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6 散布法による分散効果の比較
○油分散剤の分類(「通常型油分散剤」と「自己攪拌型油分散剤」)
 現有の油分散剤は、流出油に油分散剤を散布した後、攪拌板や船舶の航走により両者を混合攪拌し海中に油を分散する「通常型油分散剤」と、風波(風力階級3程度)による波の上下動により油を海中に分散する「自己攪拌型油分散剤」の2種に分類される。
 前者は、流出油量に対して分散剤を20%(舶査52号:試験基準、分散剤/油比)散布するのに対し、後者は2〜4%程度の散布量で分散処理できる性能を有している。
○油分散剤の散布法(「原液直接散布法」と「海水希釈散布法」)
 分散剤の散布は分散剤を粒子状にして散布する原液直接散布法が原則であるが、前述したとおり、我が国では泡消火ノズルを使用して分散剤を海水と希釈して散布する方法が主力となっている。
 泡消火ノズルの放水量は、200〜300L/minで装備しているエダクターは放水量の3〜6%の範囲で油分散剤を吸引し海水とともに放出している。
○「海水希釈散布法」の位置付け
 分散剤は、親油性と親水性とを持つ分子構造の界面活性剤と石油系炭化水素の溶剤とから構成されている。このため、分散剤は、海水と接触すると石油系溶剤には親油性の海水に対しては親水性の分子が並び溶剤を粒子化する。
 よって、「海水希釈法による流出油の処理法」は効果が低いことを20数年前から海上災害防止センターでは提唱してきたが一向に改善されていないのが現状である。
 このことから、実験室試験で採用されている「予め混合法」、また、事故時の処理方法である「直接散布法」及び「海水希釈法」による各散布法の分散効果を調査し、各分散法の位置付けを明らかにすることとした。
(1)各分散法による原油の分散効果
[1]試験結果
 原油の分散効果試験結果を表III-7ab、III-8ab及び図III-3に示す。
[2]希釈水量
 前述した表III-4abに示すとおり、希釈率と散布率の関係から分液ロートに投入する希釈水量は希釈率が低くかつ散布率が高いと投入量が多くなる。
 例えば、両分散剤の希釈水量は下表のように自己攪拌型では133倍、通常型で1 15倍の投入量の差となる。
 このため、分液ロート内(容量300ml)の空隙率(分液ロート容積と海水量の比)は、各試験とも変化し、攪拌エネルギー(空隙率が少なくなると低くなる)は、一定条件にならない。
表III-6 「希釈率、散布率」と「希釈水量」
  希釈率(%) 散布率(%) 希釈水量(ml)
自己攪拌型 8.0 1.0 0.6
0.5 8.0 80.0
通常型 20.0 5.0 1.3
1.0 30.0 150.0

 本調査の試験範囲は上表に示したとおりであるが、前述した消火ノズルの希釈率3〜6%の範囲の海水投入量は、自己攪拌型で0.8〜13.3ml、通常型で4.1〜50mlとなり、分液ロートの空隙率に大きく影響を及ぼさないものとして攪拌エネルギーによる分液効果については考慮しないこととした。
[3]試験結果
 図III-3によると、分散率の効果は当然、予め混合法が両分散剤とも高く、次いで直接散布法で海水希釈散布法が低い結果となった。
○自己攪拌型分散剤の予め混合法と直接散布法の分散率
・散布率1%を除き他の散布率はほぼ4%の差で予め混合法が高い。
・海水希釈散布法では、散布率が4%以上になると分散効果は3つのグループに分かれた。
・分散効果が高いグループは希釈率2及び4%、中グループは希釈率1.0及び1.5%、低いグループは希釈率0.5、6.0及び8.0%である。
・これは、油種により散布率に最適散布率があるように、海水希釈にも最適希釈率があることを示唆するものと考えられるが、後述するような理由により詳細な調査はしないこととした。
○通常型分散剤の予め混合法と直接散布法の分散率
・散布率10%以上では10%の差があり、予め混合法が高い。
・海水希釈法では、希釈率1%を除きバラツキがあるが、ほぼ同じ分散率で希釈率による有意差はない。
(2)各散布法によるC重油の分散効果
[1]試験結果 C重油の分散効果試験結果を表III-9ab、III-10ab及び図III-3に示す。
[2]C重油を対象とした理由 本調査は前項の試験油である原油が油分抽出時に蒸発することが判明したため、蒸発量の少ないC重油を対象に追加試験を実施し、海水希釈分散の傾向を把握することとした。
[3]試験結果
○「直接散布法」と「海水希釈散布法」の比較
・直接散布法(散布率4%)と海水希釈散布を比べると当然直接散布法の分散効果が高い結果が得られた。
・海水希釈散布法は前項の原油と同じ傾向を示し、希釈率によって分散効果にバラツキがあるが、希釈水2及び4%がやや高い。
・通常型では、散布率20%では希釈率が多いほど分散効果が高い傾向を示した。
○今後の課題
・C重油に対しては来年度も引き続き系統試験を実施して分散効果の位置付けを把握する予定である。
(3)海水希釈法による分散処理の問題点
 現在、我が国の分散剤散布法は消防船やタグボートに装備している消火ノズルを用いた海水希釈散布が圧倒的に多い。この海水希釈散布法について遭遇油量に対する散布率、散布航行速度等の点から検討した。
○試算の前提
・泡消火ノズルは前述した300L/min(分散剤の吸引範囲3〜6%)とした。
・散布率を自己攪拌型油分散剤で4%、通常型分散剤は最大の6%として試算した。
○試算
・泡消火ノズル(300L/min⇒18.0m3/h)
・散布分散剤量=放水量×希釈散布率
 自己攪拌型:0.72m3/h=18.0m3/h×0.04
 通常型:1.08m3/h=18.0m3/h×0.06
○散布速度、散布油量の試算の前提
・これらの分散剤散布量に対して散布速度、遭遇油量等を自己攪拌型では散布率を4%、通常型で散布率20%として試算した。
・試算結果
 遭遇油量(m3/h)=散布速度(m/h)×油層厚さ(m)×散布幅(m)
 分散剤量(m3/h)=遭遇油量(m3/h)×散布率(%)
 自己攪拌型:18.52m3/h=1.0×1852×0.001×10
         0.74m3/h=18.52×0.04
 通常型:5.56m3/h=0.3×1852×0.001×10
      1.11m3/h=5.56×0.2
○計算結果
 遭遇油量(m3/h)、分散剤散布量(m3/h)散布速度(ノット)
 自己攪拌型:18.52m3/h、0.74(m3/h)、1.0ノット(0.514m/S)
 通常型:5.56m3/h、1.11(m3/h)、0.3ノット(0.15m/S)
○結論
 自己攪拌型及び通常型とも散布速度はそれぞれ1.0ノット及び0.3ノットと遅く、また、300L/minで油面に散水すると水滴が大きく油面を突き抜ける現象が予想される。
 このことから、分散処理時間に多く要し作業の迅速が要求される分散防除に適さないこと、また、分散効果が非常に低いことがわかった。
○参考試算
 参考として、タグボートが5ノットで分散処理作業したとして、次の要件で試算した。
・遭遇油量(m3/h)=散布速度(m/h)×油層厚さ(m)×散布幅(m)
 92.6(m3/h)=5×1852×0.001×10
・分散剤量/遭遇油量×100
 自己攪拌型(4%) 0.74(m3/h)/92.6(m3/h)=0.80%
 通常型(6%) 1.11(m3/h)/92.6(m3/h)=1.20%
○参考試算結果
・タグボートが5ノットで分散処理する際の分散剤量は、自己攪拌型で0.8%、通常型で1.2%となる。
・遭遇油量に対して分散剤の必要量は、自己攪拌型の3〜4%及び通常型の20%のそれぞれ1/3.8〜1/5及び1/16.7となり、分散剤量が不足し特に通常型では顕著である。
・図III-3に示した海水希釈率1%の分散効果(散布率、自己攪拌型4%、通常型20%)は自己攪拌型で14.4%、通常型で5.2%である。
・この分散効果を直接散布の分散効果と比較すると、それぞれ1/1.8及び1/4. 8となる。
・海水希釈散布後は分散効果面及び散布法面から適さない散布方法である。
7 まとめ
 本調査研究結果をまとめると次のことが言える。
(1)試験法
・直接散布法と海水希釈散布法とでは、分液ロートの内容量が異なり攪拌エネルギーに若干差異が生じた。
・攪拌方法が攪拌回数300回/min、ストローク4cm、及び攪拌時間3分間と若干激しい攪拌となり、実海域の風浪階級3程度と比較するとこの試験法は分散率の面で有利な条件となった。
(2)分散効果
 海水希釈試験法は、予想したとおり分散率が低く直接散布法と比較すると、自己攪拌型で1/1.8(散布率4%)、通常型で1/4.8(散布率20%)と分散効果が悪いことが分かった。
 このことは、分散剤が海水と接触すると界面活性剤の親油性分子が石油系溶剤に、親水性分子が海水側に並び溶剤を微粒子化した状態で流出油に散布されることから、分散効果が悪くなる要因として挙げられる。
(3)実施している海水希釈散布法の短所
 海水希釈散布は泡消火ノズルを使用して分散剤を3%〜6%の範囲(調節可能)で吸引し海水とともに散布する。
 このことは、泡消火ノズルの放水量によって散布分散剤量が定まることになる。流出油量と分散剤散布量との適正比率で求めた散布速度は、自己攪拌型で1ノット、通常型で0.3ノットの散布速度となり、迅速性を必要とする分散剤の防除処理には適さないことがわかった。
 また、5ノットで分散剤を海水希釈散布すると、自己攪拌型で適正散布量の1/4〜1/5、通常型では1/16.7となり、分散剤量が不足しかつ分散率はそれぞれ1/1.8及び1/4.8で分散効果が低いことがわかった。
(4)本年度の成果
 本年度の調査研究により流出油(原油)の分散処理法として、海水希釈散布法が不適切な散布法であることが以下のとおりわかった。
 [1]接触により分散剤が有する性能を著しく低下する。
 [2]水滴径が大きく流出油面を突き抜け流出油に効果がない。
 [3]泡消火ノズルによる海水希釈散布にいくつかの問題点がある
(5)来年度の調査研究
 来年度は、C重油(重質油)についても系統試験を実施し、上述の性能を把握して海水希釈散布法から原液直接散布法に切り替えるよう防災関係者に広く指導する予定である。
表III-7a 各散布法による自己攪拌型分散剤の分散性能(原油、分散率)
散布率
(%)
試験回数 予め混合 直接散布 希釈率(%)
0.5 1.0 1.5 2.0 4.0 6.0 8.0
1 試1 11.02 6.05 2.12 3.20 3.60 3.84 3.99 2.31 1.71
試2 8.41 6.45 2.16 3.14 3.52 4.04 3.54 2.48 1.36
19.43 12.50 4.28 6.34 7.12 7.88 7.53 4.79 3.07
2 試1 12.04 9.85 2.24 5.90 6.11 5.43 5.65 2.84 2.67
試2 11.68 9.25 2.44 5.61 6.31 6.29 5.76 2.40 2.22
23.72 19.10 4.68 11.51 12.42 11.72 11.41 5.24 4.89
4 試1 15.25 13.53 4.44 6.91 7.63 9.40 8.32 4.83 3.88
試2 14.96 12.73 476 7.53 6.57 9.15 7.89 4.24 4.26
30.21 26.26 9.20 14.44 14.20 18.55 16.21 9.07 8.14
8 試1 16.69 17.05 6.00 8.36 9.06 13.59 11.40 7.55 7.55
試2 20.39 17.33 604 8.67 8.95 13.12 12.46 6.18 6.44
37.08 34.38 12.04 17.03 18.01 26.71 23.86 13.73 13.99
表III-7b 各散布法による自己攪拌型分散剤の分散性能(原油、分散量)
  試験回数 予め混合 直接散布 希釈率(%)
0.5 1.0 1.5 2.0 4.0 6.0 8.0
1 試1 0.4783 0.2625 0.0921 0.1389 0.1561 0.1668 0.1733 0.1001 0.0743
試2 0.3648 0.2798 0.0939 0.1361 0.1529 0.1752 0.1535 0.1078 0.0588
0.8431 0.5423 0.1860 0.2750 0.3090 0.3420 0.3260 0.2079 0.1331
2 試1 0.5222 0.4273 0.0972 0.2558 0.2650 0.2354 0.2450 0.1230 0.1159
試2 0.5068 0.4014 0.1059 0.2433 0.2737 0.2727 0.2500 0.1040 0.964
1.0290 0.8287 0.2031 0.4991 0.5387 0.5081 0.4950 0.2270 0.2123
4 試1 0.6617 0.5870 0.1927 0.2999 0.3312 0.4079 0.3610 0.2096 0.1684
試2 0.6491 0.5523 0.2066 0.3269 0.2850 0.3970 0.3421 0.1841 0.1849
1.3108 1.1393 0.3993 0.6268 0.6162 0.8049 0.7031 0.3937 0.3533
8 試1 0.7243 0.7397 0.2601 0.3626 0.3929 0.5894 0.4944 0.3274 0.3275
試2 0.8847 0.7519 0.2621 0.3763 0.3884 0.5694 0.5406 0.2683 0.2793
1.6090 1.4916 0.5222 0.7389 0.7813 1.1588 1.0350 0.5957 0.6068
表III-8a 各散布法による通常型分散剤の分散性能(原油、分散率)
散布率
(%)
試験回数 予め混合 直接散布 希釈率(%)
1.0 3.0 5.0 10.0 20.0
5 試1 8.27 3.81 1.68 2.43 2.68 2.68 3.03
試2 8.79 3.81 1.57 2.88 2.52 2.57 2.96
17.06 7.62 3.25 5.31 5.20 5.25 5.99
10 試1 14.12 5.50 2.17 3.73 3.10 3.84 3.75
試2 13.82 6.12 2.22 3.79 4.69 3.79 4.15
27.94 11.62 4.39 7.52 7.79 7.63 7.90
20 試1 19.95 12.81 2.48 6.06 6.27 5.86 5.74
試2 17.99 11.95 2.67 6.70 6.69 6.33 5.99
37.94 24.76 5.15 12.76 12.96 12.19 11.73
30 試1 22.80 17.56 2.65 8.08 7.74 8.72 7.62
試2 23.95 17.44 2.83 6.45 9.81 8.12 8.46
46.75 35.00 5.48 14.53 17.54 16.81 16.08
表III-8b 各散布法による通常型分散剤の分散性能(原油、分散量)
散布率
(%)
試験回数 予め混合 直接散布 希釈率(%)
1.0 3.0 5.0 10.0 20.0
5 試1 0.3588 0.1653 0.0728 0.1054 0.1161 0.1161 0.1315
試2 0.3814 0.1655 0.0679 0.1248 0.1094 0.1115 0.1284
0.7402 0.3318 0.1407 0.2302 0.2255 0.2276 0.2599
10 試1 0.6126 0.2386 0.0942 0.1620 0.1343 0.1667 0.1627
試2 0.6000 0.2655 0.0965 0.1645 0.2036 0.1646 0.1800
1.2126 0.5041 0.1907 0.3265 0.3379 0.3313 0.3427
20 試1 0.8655 0.5558 0.1074 0.2628 0.2721 0.2542 0.2491
試2 0.7805 0.5185 0.1160 0.2907 0.2902 0.2747 0.2597
1.6460 1.0743 0.2234 0.5535 0.5623 0.5289 0.5088
30 試1 0.9892 0.7618 0.1149 0.3507 0.3358 0.3783 0.3308
試2 1.0391 0.7566 0.1227 0.2799 0.4254 0.3523 0.3671
2.0283 1.5184 0.2376 0.6306 0.7612 0.7306 0.6979
表III-9a 各散布法による自己攪拌型分散剤の分散性能(C重油、分散率)
散布率
(%)
試験回数 直接散布 希釈率(%)
1 2 4 6 8
1 試1   3.50   5.75    
試2   3.87   4.95    
  7.37   10.70    
2 試1   5.79   8.76    
試2   6.56   8.03    
  12.35   16.79    
4 試1 16.24 10.10 11.47 11.54 10.49 9.44
試2 17.65 9.52 11.88 11.04 11.05 8.84
33.89 19.62 23.35 22.58 21.54 18.28
8 試1   11.55   14.84    
試2   11.49   14.51    
  23.04   29.35    
表III-9b 各散布法による自己攪拌型分散剤の分散性能(C重油、分散量)
散布率
(%)
試験回数 直接散布 希釈率(%)
1 2 4 6 8
1 試1   0.1682   0.2762    
試2   0.1858   0.2378    
  0.3540   0.5140    
2 試1   0.2779   0.4210    
試2   0.3153   0.3856    
  0.5932   0.8066    
4 試1 0.7801 0.4851 0.5511 0.5544 0.5037 0.4536
試2 0.8478 0.4575 0.5708 0.5305 0.5307 0.4246
1.6279 0.9426 1.1219 1.0849 1.0334 0.8782
8 試1   0.5548   0.7129    
試2   0.5519   0.6968    
  1.1067   1.4097    
表III-10a 各散布法による通常型分散剤の分散性能(C重油、分散率)
散布率
(%)
試験回数 直接散布 希釈率(%)
1 3 5 10 20
5 試1   1.37       6.48
試2   1.36       6.91
  2.73       13.39
10 試1   2.37       10.37
試2   2.42       8.63
  4.79       19.00
20 試1 21.62 2.87 6.85 9.36 12.62 16.13
試2 22.04 2.98 6.90 10.28 10.26 14.16
43.66 5.85 13.75 19.64 22.88 30.29
30 試1   3.90       15.89
試2   4.10       15.81
  8.00       31.70
表III-10b 各散布法による通常型分散剤の分散性能(C重油、分散量)
散布率
(%)
試験回数 直接散布 希釈率(%)
1 3 5 10 20
5 試1   0.0595       0.2811
試2   0.0592       0.2996
  0.1187       0.5807
10 試1   0.1030       0.4501
試2   0.1052       0.3743
  0.2082       0.8244
20 試1 1.0385 0.1246 0.2974 0.4060 0.5474 0.6997
試2 1.0587 0.1292 0.2995 0.4458 0.4453 0.6145
2.0972 0.2538 0.5969 0.8518 0.9927 1.3142
30 試1   0.1690       0.6892
試2   0.1778       0.6861
  0.3468       1.3753
図III-3 散布法による原油の分散効果
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