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3) 空気始動
 空気槽に蓄えられた圧縮空気を使用してエンジンを始動させるもので、圧縮空気を、ピストンの上部に送り、その膨張力によってピストンを勢いよく押し下げてクランク軸を廻し始動させる方式と、電気始動用のスターティングモータの代わりにエアモータを使用して始動させる方式とがある。
(1) 空気始動(圧縮空気でピストンを押し下げる方式)
 空気槽(エアタンク)、分配弁、始動弁で構成されているものと、別に操縦弁と塞止弁を追加したものとがある。
 始動空気の流れは、下記の2種類に大別される。2・185図にその一例を示す。
 なお、操縦弁及び塞止弁が設けられて無い機関は、エアタンクからの空気が、直接※印部に入るためエアタンクの始動ハンドルを開ければ即エンジンは始動する。従って始動後は急ぎタンクの始動ハンドルを閉めねばならない。
 
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2・185図 空気始動装置の構成と圧縮空気の流れ
[1] 空気槽
 空気槽は、最高圧力2.9MPa(30kgf/cm2)始動用圧縮空気を蓄える圧力容器であり、安全法の機関規則に合格したものでなければならない。空気槽の口元には、2・187図に示すようなヘッダが取り付けられ、主弁(起動弁)の他に充気弁、安全弁、圧力計、ドレンコック、可溶栓等が設けられている。可溶栓は72〜75℃の温度で溶解する合金で造られ、タンクが熱せられ内部の圧力が異常に上昇して、タンクが破裂する前にこれが溶けて内部の高圧で飛び出し、タンクの爆発を防止している。又タンクの内部には充気時に凝縮水などが溜まるため、時々ドレンコックを開いてドレンを抜くと共に、水やガスによる腐食が進行して肉が薄くなるため定期的に水圧テストを実施する必要がある。
 
(取り付け上の注意)
○ タンクを斜めに取り付ける時にはドレンパイプの位置を確認しパイプの先がタンクの一番低い位置になるよう調整すること。
○ タンクの取り付け時には圧縮空気を抜いておくこと。
 
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2・186図 エアタンク
2・187図 エアタンクのヘッダ部分
[2] 分配弁
 分配弁は、各シリンダのピストンが圧縮上死点からクランク角度で約120度の間にエアタンクの圧縮空気を着火順序に従って各シリンダヘ送り込み、機関を始動させる装置であり、通常はカム軸後端部に設けられている。
 分配弁は、2・188図に示す如くオルダム接手によりカム軸と連結され、カム軸と同じ速度で回転している円板である。分配弁の外周部には約60度の長孔又は切込みがあり、これが分配弁本体の各シリンダヘ通ずる通気孔と合致した時パイロット空気がそのシリンダの始動弁に送られるようになっている。6気筒機関の場合には、クランク角度がどの位置においてもパイロット空気孔は、いずれかのシリンダヘ通じるように造られているのでどの位置でも始動できるが5シリンダ以下の機関では、クランク位置によってはいずれのシリンダにも通じずパイロット空気孔を閉鎖してしまう箇所があり、始動時にはフライホイールをターニングして、いずれかのシリンダを、圧縮上死点過ぎ、5〜10度の位置に合わせた後始動せねばならない。
 
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2・188図 分配弁の構造と配管
[3] 始動弁
 始動弁は各シリンダヘッド毎に設けられた始動弁穴へ始動弁アッセンブリで挿入し、上部からカバーで固定され、ガスケット及びOリングでガスシールされている。
 2・189図に始動弁の断面を示す。エアタンクの主弁を開くと、空気は主管から始動弁上部室まで充満し〔操縦弁(小形では装備してないものが多い)を開くと〕分配弁を通過したパイロット空気が始動弁上部から入り、パイロット弁を弁リフトだけ押し下げるので起動弁が開弁し、空気主管の空気がシリンダヘ流入しピストンを押し下げる。パイロット弁が押し下げられる時戻しバネの空間にある空気がシリンダ外に排出される。このようにして順次着火順序に従って各シリンダのピストンが押し下げられ機関は回転して始動する。
 始動弁は、通常バネ力で弁シート部へ密着した状態で燃焼室の一部を形成しており、弁及び弁シートの当たり不良やカーボン噛み込み等があるとガスシールが悪くなり、燃焼ガスが浸入し、腐食、膠着、焼付き、等を生じ、作動不良になるとともに、運転中は高温高圧の燃焼ガスが浸入して、空気主管が過熱し、変形や変色を起こすため定期的に点検整備することが必要である。
2・189図始動弁
[4] 操縦弁
 操縦弁は2・190図(a)に示すような部品で構成されており、始動空気の一部を塞止弁の開閉プランジャに送って塞止弁を開くためのもので、手動により操作しエンジンを始動させる弁である。








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