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4.3.4 考察
4.3.4.1 国連評価試験との対比
(1) 爆発威力
 爆発威力の国連評価試験としては、当初、国連推奨試験である改良トラウズル試験のみを比較対照とする計画であったが、他のテストシリーズFの試験結果も比較対照とすることとした。
 
[1] C80D熱量および圧力発生挙動との比較
 今回は、先にも述べたようにテストシリーズCおよびFの試験法の実施例としてオレンジブックに記載されている物質の中から、各試験法に共通的に使用されている試薬を選定して試験を行ったが、結果的にADCA(評価:”not”)を除くと、他はほぼ同レベル(評価:”not low”)の爆発威力を示す試料となっており、スクリーニング試験法の評価のための試料としては、必ずしも適当ではなかった。ただし、ADCA以外の試料についても、その試験判定結果はいずれの試験法でも”not low”と同様であったにもかかわらず各試験法における測定値による各試料の序列は、試験法によって異なっていた。
 一方、C80Dによる試験結果は、最大発生圧力がAIBN,AMBN,BP0で、ほぼ同程度の値を示している点は、国連試験の結果とほぼ一致しているが、DTBPについては最大発生圧力が、他の物質の約2倍とやや高い値を示した。ただ、DTBPのみが特異的に高い圧力発生を示すというその傾向は、国連試験のなかの高圧オートクレーブ試験とは一致している。この傾向の一致は、C80D熱量計、高圧オートクレーブが、ともに密閉下において加熱分解による反応を観測する試験法であるのに対して、その他の試験である、弾動臼砲、Mk III弾動臼砲、トラウズル試験、改良トラウズル試験がいずれも、開放下における起爆による反応を観測している試験であり、この系の違いがあらわれたものと考えている。このことから、C80D熱量および圧力発生挙動測定は、爆発威力の評価に使用できる可能性があると考えられ、更に広範囲にわたる試料での比較検討を行う価値があると考えられる。
 
[2]小型爆燃性試験結果との比較
 小型爆燃性試験結果は、必ずしもデータの再現性が良くない。この再現性の悪さは、特に最大圧力発生速度において顕著である。しかしながら、爆発威力の評価に際しては、最大圧力発生速度よりも最大発生圧力の方が重要であると考えられ、最大発生圧力に関しては、ある程度のバラツキを無視すれば、ここでの試料は、1.5〜2.5MPaの間に収まっている。尚、ADCAに関しては、ここでの結果からは、”not”に対応をつけることができなくなるが、ADCAは、従来より”not”と”not low”のボーダーに位置する物質として知られており、大きな問題点では無いと考えている。
 
(2) 爆燃性
 爆燃性の国連評価試験としては、テストシリーズCの試験であるタイム/プレッシャー試験および爆燃性試験を比較対照とした。
[1]小型爆燃性試験結果との比較
 小型爆燃性試験結果は、必ずしもデータの再現性が良くなく、特に最大圧力発生速度については、飛びぬけて大きい値が出ることも合って、試験法自体の検討が必要と思われる。解析法による問題の可能性も考慮し、解析法の修正も試みたが、大きな改善は見られなかった。但し、とびぬけた値を特異値として無視して比較を行うと、DPTに関して速い圧力上昇速度を与えている部分は、傾向が一致している。DPT以外の物質については、国連試験法自体が、タイム/プレッシャー試験と爆燃性試験で違った結果を与えているもの(例えば、AIBNは、タイム/プレッシャー試験では、”Yes,slowly”、爆燃性試験では”No”など)もあり、もう少し、広い範囲の試料での比較検討が必要と思われる。
 
4.3.4.2 測定法について
(1) C80D熱量計
 今回は、C80D熱量計と圧力測定装置付高圧セルを用いて測定を行った。その結果、反応速度がある程度以上大きくなると、圧力測定系および熱量測定系がそれに追随できず、測定不能になることが明らかとなった。この際、試料量の削減により測定可能な範囲に収めることが可能な場合もあるが、逆に、試料量の減少により圧力発生が小さくなりすぎて、測定精度を落とす場合もあり、考慮が必要である。そのような場合には、圧力発生挙動と熱発生挙動を試料量を変えて別々に測定する方法も考えられる。(むしろ、圧力・熱量同時測定に固執して両方でデータが得られないリスクをおかすよりは、むしろわりきって別々に測定する方が、結果的に無駄な試験回数を減らすことにつながる可能性があると考えられる)
 C80D熱量計では、炉部分の熱容量が大きいために、測定後の炉の冷却に時間がかかり、比較的気温が低く、冷却時間が短いと考えられる冬場においても、最大測定速度が、4Sample/24時間であった。
 
(2) 小型爆燃性試験
 小型爆燃性試験は、粉末試料200mgに対し、B/KN03ペレット250mg、Ti/N03粉末100mgの2段着火を用いて行った。この試験法は、当研究室のガス発生剤における圧力発生挙動解析においては、実績のある方法であったが、今回は必ずしも再現性に恵まれず、試験結果において、ある程度の傾向は国連試験と一致したものの、大きな問題を残した。特に、得られた、時間一圧力曲線からの最大圧力発生速度の算出にあたっては、ノイズを拾って特異的な値を示す可能性を確認するために、解析法について検討を重ねたが、大きな改善を得ることはできなかった。別の原因として考えられるのは、ガス発生剤研究で行っているのはペレット状の試料であるのに対し、今回の試料が粉末状だったことである。これに対する改善法としては、試料をペレット上に成型する、あるいは、容器に入れて、燃焼表面積を制限する等の方法での再現性の確保が考えられる。
 
4.3.4.3 スクリーニングシステム
 今回は、C80熱量・圧力測定装置による、熱量・圧力発生挙動と小型爆燃性試験装置による圧力発生挙動と爆燃および爆発威力に関する標準試験方法との比較を行い、主として爆燃試験、爆発威力試験についてのスクリーニング可能性について検討した。
 スクリーニング試験は、本来、標準試験の代替ではなく、標準試験の実施頻度を減らすための篩い分けとしての意味が大きいため、標準試験結果との比較において、「スクリーニング試験結果から、換算式を使用して、標準試験結果を精度良く予測する」というような、高度な相関性を有することは、理想ではあるが、必ずしも要求されるものではない。
 それよりも、簡易試験法で判定が可能な範囲を十分に把握して、標準試験の回数を減らす目的での適用性を確認すること、および、分類スキーム全体を見渡して、スクリーニング化の可能性を考えることが必要である。ここでは、自己反応性物質の分類スキーム(図1-1,2)を取り上げ、スクリーニング手法による大まかな分類の可能性を考えた。
 その結果、スクリーニング試験により、爆轟伝播性、爆燃伝播性、については、その可能性の判定が、爆発威力については、not lowおよびlow以下の判定が、また、密閉下加熱による効果について、Violent,Medium,Lowの評価が可能であれば、タイプA-C,タイプD、タイプE、タイプF-Gの4種への分類が可能であると考えられる。
 このスクリーニングシステムの実現のためには、現状未検討である爆轟性に関するスクリーニング手法の検討、爆燃性に関しては、開放系での線燃焼を密閉系での質量燃焼で評価可能か否かの検討が重要である。爆発威力に関しては、計算との併用により、「ある程度以下」とういう評価は可能と考えられる。また、密閉下加熱による効果については、別のグループが密閉式圧力容器試験による評価を行っているが、現状の標準試験法である半密閉式圧力容器試験より定量性の良い評価が期待できると考えられている。








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