維持・活性化のための草の根市民活動事例・・・
 
 富山県高岡市に加越能鉄道の電車が走っていますが、近年は経営難に陥り、廃止の危機が迫りました。写真のように小さな路面電車ですが、年間およそ100万人も輸送しています。もしこの電車が廃止されてその分の乗客がマイカーに乗りかえたら、年間350トンの二酸化炭素(炭素換算)が増える計算になります。高岡市や沿線の人たちの間からも、長年にわたり親しんだ電車を守ろうと、存続の運動が起こりました。第3セクターに転換する案が出されましたが、クルマ社会といわれる現状の中では、鉄道の存続について、富山県、鉄道事業者、高岡市など関係者の間での調整は難航し、市民の間にも戸惑いがみられました。
 そこで「路面電車と都市の未来を考える会・高岡(通称RACDA高岡)というグループは、存続を検討する「万葉線懇話会」に委嘱委員として参加するなど公的な活動の一方で、「出前キャラバン」という草の根活動を展開しました。これは、路面電車とまちづくりに関する市民の啓発のため、町内会などの協力を得て地域の集まりに出かけて、路面電車が人々の生活に果たす意義をアピールしたり、同時に住民から交通について困っていることを聞き取ったりする活動で、これまで30回以上も開催しています。(2002年1月現在)こうした活動が実って、市民の間からも路面電車に対する認識が高まったことを受けて、行政と鉄道事業者の協議も進展し、さらに地元企業からの応援も加わり、2002年4月から第3セクター鉄道として再出発することが決まりました。市民の草の根活動が、環境負荷の少ない交通機関を守った事例と言えます。
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