4) 燃料噴射のメカニズム
この電子制御システムで、ECM よりの制御指令に即応し、高圧燃料噴射を実現するハードウエアの中心が、図6に示すメカニズムである。
シリンダヘッドには、電磁ソレノイドで作動する燃料流量制御弁を組み込みこんだ、ユニットインジェクタを装着しており、高圧の下で、燃料噴射時期、噴射パターンが自由にコントロール出来る。
( HEUI 式の場合は、蓄圧室に保有する高圧作動油で、このプランジャを、油圧駆動することにより高圧噴射を得ており、より自由に噴射時期を制御できる。)
ユニットインジェクタ部全体は、ヘッドカバー内部に密閉されており、ECM よりの制御信号は、シリンダヘッド部に設けられた、特殊防水ソケットを介して送り込まれる。
これで分かるように、ここで扱っている電子制御エンジンでは、従来のガバナハンドルに相当するスロットルはあるが、噴射量コントロールの燃料ラックやリンク類はなく、これに相当するコントロールは、すべてECMよりの制御指令信号により、電磁制御弁が直接行う。
また、エンジン回転速度や、燃料噴射量の制限は、制御プログラム内に設定されるため、機械的な方法でこの制限を変更する事は出来ない。
図6 EUI燃料噴射部
5) 制御信号と燃料噴射
コンピュータ搭載の ECM が受け取る信号は、ホール効果スピード/タイミングセンサ信号、スロットルセンサよりの PWM (パルス幅変調)信号、およびその他のセンサよりの、アナログ信号である。
アナログ信号はすべて、0-5Vレベルで ECM に取り入れ、ここで10ビットのデジタル信号に変換して演算処理する。
ECM より発信される制御信号は、ユニットインジェクタに組み込まれた、150-200MPa (機種により多少異なる)の燃料制御弁を100V程度の電磁ソレノイドで操作し、最適燃料噴射パターンと噴射時期を実現する。
特に、噴射時期については、クランク位置の上死点に対し、どの進角で噴射させるかを、実クランク位置に対し精密に制御する必要があり、このため、エンジンの各サイクル毎に、機械的クランク位置を基準にして、コンピュータ演算とのタイミング合わせを行う。
このため、カム軸には、特殊歯形パターンを持つタイミング車が装着されており、この歯形パターンに対応する電磁ピックアップ信号を基準にして、図7に示すように、サイクル毎にタイミングを合わせる。このタイミング信号に基ずき、燃料制御弁の作動、燃料加圧の遅れ等を考慮し、しかも必要な噴射パターンになるようなタイミングで弁リフト信号を送り、燃料噴射をコントロールする。
図7 燃料噴射タイミング
燃料噴射の具体的なステップは、およそ次のようになる。
― カム山の回転により、ロッド、ロッカを介して、ユニットインジェクタのプランジャが押下げられ、燃料加圧が始まる。
― ECM搭載のコンピュータは、回転速度その他、エンジン状態を示す各センサと、ユーザの要求信号(スロットル位置など)をもとに、内蔵の最適噴射データ、ガバナ特性等のデータに従って噴射時期、噴射パターンを計算する。
― ECMは、燃料噴射開始をするため、約100Vの電圧を、ユニットインジェクタ内蔵の燃料電磁弁に送る。
― この電圧で、燃料電磁弁が作動し、燃料逃がし孔を閉める。
― 燃料はプランジャバレル内にとじ込まれ、この状態でプランジャによる加圧が続き、この圧力がノズルの開弁圧に達すると燃料噴射が始まる。
― ECMが、燃料噴射を終了させるため、燃料電磁弁への約100Vの電圧発信を止めるまで噴射が続く。
4. 保護監視、遠隔操作システム
電子制御エンジンでは、搭載コンピュータとメモリの機能を最大限に利用して、質の高い、充実したエンジンの保護監視、遠隔操作、故障診断、整備情報提供を実現し、エンジンの稼働効率を高め、エンジンの総合的な信頼性向上につながっている。
1) システム化
エンジンの運用効率を広げるために構築された、トータルシステムの例を図8に示す。
このシィステムでは、データリンクと呼ぶシリアル通信線で、遠隔監視操作およびサービスツールと直結でき、さらに、約30mを越える遠隔地とは、RS232C信号を介して、また、必要に応じ衛星回線を経て、パソコンと通信し遠隔監視操作が出来るシステムが用意されている。
図8 エンジン運用、サービスネットワーク
2) 診断機能
ECMは、エンジン状態監視のための各種センサ信号を解析し、エンジンの異常や故障につながる状態の発生を検知し、その内容により警報ランプや点検指示ランプを点灯し、さらに原因診断結果を点滅コードで点滅表示もしくはパネルに表示します。
点滅表示は、ランプの点滅パターンで2桁の数字を示し、図9に示すような診断結果を発信し、事故を防止する。
これらの診断結果は、別途診断コードに置き換え、時系列履歴としてECM内に記録保持される。これは、サービスツールを接続して読み出すことができ、効率のよい保守整備につなげることが出来る。
点滅診断 コード |
診断内容 |
参照 マニュアル |
マニュアルの内容 |
27 |
冷却清水温度センサ断線または短絡 |
P-607 |
信号電圧 4.8V以上
点検の詳細等指示 |
28 |
スロットルセンサの較正、調整要す |
P-612 |
センサの較正の詳細指示 |
34 |
エンジン回転速度センサ信号断絶 |
P-602 |
センサの点検方法の詳細指示 |
61 |
高冷却清水温度警告 |
P-607 |
警告の意味と考えられる原因 |
62 |
冷却清水水位異常 |
P-613 |
警告の出る条件と調査事項 |
図9 点滅診断コードの例
3) サービスツール
前出の図8に示すように、ETと略称する独自開発のサービスツールを、エンジンハーネスのデータリンクソケットに接続することにより、詳細な運転状況のモニタや、警報、不具合整備履歴のチェックができ、的確な保守整備が出来る。
ETは図10に示すような構成となっており、このサービスツールの中心となるデータ処理ソフトは、ウインドウズ95搭載のパソコンにインストールし、データ変換アダプタを介してエンジンに接続し、ECMと通信することにより、ユーザパラメータ(アイドル回転数など)の設定や、各種保守サービスに活用する。
図11は、不具合検討のために、パソコンのウィンドウズ画面上で、ECMの診断履歴を読み出している例を示す。
電子制御システム系は、何らかのトラブルがあった場合、それはまず、電源、センサ、配線接点等であり、これらはECMの警告、および診断結果を調べることにより容易に探知でき、比較的明確で、単純迅速な処置ですむ。
このように、診断機能の充実は、電子制御エンジンの大幅な信頼性向上をもたらしている。
図10 ET(サービスツール)
図11 診断コード履歴読出ウインドゥの例