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 また、混生する植物の種類や混生状態が関わっている可能性について考えてみても、ヨシとの混生においてどのような植物がヨシの生育に影響を及ぼしているかを見極めるのは難しい。例えば、現状で特定の混生植物が繁茂しヨシの密度が低いという状況を分析するにしても、この植物が繁茂することによってヨシが減少したのか、ヨシが減少したために後からこの植物が繁茂したのか、あるいはこの植物が繁茂している状況下にヨシが後から進入したのか、その前後関係が不明だからである。これを知るためには特定箇所での経時的な追跡が必要であろう。
 ここでは、今回見られた代表的な混生の傾向から推察される範囲内で、ヨシの生育との関わりの有無について、可能性としての考察を行ってみることにする。
 各コドラートでヨシとの混生の見られた植物のうち、被度が1や+のように低いものはヨシヘの関与が元々少ないと考えられるし、出現頻度の少ない種もデータ数的にみて傾向をつかむのが困難である。そのため、次に被度2以上でのヨシと混生するコドラート数が5以上の種を抽出してその特徴をみた。この条件に合致する植物は次の6種である。
 ただし、(N,n)は、
   N:ヨシとの混生コドラート数
   n:うち被度2以上のコドラート数
を示す。また、キシュウスズメノヒエとチクゴスズメノヒエは合わせてスズメノヒエとした。
 1)アメリカセンダングサ(N=42,n=27)
 2)スズメノヒエ(N=29,n=22)
 3)マコモ(N=21,n=18)
 4)シロネ(N=16,n=12)
 5)メヒシバ(N=15,n=12)
 6)ウキヤガラ(N=7,n=6)
 これら植物の混生分布地盤高を図4.2.27に示す。
 
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図4.2.27 被度2以上のコドラート数5以上の混生植物種の分布地盤高
 これによれば、アメリカセンダングサとシロネについてはそれぞれ1データを除きB.S.L.±40cmの間で混生出現している。どちらもB.S.L.プラスの領域では概してヨシの生育密度は低い(高少及び低少が多い)。
 メヒシバは大半がB.S.Lプラスの領域でヨシと混生出現し、いずれもヨシ密度は低い。スズメノヒエ、マコモ、ウキヤガラの3種は、いずれもB.S.L.マイナスの領域でヨシと混生出現し、ヨシ密度は高いものから低いものまで地盤高とほとんど無関係に散在している。
 このことから、これら植物がヨシ生育に影響を及ぼしているとすれば、アメリカセンダングサ、シロネ、メヒシバの3種は主に陸域で、スズメノヒエ、マコモ、ウキヤガラの3種は主に水域で関与している可能性が示唆される。
 次にこれらの種の被度とヨシ茎個体数密度との関係を種別に表してみた。これを図4.2.28に示す。
 
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図4.2.28 被度2以上のコドラート数5以上の混生植物種の被度とヨシ密度の関係
 主に陸域寄りでヨシと混生するアメリカセンダングサ、シロネ、メヒシバの3種のうち、前2種については必ずしも被度の増加に伴うヨシ密度の低下の傾向は明瞭ではない。これらの種の被度が4以上ともなると確かにヨシの生育はほとんど見られていないが、これらの種の関与の程度によってヨシ密度が変化する傾向をこのデータから読み取るのは困難に思われる。両種の進入によってヨシが衰退するというよりは、主に陸域でヨシが別の何らかの要因により減少した跡地において、これらの種は周囲から進入して繁殖したと考えることも可能である。
 これに対しメヒシバは、データ数はさほど多くはないものの、被度の増加に伴うヨシ密度の低下の傾向が認められる。ただ、このデータのみから、陸域における本種の混生とヨシ生育との関わりについて言及するのは難しい。
 一方、主に水域でヨシと混生するスズメノヒエ、マコモ、ウキヤガラの3種のうち、スズメノヒエはその被度にかかわらずヨシ密度がばらついており、一定の関係は認められない。ヨシとは出現高さの層が異なることもあって、被度が5の場合でもヨシ密度が50を超えるデータがあるなど、この種の繁茂がヨシの生育数の減少を招く要因になっていることを表す傾向は得られなかった。
 マコモ、ウキヤガラは、その被度が3〜4まで増加してもヨシの生育をある程度許容しているケースが見られる。しかしながら、傾向的には被度の増加に伴うヨシ密度の低下の傾向は明らかに認められる。両種は群落高が1.5m前後の大型の水生植物であることから、水域環境下の草本第1層においてヨシと何らかの競合関係を有することを、可能性として考えることはできよう。このため、これらの種の被度が増加した場合、他の環境要因(土壌条件等)を含めたヨシに好適な立地環境のバランスが崩れ、ヨシが既に退行し始めている可能性のあることが想像される。したがって、これらの種がヨシ帯に著しく進入する状況が認められる場合は、ヨシの保全の観点において注意を要すると思われる。ただ、県のヨシ群落保全条例では、これらの種を含む一体的な水生植物群落をヨシ群落と定義していることから、ある程度の混生、置換はヨシ群落の保全の主旨からすれば特に問題はないであろう。
 植生に関し、もう一点、過去にヨシ植栽を施した場所で現状はヨシの存在しないコドラートの植生の状況について示す。図4.2.29は、そのようなコドラートを抽出し、そこに生育する種の被度をグラフで示したものである。抽出されたコドラートはB地区(北山田)が最も多く、次いでD地区(近江八幡)、C地区(木浜)の順となっている。B地区は多くが陸域(B.S.L.0cm以上)もしくはそれに近い地盤高のものであり、C地区とD地区は全てB.S.L.−50cm以深の水域環境のものである。
 
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図4.2.29 過去のヨシ植栽地で現状はヨシの存在しないコドラートの生育植物種とその被度
 図よりわかるように、B地区ではアメリカセンダングサ、オオオナモミ、タカサブロウ、メヒシバが優占し、C地区とD地区はチクゴスズメノヒエが優占している。
 アメリカセンダングサ及びスズメノヒエについては、前述の傾向から、必ずしも本種が植栽後のヨシの消失を招く要因になったとは言い切れない面がある。ただ、陸域ではアメリカセンダングサの群落、水域ではスズメノヒエの群落という構図は、ヨシ消失後の植栽地の植生環境を代表する形であるものと推察される。








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