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パネルディスカッション
子どものスポーツライフを大人たちの手で取リ戻そう
パネリスト
 

木村みさか氏(京都府立医科大学医療技術短期大学部教授)
長野県生れ。専門は体力科学。高齢者の体力測定を中心に、スポーツ栄養学や発育発達などの分野で研究活動を行い、4年前から歩数計を用いた活動量測定調査を子どもたちを対象(小1〜6年、中1、高2)に行っている。調査を通じて、元気な高齢者の現実と、わが国の子どもたちが置かれた現状に憂慮を呈し、「子どもたちの日常生活における歩くという基本活動量が減ってきている。今のままでは、現在の高齢者のレベルには到底達しない」という危惧を強めたという。今こそ子どもたちにスポーツを奨励することが大切、しかもそれを具体的な数値で大人たちを説得できる第一人者。趣味はランニング。
 

倉俣 徹氏(高崎キッズ・べ一スボールスクール代表/読売巨人軍トレーニングコーチ)
1962年群馬県生れ。全米アスレチックトレーナーズ協会(NATA)公認トレーナー、全米ストレングス&コンディショニング協会公認スペシャリストSSFスポーツエイドのプログラム事業「小学生対象のシーズン制・複数スポーツプログラム」の主催団体である高崎キッズ・ベースボールクラブの代表をつとめる。ひとりひとりが持っているスポーツに対する個性を伸ばすための、通年トレーニングの方法を模索。ユニークな指導法で、スポーツ好きの多くの子どもたちの夢を紡いでいる。また、プロ野球読売巨人軍トレーニングコーチとして一流選手のコンディショニング指導を行っている。
 

中塚義実氏(筑波大学附属高校教諭/サッカーDUOリーグチェアマン)
1961年生れ。高校の保健体育科教諭、サッカー部顧問、教職部長。日本サッカー協会科学研究グループメンバー、東京都サッカー協会フットサル委員、日本クラブユースサッカー連盟理事。「部員が大勢いるなら一つのクラブから何チーム出場してもいいじゃないか」「部員が足りないなら他校と合同でチームを作ったっていいじゃないか」……誰もが主役になれるのがスポーツ、という理念の元に「補欠ゼロ」のリーグ「DUOリーグ」を創設した。自校のサッカー部を運動部のモデルケースとして様々な取組みを実践中。毎日の生活のなかにスポーツを位置付けることで、「スポーツの生活化」を提唱する。
 
コーディネーター
 

山口泰雄氏(神戸大学教授)
1952年兵庫県生れ。専攻はスポーツ社会学。生涯スポーツの普及を命題として、様々な年代におけるスポーツ参加の研究、スポーツ・ボランティアやスポーツ都市の構築についての研究を行っている。地域のスポーツクラブ事情にも精通し、素朴な疑問に対する親身なコンサルティングにも定評がある。実証的な研究成果という実績から、セミナーやシンポジウムなどの司会、パネリストとしての講演依頼も数多い。著書に「生涯スポーツとイベントの社会学」(創文企画)ほか多数。現在、TAFlSA−JAPAN理事、SSF評議員。趣昧は、テニスとローンボウルス。
 
オブザーバー
 

大八木淳史氏(ラグビー元全日本代表選手)
略歴は前掲(P.2)
 
山口 コーディネーターとして進行をつとめます神戸大学の山口です。私は今日のセミナーを楽しみにしてきました。なぜかというと、私は約18年にわたり高齢者の生涯スポーツを研究してきました。始めた当初は、スポーツといえばゲートボールしかなかったのです。ところが、グラウンド・ゴルフができ、ペタンク、ローンボウルズといろいろと高齢者も参加できる新しいスポーツが出現してきまして、それに伴い平均寿命が延び、高齢者たちがますます元気になっているという現状があるわけです。
 ところが高齢者が元気なる一方で、逆に子どもたちには問題状況が次々に生じてきて、深刻な事態にあると言われます。

子どものスポーツライフはなぜ置き去りにされたのか?
 
 では、まず現在の社会環境がどうなっているかを概観してみましょう。
 かつて1.44ショックというのがありましたが、合計特殊出生率、つまり女性が一生に産む子どもの数は、現在では1.38まで低下しています。これが少子化という現象で、核家族化、都市化、地域コミュニティの弱体化、それに高度情報化といった、いろいろな社会環境の変化とリンクしながら、子どものスポーツライフが置き去りにされてきたのだと思います。
 子ども自身への具体的な影響として、まず、体力の低下が挙げられます。東京オリンピックの年から実施されている体カテストの結果は、80年ごろに横這いになり、それからはやや低下傾向にあります。
 関連して考えられるのは、屋内遊びの増加です。私は2年前、神戸市の小学生たちが20年前、つまり彼らのお父さんやお母さんの時代とどう変わったのかを調査しました。結果として塾とか習い事が増え、屋外遊びが半減。遊びは、テレビゲームのような屋内遊び中心という風に変わってきております。
 次いで、スポーツ熱中型と運動不足型の二極分化が、子どもたちのあいだで激しくなっていることです。
 15、6年ほど前に、「子どものスポーツ障害が増えている」という研究リポートがずいぶん出ました。「スポーツ少年が危ない」というNHKの特集番組があったくらい、そのころ騒がれたのです。その状況は、いまもあまり改善されていないように思われます。一方で肥満児の増加も問題化しています。75年から98年の調査で、75年には1.5%しかいなかった小学生の肥満児は、98年は男子で3.4%と増えています。
 中学校での部活の減少も由々しき問題です。たとえば埼玉県の中学校では94年から97年の3年間で、558の部活が廃部になっています。1校当たり1.3部です。これは、少子化の影響による生徒数の減少、それによって学校の統廃合が生じ、教師の減員化や高齢化といった問題と無関係ではありません。運動やスポーツ経験のない教師が増え、それはそのまま、子どもがからだを動かす機会をどんどん少なくしていく、という悪循環に陥っています。
 こうした現状を打破する意味で、今スポーツに対して大きな期待が寄せられています。これは、学校、地域、家庭をつなぐといった側面から、スポーツの持つ機能が見直されてきたからです。
 今日は次の3つのテーマについて話し合いたいと思っています。一つは、子どもたちは今後どのようなかたちでスポーツにかかわっていくべきなのか。2番目には、スポーツ好きの子ども増やすにはどうすればよいのか。そして3番目には、その環境づくりを具体的にどう実現していくのかを検討したいということです。
 まず最初に、京都府立医科大学の木村みさかさんから、子どもの身体活動量の変化についてお話しいただきたいと思います。








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