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6.4 操縦装置
 操縦装置の一例を3・78図に示す。船の方向はオービットロール(ハンドル)でプロペラ船同様操船出来る。ハンドルを回すことによりウォータジェットに取り付けられている操舵用油圧シリンダを動かし、ステアリングノズルの方向を左右連続的に動かすことが出き、ジェット水流の方向を変えることにより船の方向が変わる。又前進後進の操作も同様にリモコンスタンドのハンドルを前進、中立、後進の位置に動かすことによりウォータジェットに取り付けられている前後進切換用油圧シリンダを動かし、リバースバケットを上下させることによりできる。リバースバケットを持ち上げた状態ではノズルからジェット水流はそのまま後方に出るので船は前進する。逆に下に下ろした場合にはジェット水流はリバースバケットにより前方に出るので船は後進する。中間の位置では水流が前後にバランスして中立(ゼロスピード)の状態になる。
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3・78図 1機1軸の操縦システムの例
 操船要領(ステアリングノズル、リバースバケットの状態と船の進む方向)については3・79図にその概略を図解する。
3・79図 操船要領図
 より上手く操船するためにはちょっとしたコツが必要
i) 主機関の回転は船をゆっくり動かす時でも、800〜1,000min-1(800〜1,000rpm)(30〜40%回転数)位に上げて操船する。
ii) その時にステアリングとバケットを少しづつ動かすことで船をゆっくり動かすことができる。
iii) 常に舵角計に注意し、前進時でも後進時でも舵角計の指針の方向へ船首が動くことを覚える。
iv) 高速回転時に急にスロットルを下げると船尾が横滑りすることがあるのでその感覚にも慣れること。
v) 急発進や急停止も可能である。スロットルを全開にしておいてバケットを前進位置にすると急発進する。全速で航行中でもスロットルはそのままで、バケットを後進位置にすることで急停止ができる。このような運転をしても主機関に過負荷がかかることはない。
6.5 腐食防止処置
 海水による腐食防止のため、耐食性材料を使用してウォータジェットを製造し、更に最も効果的な場所に亜鉛板(亜鉛製アノード)を配置して腐食を予防している。しかし船体への装置の取り付け方や電気工事の仕方によっては腐食が生じる場合があるので注意が必要である。 海水中の金属部分、特にインペラの腐食は主として船の電気系統からの漏洩電流が原因で生じる。この電流は極めて小さく、測定不能の場合もあるが、長期間漏洩していると酷い腐食が生じることがある。 ウォータジェットの腐食対策は船体の材料により異なるが、FRP、アルミ船の場合についてアースボンド及び配線方法を下記及び3・80図に示す。
1) アースボンド アースボンドはFRP船の場合、1mm厚×14.5mm幅以上、できれば25〜70mm幅の銅板を使用する。又アルミニウム船体の場合はアルミ板を使用する。 接続配線は電気抵抗を小さくするため(0.01Ω以下)に、断面積14.5mm2以上(直径5mm以上)の絶縁銅線を使用する。又接続部は出来るだけハンダ付けとするが、ボルト締めの場合はよくみがいて接触を良くし定期的に点検すること。 船体底部の前後に伸びるアースボンドはビルジウォータから離しておき次の箇所と接続する。
(a) エンジンフレーム
(b) ウォータジェットのケーシング
(c) 船体に取り付けたすべての亜鉛板
(d) 燃料タンクその他の主要な金属製品
(e) 主な電気装置のケーシング
(f) FRP船の場合いつも海水に浸っている船底部の外部アース板
(g) アルミ船の場合いつも海水に接している部分に溶接された接続端子
(h) バッテリのマイナス端子に直接接続
 
2) 電気配線 電気配線はすべてプラスとマイナスの2本で配線し、マイナスを機器のフレームや船体に落としたり、アースボンドに通してはいけない。
 
3) ラジオ、トランシーバ、ロランその他電気機器
 バッテリ、ラジオその他電気機器はウォータジェットにアースしてはいけない。完全に絶縁するか、アースボンドとウォータジェットから十分に離して、別のアース板を用いる。
 
4) 亜鉛板 ウォータジェットの本体は電気的に亜鉛板に接続している。喫水線以下のウォータジェットのノズル等数箇所に取り付けてある。亜鉛板が腐食していることは、保護作用を果たしている証拠である。ひどく消耗している場合(半分以下)は交換する。
3・80図 アースボンド接続例(FRP&アルミ船)
5) ウォータジェット使用中の点検
 ウォータジェット使用中は次の2点を定期的に点検する。
i) アースボンド系統に緩みや腐食が無いか調べ電気抵抗が低い事を確かめる。
ii) すべての亜鉛板を調べ半分以上腐食しているものは新品と交換する。
 
6) 汚れ止めペイント
 ステンレススチールはいつもきれいにしておく。ウォータジェットにはスズベースの汚れ止めペイントだけが使用可能である。銅を含んだペイントはウォータジェットを腐食させる。
 
7) 外部電流に対する保護
 外部電流保護は必要の場合に使用する。
6.6 点検と整備
1) 定期点検
 主機関同様事故を予防する上で最も重要なことは、常日頃からウォータジェット推進装置に接して点検するとともに定期的に点検し、保守整備することが大切である。保守点検整備を定期的に実施しておれば事故の原因となる些細な異常が発見でき、修復することにより事故を未然に防止することが出来るものであり、このような習慣を身につけることが事故予防に最も効果がある。
 定期点検の期間や時間は使用環境条件、取扱い方法やメーカ等により異なるため難しいがその一例を3・11表に示す。
3・11表 定期点検表
点検間隔 区分 点検項目 点検・処置内容
毎日 仕業前 A ベアリングハウジングのオイル量点検 レベルゲージで点検し、 不足していたら規定のオイルを補給する。
A オイル中の水混入点検 メカニカルシールの点検、 水混入し白濁していたらオイル交換
運転中 A ベアリングハウジングの温度点検 油温90℃以下
A バケット作動、 ステアリングノズルの作動角度の点検 必要あれば調整する
毎週 A グリースニップルへの給脂 インテークフォークの左右のベアリング(2か所)、 ステアリング及びリバースバケット油圧シリンダ用球面ブラケット用グリースニップル(2か所)へ、 グリースを充てんする。
250時間ごと又は1ヶ月ごと A ベアリングキャップ取り付けナットの緩み点検 ナットが緩んでいたら、 規定トルク (10.2kgf・m)で締め付ける。
A 亜鉛製アノードの磨耗点検 点検し、 半分以下に減っていたら、 新品と交換する。(交換する場合は、 区分B)
A ベアリングハウジングの検水穴の詰り 接手部が塩で詰まっていないか点検、 詰まっている場合は掃除する
500時間ごと又は3ヶ月ごと A リングナットの緩み点検 ナットが緩んでいたら、 規定トルク (23.9kgf・m)で締め付ける。
B シリンダ取り付けブラケットの緩み点検  
B バケット取り付けピボットボルトの緩み点検 緩んでいたら、 規定トルク (41kgf・m)で締め付ける。
1,000時間ごと又は6ヶ月ごと B 油圧ホース取付部の緩み点検  
B インペラとインペラライナのすきま間測定 0.9〜1.8mm(新品0.9〜1.3mm)
B 推進装置の完全検査  
A オイル交換 初回は100時間
 
       点検区分
 A……海上で可能。
 B……上架する必要がある。
 
2) 点検・整備
(a) インペラは翼の欠損、キャビテーションエロージョン等の有無を点検し、異常のあるものは交換する。又インペラとインペラライナとのスキ間をチェックし、過大なもの(メーカ限度基準値を超えるもの)はインペラ又はライナを交換する。
(b) インペラシャフトをスラスト方向に動かし、隙間のあるものはシムにてメーカ基準値になるよう調整する。(例えばベアリングアウタの締め代が0〜0.05mmになるように調整する)又シャフトの曲がりを点検し、曲がりのある場合は修正又は交換する。
(c) シャフトスリーブを点検し、摩耗、腐食及び傷のある場合は交換する。
(d) インペラライナを点検し、摩耗、腐食及び傷のある場合は交換する。
(e) ディフューザは翼の変形、欠損、キャビテーションエロージョン等の有無を点検し、異常のある場合は修正又は交換する。
(f) ベアリングはスラストベアリングの変形、変色、焼付き等の有無を点検し、異常がある場合は交換する。又カットレスベアリングの摩耗、偏摩耗、亀裂等を点検し、異常がある場合は交換する。
(g) シールはメカニカルシールを点検し、傷、摩耗しているものは交換する。又オイルシールも同様点検し、リップに傷、摩耗しているものは交換する。 スリーブについても点検し、シール溝が出来ている場合は逆にして組み込むか交換する。








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