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2) 変節装置(油圧サーボ機構)
(1) 軸系内にサーボ機構があるもの
 CPPが未だ一般的でなかった昭和40年代には変節装置(油圧サーボ機構)が軸系内にあるケースと軸系外にあるケースの2種類があったが、中小形ではほとんど軸系内にサーボ機構があるものが使用されている(3・69図参照)。
 軸系内にサーボ機構がある場合には据付けが容易であり保守も簡単になる。
 油圧ポンプから出た圧油4.9〜6.9MPa(50〜70kgf/cm2)を分配弁(電磁弁)、給油箱(筒)を通じてサーボシリンダの前進側あるいは後進側に供給してサーボピストンの動きは追従輪を介して変節制御装置、翼角指示計に伝えられる。
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3・69図 変節機構
(2) 減速歯車装置にサーボ機構を組込んだもの(3・70図、71図、72図参照)。
 中高速歯車減速機関の普及とともに減速歯車装置にサーボ機構を組込んだケースが逐次増加している。
 3・70図はサーボシリンダを大歯車に組込んだ例。
 3・71図は異芯型歯車減速装置にサーボシリンダを船尾側に、給油筒を船首側に組込んだ例。
 3・72図は同芯型歯車減速装置の出力軸に給油筒、船尾側にサーボシリンダを組込んだ例
 いずれの場合も変節作動用の油圧ポンプは減速機軸から駆動され、作動油も減速機潤滑油と共通にしている。
 これらの型式の特長は減速歯車装置とサーボ機構を有機的に組合せることにより両者の利点を生かすと共に主機軸系全長の短縮、据付作業の容易さ、価格の低減と機関室の合理化をはかったことにある。
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3・70図 減速変節装置(1)
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3・71図 減速変節装置(2)
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3・72図 減速変節装置(3)
3.3 据付上の注意
 
1) 据付け・芯出し
 可変ピッチプロペラの据付けは固定ピッチプロペラの場合と原則的には変わるところがないが、前項で述べたように変節軸には大きな力が作用するので変節軸と変節装置の連結は十分強固に行わなければならない。
 
2) ピッチ零点の確認
 プロペラと変節装置の翼角合せは各製造所とも容易にできるように、要所にチャンバゲージをとっているので据付け時はこれを確認しなければならない。普通、基準としてはプロペラピッチ零点を示すマークが、プロペラボス付根部とボス、プロペラ軸と変節軸および変節装置など所要個所に打刻してある。
 
3) 油圧系統の配管および清浄
 油圧系統の配管で最も注意すべきことは、ポンプの吸入側よりエアを吸い込まないようにすることである。エアがサーボシリンダに入ると変節作動が不確実となる。
 油圧機器は特に精密に製作されているので、油の中のゴミ、異物等により、調圧弁の作動不良、油温上昇、ポンプの異常摩擦等の事故を起こすことがある。これを未然に防ぐためには各機器、パイプの取付け前には必ず酸洗い等による清浄を実施し、配管後はフラッシングオイルによって製造者が指定する方式に従って入念にフラッシングを行う必要がある。
 
4) 進水時の注意
 普通可変ピッチプロペラは推力軸受あるいは主機関を据えてから進水させるが、万一推力軸が連結されていない時は、進水時の衝撃によって軸系が前後に移動しないように、船体より支えを出しておく必要がある。
 進水前には、予備ポンプを電動駆動して翼角変節の確認運転を行う必要がある。また重力油タンクを充たし、プロペラボスに油圧をかけ、油密を検査し、ボスおよび翼より油漏れの無いことを十分確かめておく必要がある。
 
5) 変節油タンク
 変節装置の台板に油を溜めている構造のものはよいが、別に変節油タンクを設けている形の可変ピッチプロペラでは、船体のトリムも考慮して油が流れ易いような位置を選定し、且つビルジがはいらないよう注意しなければならない。
 
6) 重力油タンク
 プロペラボス内に水圧より若干高いヘッドを持たせるために通常、水面より2.5m以上の位置に重力油タンクを設置する必要がある。このタンクにはゲージグラスをつけ油面に注意せねばならない。
 途中のパイプはできるだけ曲りを少なくして重力油供給軸受に導かれるまでの圧力損失を少なくするよう注意すること。
 なおプロペラボス内部をグリースで潤滑している型式のものでは、この重力油タンクは不要である。
3.4 取扱い法
 
1) 日常の取扱い
(1) 主機関を始動するとき
 
[1] 変節油タンクやシフタの油面を確認する(油面がゲージ基準線より低下していると作動不良、発熱などの原因になる)。
[2] 最近のものは日常の手数を省くために、始動または停止時に開閉しなければならないようなバルブやコック類は設けられないのが普通であるが、特に油管系中にあるバルブやコック類には注意して、油回路が閉じたままで変節油ポンプを始動してはならない。
[3] 始動あるいはクラッチ嵌入は中立状態(プロペラ推力が零になる翼角)で行うことを習慣づけること。
[4] 主機関を始動する前に変節油ポンプをまわして変節作動を確認した方がよい。
 
(2) 日常運転中
 
[1] 急激な変節はなるべくさけるべきである。通常可変ピッチプロペラと直結した主機には負荷制御装置がついているため、例えば、前進全力から瞬時に後進全力にすると、回転速度が著しく下り、船体ならびに機械類が激しく振動するので、危急の場合を除いては、こういう変節はさけることが望ましい。
[2] 油ポンプおよび油圧に注意すること、変節作動の原動力となる油ポンプは、各製造所とも非常に信頼性の高いものを使用しているのでほとんど故障はないが、日常時々その音響と油圧(各製造所によって多少異なる)に注意する。
[3] 芯出し不良は発熱、振動の原因になるばかりでなく、摺動部損傷の原因ともなるので各部の温度に注意すること。
 
(3) 重力油について
 
 重力油タンクよりプロペラボスヘの油は、船がドックした時以外は常に与えておく必要があり、重力油タンク出口弁および船尾軸受(重力油供給軸受)入口弁は常に開け、時々重力タンク内の油量を確め一定量まで減った時には、ポンプより補給してやる必要がある。重力油供給軸受のパッキンが摩耗してくると重力油が早く変節用タンクに戻るようになるので、時々点検してみる必要がある。
 
(4) 使用する油について
 
 変節装置に使用する油やグリースには作動に適当な流動性と潤滑性が必要である。
 変節装置の構造により使用油種が異なることがあるので、製造所の指定する油または相当品を使用するのがよい。
 タンク内に清掃不良のまま油を入れると、この不純物が油圧系統へ入るので、タンク内は清掃してから油を投入する必要がある。異物が混入すると、
[1] 変節機構が作動不良となる。
[2] こし器がつまったり、ポンプを損傷する。
[3] 軸受メタル、その他を損傷する。
 
2) 危急時の処理
 可変ピッチプロペラにおいて、プロペラ変節に異状をきたす事故として考えられるのは次のごときものである。
(1) 操縦ハンドルを動かしても管制弁箱の管制弁が動かない
 この場合に最初に考えるべきことは、スタンドより可変ピッチプロペラ管制弁までの途中の遠隔操縦装置に異状があるかないかということで、リンク機構の場合はピンが抜けたり、キーが脱けたりする事がある。又、電気式の時は電線の切断、接続不良等が原因であり、油圧式のときは管の破裂、接続部洩油等が原因である。
 次に管制弁の内に異物が混入し、管制弁の移動を妨げる事がある。このときは管制弁を分解して異物を取りのぞく必要がある。あるいは海水が変節油に混入したことを知らず、そのまま長時間放置しその後再使用したとき等には発錆のために作動不良となることもある。
 
(2) 管制弁が動いても追従輪すなわち油圧ピストンが動かない
 この場合は、作動油の油圧が低下しているか、あるいは作動油が管制弁からサーボシリンダまでの間で多量に洩れている事が考えられる。従って圧力調整弁またはサーボシリンダに至る油回路を調べる。
 油圧系統の故障でどうしても変節できないときは、応急処置として機械的にある一定の前進ピッチに固定する機構がつけられているのが普通で、それによって帰港することができる。
 
(3) ピストンが動いてもプロペラ翼が動かない
 変節棒の切損、クランクレバーの切損、あるいはボス内部機構の異常によるもので、ボス内部の事故の場合はドックに入って調べる必要がある。
 しかしこのような事故は未だ実船においては、わが国では一隻も発生していない。
3.5 ドック時の解放検査
 
1) 各種パッキンおよびオイルシールの点検
製造所や形式によって、パッキンやオイルシールの使用個所ならびに使い方に多少の差はあるが一般に可変ピッチプロペラでは、パッキンとオイルシールは重要な構成部分をなしている。
 最近は、これらの材料や成形技術も非常に進歩してきたので、半年や1年で交換しなければならないということは無いのが普通で、強いていえば、プロペラ翼のオイルシールのみは2〜4年に1回(メーカ説明書参照)、その他は定期検査時に点検し、要すれば取換える程度でよい。
 
2) プロペラボス内部への海水浸入、または油もれの有無
 上架したならまず、ボスのプラグを外して海水浸入の有無を調べる。少々の海水は浸入していてもまず問題はない。すなわちボス内部には空気がないのでほとんど発錆もなく、また相当量の海水がはいってもわずかに黒色の点蝕ができる程度で、作動や機能にはほとんど影響はない。
 
3) 船内変節装置
 可変ピッチプロペラ装置としては、回転部(主軸および油ポンプ)はともかく、変節時のみ運動する(部分往復運動部ならびに回転運動部)の作動頻度と速度は、一般機械に比較すれば全く問題ないほど少いので、各運動部の潤滑が十分になされていれば、装置自体の日常の手入れは、新造船後2〜3年はほとんど必要がないのが普通である。したがって、点検ならびに手入れの時期の大ざっぱな見当として、中間ならびに定期検査時に実施すれば十分である。
 
4) プロペラ翼の零点の確認
 翼角の基準となる零点は、どの製造所でもボスに打刻をしてあるから、据付時同様にこのマークと船内変節装置のうち追従装置、管制弁などのマークを正確なチャンバゲージによって一致させ、その後で各指針をこれに合せる。








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