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V. 保虫宿主動物の調査
 カンボジア国と同様にメコン住血吸虫症の流行がみられるラオス国では、ヒトの他にイヌのメコン住血吸虫感染例も多数報告されている。イヌが感染した場合にも、メコン住血吸虫の成熟虫卵が糞便とともに体外に排出されるため、イヌがメコン住血吸虫症の伝播に関与し得ることが明らかになっている。一方、カンボジア国内では、これまでイヌのメコン住血吸虫感染例は報告されていなかったが、昨年の我々の調査で、イヌの糞便検体1例からメコン住血吸虫の成熟虫卵が検出され、同国内でも、イヌがメコン住血吸虫の生活環の維持に関わっていることが示された。そこで今回の調査では、さらにイヌの糞便検査をおこない、カンボジア国内におけるイヌのメコン住血吸虫感染例のさらなる検出を試みた。
 メコン住血吸虫症の高度流行地であるクラチェ省内で、現地スタッフと住民の協力を得て、合計310検体のイヌの糞便を採集し、同省のProvincial Health Officeの検査室でメコン住血吸虫の虫卵を検索した。検査にはKato-Katz法を適用し、本法による検査に熟練した現地スタッフが顕微鏡を使って検査をおこなった。その結果、310例のうち1検体(陽性率:0.3%)でメコン住血吸虫の虫卵が検出され、虫卵の密度は糞便1g中3456個と算出された。
 メコン住血吸虫を含む人獣共通寄生虫症のコントロールには、共通の困難が伴う。それは、ヒトを対象とした対策活動だけでは不十分であり、保虫宿主動物対策を平行して実施しなければ、効果的な疾病コントロールに結びつかないという点である。カンボジア国の調査地域内では、ほとんどの住居で1〜2頭のイヌが放し飼いにされている状況であった。日中気温が上昇した時などには、それらのイヌがメコン川の浅瀬で水浴びをしたり、泳いだりしたりするのを実際に目撃したが、このようなイヌの行動は、当然のことながらメコン住血吸虫感染の機会となる。
 今回の調査地域におけるイヌのメコン住血吸虫感染率は決して高くはなかったが、糞便中には虫卵が高密度で含まれており、イヌの糞便排泄量を考慮すれば、1匹の感染犬が排出する虫卵数は非常に多いと考えられる。放し飼いにされているイヌヘの対策は極めて困難な作業となるが、イヌのメコン住血吸虫感染率が高い地域での本症コントロール活動では、飼い主の協力を得たうえで、駆虫薬の投与など何らかの対策を実施することが極めて重要である。その意味で、ヒトだけでなく、イヌにおけるメコン住血吸虫感染率のモニタリングも継続していく必要がある。また、これまでイヌ以外の動物におけるメコン住血吸虫感染はほとんど報告されていない。                     








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