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海難の再発防止に向けて
プレジャーボート海難の裁決事例紹介
「飲酒運航による衝突事故!!」(プレジャーボートT丸漁船I丸衝突事件から)
 発生日時、場所:11年5月14日17時30分 香川県高松港
 気象、潮汐:晴、風はなし、上げ潮の初期
海難の概要
 T丸船長は、出航に先立ち付近の飲食店で日本酒約5合を飲み、14日17時28分酩酊状態のなか、この程度の酔いであれば大丈夫と思い、友人1人を乗せて高松港から岡山県児島に向かった。
 離岸してまもなく左舷船首25度90メートルのところに停留しているI丸を視認できる状況であったが、酩酊状態にあったため、これに気づかず、船首を蛇行させながら、かつ、不規則に機関の増減速を繰り返しながら進行中17時30分8.0ノットのスピードでI丸と衝突した。
 また、I丸は、はえなわ漁に従事するFRP製漁船で船長ほか1人が乗り組み、高松港から漁場に向けて出航しようとしたとき、T丸が蛇行しながら接近してくるので、一旦機関を中立とし、行きあしを止めて大声を出して注意喚起したが、効なく、衝突した。
 衝突の結果、T丸は船首に擦過傷を生じ、I丸は右舷船尾外板に亀裂などが生じた。
海難原因
 本件衝突は、T丸が飲酒運航の防止措置をとらず、停留中のI丸を避けなかったことによって発生したものである。
事故要因の分析
 一般的に飲酒が人間の能力に与える影響は、血中アルコールの濃度が0.05%で何らかの影響が現れ、0.12%以上では作業に関する判断に失敗を生ずる可能性があるとされている。
 本件の場合、T丸船長は、酩酊しており、見張りなどの安全運航の確保が困難であったから、飲酒運航とならないよう発航を中止する措置をとる必要があった。
我が国の飲酒の規制に関する海事法制
[1] 海上運送法に基づく一般旅客定期航路事業者を対象とした運航管理規程
[2] 船員法施行規則に基づく「航海当直基準」
[3] 地方自治体の定める条例(特定水域における規制)
 
 プレジャーボートは、小型船舶、かつ、船長の単独当直が多いため、飲酒等が事故要因となる海難は、人損、物損とも重大な被害をもたらす危険性が高いので、飲酒運航の防止について自己管理とともに十分な教育・啓蒙が必要である。
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「周囲の見張りを大切に!!」(水上オートバイA丸ボードセーラー負傷事件から)
 発生日時、場所:11年7月25日14時00分 神奈川県鎌倉市由比ヶ浜沖合
 気象、潮汐:晴、南南西風、風力6、上げ潮の末期
海難の概要
 A丸は、2人乗りの水上オートバイで、25日13時59分00秒少し過ぎA丸船長のほか友人1人を乗せ、遊走の目的で由比ヶ浜に設置された水上オートバイ発着水路を発し、沖合海域に向かった。13時59分50秒A丸船長は、同水路中央部付近で速力を時速20キロメートルに上げたとき、同水路出口付近に数人のボードセーラーがセーリングしているのを認めたが、右舷方から接近するボードセーラー及び船首方向からの波浪に気をとられ、左舷方から接近するYボードセーラーに気付かず進行中、10メートルに迫ったところでようやくこれを認めてハンドルを右一杯にとったが、効なく、14時00分原速力のままYボードセーラーに衝突した。
 また、Yボードセーラーのボードは、全長2.89メートル、幅0.56メートルのFRP製に面積6.5平方メートルのセールを張ったフリーライド型と称するもので、同人が1人で乗り、セーリングの目的で13時30分頃セールボード発着区域から由比ヶ浜沖合に向かった。
 由比ヶ浜で反復セーリングをした後、休息をとるため速力を時速30キロメートルで、セールボード発着区域に向かったが、同人のセールはマストに沿って幅約30センチメートルにわたって不透明の部分があったため、右前方に死角が生じていたが、Yボードセーラーは、進行方向ばかり注視して死角を補う見張りを十分に行っていなかったため、A号に気付かず、原針路、原速力のまま衝突した。
 衝突の結果、A号には損傷がなかったが、Yボードセーラーは、左大腿骨骨折などの重傷を負った。
海難原因
 本件ボードセーラー負傷は、A号が見張り不十分でセーリング中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが、ボードセーラーが見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
見張りの重要性
 水上オートバイA号船長に対して、水上オートバイ発着用水路を発進して沖合に向かうとき、同水路出口の沖合には多数のボードセーラーがセーリングしていることを認めているのであるから、右舷方から接近するボードセーラーの方向や船首方向からの波浪に気をとられるのみではなく、常に周囲の状況について適切な見張りを行う必要があった。
 また、Yボードセーラーに対しても、時速30キロメートルの速力が出るボードを操縦しており、かつ、マストとラフの影響で死角が生じる状況であったので、死角を補う見張りを行う必要があったとして、本件発生の一因としている。
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「船位の確認をGPSプロッタのみに頼ってはだめ!!」(プレジャーボートK丸乗場事件から)
 発生日時、場所:11年7月5日23時10分 周防灘北部 室積半島東岸
 気象、潮汐:晴、風はなし、上げ潮の中央期
海難の概要
 K丸は、GPSを備えたFRP製プレジャーボートで、5日18時00分船長ほか知人2人を乗せ、魚釣りの目的で、山口県光市光井の船だまりを発し、室積半島南東方に向かった。
 ところで、船長は、新しく購入したK丸で過去2度ばかりGPSプロッタを操作してみたものの、目的地までの針路を知る方法や表示範囲などについて十分に理解していなかった。
 23時頃釣りを終えて帰港することとなり、GPSプロッタに地図が表示されるようにして26.0ノットのスピードで進行したが、その後GPSプロッタの画面表示範囲を縮小してしまい、縦方向の表示範囲が80メートルとなっていたが、その性能や使用方法などを十分に理解しなかったため、そのままプロッタ画面のみを注視して進行した。
 23時09分同乗者が船長に対して正面に灯台が見えることを告げたが、いずれプロッタに灯台が映ると思い、これに耳を傾けず進行中、再び同乗者が「岩が!!」と叫び、その声でようやく顔を上げ、目前に迫った陸岸を認めて右舵一杯をとったが、原針路のまま赤埼東端に乗り揚げた。
 乗揚の結果、船体は大破して廃棄され、知人2人は、約2箇月間の重傷、船長は大腿骨打撲傷を負った。
海難原因
 本件乗場は、夜間、釣り場から帰航中、室積半島東岸に接近した際、付近の灯台などを利用しての船位の確認が不十分で、赤埼に向首したまま進行したことによって発生したものである。
船長のGPSプロッタ操作についての理解模様
 船長の証言は次のとおりである。
 「航行中GPSプロッタを使用したのは本件時が3回目で、取扱説明書は必要な部分だけを2ないし3ページ読んだが、当時の表示範囲のことはよく知らなかった。乗揚時の表示範囲を限度一杯に縮小していたが、当時は、何海里の画面になっているのか知らなかった。地図を縮小したら陸地が画面から見えなくなったが、半島が近づけば映るだろうと思った。」
本件から得た教訓
・GPSプロッタに表示させる地図は、概略であり船位の参考とすることができるに過ぎないもので、自船の船位を求めるには必ず海図を使用することとされている。
 このため、船長は、付近の灯台や陸岸の明かりなど適切な方法で船位を十分に確認する必要があった。
・GPSプロッタに限らず、新しい航海計器や機器を購入したときには、その性能や取り扱い方法を十分に習得してから使用すること。
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「根がかりした錨を揚げるときには慎重に!!」(プレジャーボートH丸転覆事件から)
 発生日時、場所:11年5月16日15時20分 唐津湾
 気象、潮汐:晴、北北西風、風力3、下げ潮の末期
海難の概要
 H丸は、最大搭載人員3人の船外機を備えた無甲板のFRP製プレジャーボートで、16日13時30分船長ほか同人の妻と知人1人を乗せ、魚釣りの目的で福岡県糸島郡志摩町の海岸を発し唐津湾筑前ノー瀬灯標北方に向かった。
 13時35分釣り場に到着して機関を停止し、水深10メートルのところに重さ約3キログラムの錨を錨索30メートル延出して右舷側中央部前寄りの舷縁上のリングに係止して錯泊した。
 その後15時15分魚が釣れなくなったので帰航することとし、その際、錨が根がかりして揚がらなかったことから、機関の前進力を利用することにし、そのままの状態でスロットルレバーを急速に一杯に回し、全速力前進にかけて急発進したところ、根がかりした錨が海底から外れず、緊張した錨索によって横引きされる状態となり右舷側に大傾斜し、15時20分復原力を喪失して転覆した。
 転覆の結果、船外機に濡損を生じ、船長と同乗者2人は、海中に投げ出され船底につかまっていたところ、付近を航行中の船舶に救助された。
海難原因
 本件転覆は、揚錨中、機関の前進力を利用して根がかりした錨を揚げるにあたり、揚錨方法が不適切で錨が外れないまま、錨索により横引き状態となって船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
根がかりした錨の揚錨方法
 機関の前進力を利用して錨を揚げようとする場合、錨が外れないと緊張した錨索により横引きされて、転覆する危険がある。
 適切な揚錨方法としては、船上の錨索の係止位置を船尾に付け替えるなどしたうえ、船首方向を変えながら機関回転数を除々に上げて錨索を引くなど、船体が横引き状態とならないようにすることが必要である。
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資料提供
 高等海難審判庁(マイアニュースレターより抜粋)








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