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(3) 構造と機能
(イ) 軸流タービン(アキシャルタービン)
 軸流タービンは、排気ガスがタービン翼の中を軸方向に流れる方式で、一般に空気流量の大きい大形機関に採用されている。2・153図にその代表的な断面図を示す。
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2・153図 アキシャルタービン断面図
(a) 回転軸およびタービン翼
 回転軸には、タービン翼が固定されていて、翼は600℃〜700℃の高いガス温度と高い回転数によって発生する遠心応力を受ける。したがって、回転部分は十分な動的バランスが取ってある。
 軸受部へのガスの流入、および潤滑油の吸出しを防止するため軸上には、油切リング、および気密ラビリンスを置き、ラビリンス中央部へ送風機より高圧空気を導く構造となっている。
(b) 空気入口
 布と金網を重ねたコシ網製のフェルト形、耐蝕性金属を重ねた金網形と、径および長さが10mm程度の金属又はプラスチック製円筒を数多く詰合わせた金環形フィルタ等が取付けてある。
(c) ブロワ羽根車
 ブロワは遠心式のため、回転軸にはめ込まれ、キーまたはスプラインによってトルクが伝達される。羽根入口部は回転方向に湾曲しており、この部分を前翼と云い、これに続く放射状の部分をインペラ、または主翼と呼んでいる。
(d) ノズルとデイフューザ(案内翼)
 排気タービンが規定回転で効率よく作動するためには、タービンノズルとブレード(翼)の面積と形状が、排気エネルギに適し、送風機のディフューザも機関の所要空気量に適したものでなければならない。送風量が機関の所要空気量より多いときは、送風機にサージングが発生し、風量・風圧が脈動し騒音と振動を発生し運転不可能となる。このような場合には、タービンノズルおよびディフューザを交換することによって適正な性能を得ることができる。
 送風機の風量が機関所要空気量より極端に多くなると羽根の前面の圧力が高く背面の圧力が低くなるので流速は羽根の前面で遅く、背面で速くなるため羽根の前面で逆流が起きて渦が発生し空気の流れは不安定になり騒音と振動を発生する。この現象をサージングという。
(e) 軸受および給油装置
 現在使用されている給油装置は、玉軸受油浴潤滑方式である。回転軸にはめ込まれた玉軸受は、その外側をダンパで支持され、軸受箱にはめられている。また、軸受外輪は固定されている。回転軸の両端に給油円板がはめ込まれ固定されており、軸の回転とともに給油円板も同時に回転する。潤滑油は円板が2〜5mm入った状態で油面が保持されているため円板が回転することによって、潤滑油は上部に吸い上げられ、その一部は軸受箱上部の潤滑油通路を通って玉軸受の右側に落下して溜り、軸受を潤滑する。
 最近の過給機には、軸受給油装置として、補助ポンプが多く装置されている。タービン軸に固定された油噴射筒の内部に、挿入されたニップルは、油吸入囲に固定され、油吸入囲は、軸受箱に固定されている。油噴射筒とニップルは、リングにより空気気密が保たれる。タービン軸の回転により、油噴射筒も同一回転をし、遠心力により、潤滑油を吸入、吐出する。潤滑油吐出口は、玉軸受に至り、玉軸受を、給油する方式がとられている。
 玉軸受は軸が高速回転し、温度が60℃〜70℃に上昇するので、特に精度の高いベアリングが必要で、使用時間も6,000時間〜8,000時間に制限し安全を守っている。
(f) 軸気密(ラビリンスパッキン)
 過給機の軸気密は空気、ガス、油のもれを最少限にする目的で作られている。軸に輪状の溝をきり、板状の不銹鋼などをワイヤで埋めこんでコーキングにより軸に固定したもので、気密性能にすぐれ、軸と接触した時も損傷が少ないなどの特徴がある。しかし分解・組立時の取扱いに注意しないと板状鋼のストリップの尖端を損うことがある。また長時間の運転によって、カーボンなどで摩耗することが多々あり、損耗した場合はこれを交換できる構造になっている。
(ロ) 輻流タービン(ラジアルタービン)
 ラジアルタービンは、タービン翼車内をガスが半径方向に流れ円周に配列されたノズルを通り、大きな接線速度を与えられる。そしてタービンの羽根に衝突し、タービン軸を毎分60,000〜160,000回転させながら中心方向に流れ、軸端より軸方向に排出される構造で空気流量の小さい場合はアキシャルタービンより優れており小形高速機関に多く採用されている。2・154図にその代表的な断面を示す。
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2・154図 ラジアルタービン断面図
 タービンと送風機は1本の軸で連結され、送風機の翼はタービンと同じ回転数で駆動される。送風機の中心より軸方向に流入した空気は回転するインペラを通る時、圧力をあげ、大きな接線速度を与えられて、ブロワケース内に入りしだいに減速されながら圧力を増して吸気管に送り込まれる。
 タービン軸はタービンホィールとブロワホィールの中間にあるフローテイングメタルで支えられている。フローティングメタルはメタル内外面で油膜が二重になり、メタルはつれ廻りするのでタービン軸の回転数よりも軸受面の滑り速度は低くなり動的安定効果がある。
(4) 点検と整備
 部品は市販の中性洗剤を用い、付着物が軟かくなるまで浸し、プラスチックスクレーパか剛毛ブラシで洗浄し、最後に灯油に浸して洗浄する。
(イ) タービンロータ
(a) 軸の曲りを点検し、許容値を超えるものは交換する。
(b) 軸受部の外径を測定し摩耗が許容値を超えるものは交換する。
(c) タービンブレードの曲り、変形、欠損や亀裂を点検し、これらの損傷があるものは交換する。ブレードの曲り修正は運転中飛散する恐れがあるため行ってはならない。
(d) タービンブレード表面、外周や背面を点検し、腐食の激しいものは交換する。 外周や背面のケースとの当りによる軽微な損傷は修正できるが軸が許容値以上に曲っていることが多いので注意を要す。
(ロ) コンプレッサホィール
(a) ブレードの曲り、変形、欠損、亀裂のあるものは交換する。曲り修正は運転中飛散の恐れがあるため行ってはならない。軽微な曲りはそのまま使用できる。
(b)ホィール外周や背面を点検し、ケースに当り損傷しているものは交換する。軽微なものは修正する。但しアンバランスの恐れあるものは使用不可である。
(ハ) フローティングメタル、スラストメタル、球軸受
(a) フローティングメタル内、外径の寸法計測を行い使用限度を越えているものは交換する。また当りを点検し、メッキ層が剥離したり摩滅したものは交換する。
(b) スラストメタルの摩耗が使用限度を超えたものは交換する。
(c) ベアリングハウジング内径が摩耗し使用限度を超えているものはハウジングを交換する。
(d) 使用時間は規定以上になっていないか。球軸受では球および内外輪に変色がないか、回転は滑らかであるか等を調べ、異常あるものは交換する。
(ニ) シールリングおよびOリング
(a) シールリング合口スキマが使用限度を超えるものは交換する。
(b) Oリングや折り曲げ座金などの消耗品は新品に交換する。
(ホ) 水冷タービンケース
(a) 水ジャケット部の汚損および腐食状況をチェックし、異常あるものは交換する。
(b) ケースのガス側および水側よりの浸食状況をチェックし、異常あるものは交換する。
(c) 防食亜鉛の減耗の程度をチェックし、1/2以下になっているものは交換する。
(へ) 組立中の点検
(a) タービンホィール外周および背面とケースとのスキマ、さらにコンプレッサホイール外周および背面とケースとのスキマなどが組立基準内に入っているか否かを点検する。
(b) タービンロータ軸の軸方向の遊び寸法(スラストスキマ)をダイヤルゲージで測定し組立基準内にあるか点検する。
(c) タービンロータ軸を手で廻し、軽く円滑に回転すると共に異音の発生がないことを確認する。
(注)回転部分を修正した場合は必ず動バランスを取り組立てること。
(5) 故障原因と予防
 過給機は運転中に数万回転の高速回転をするため異物などがタービンやブロア内に入り込むと非常に強い衝撃を伴いタービンブレードやコンプレッサホィールの羽根が曲ったり折損して飛散し、大きな衝撃音が連続して発生すると同時にケースと干渉したりロータ軸が曲がり運転不能になることもある。このような事故は組立時に異物が排気管内に入っていたり、サイレンサから吸い込んだりせぬように注意すれば避けられることである。
 以下運転中に発生する主な事故と原因ならびに予防について説明する。
(イ) 過給機タービンロータ軸の焼付き
潤滑油の不足、油膜切れ、ガス浸入などにより発生することが多く、特に潤滑油フィルタの詰り、汚れ等による給油不足の他に始動時のウィング不足や、高負荷運転後の機関急停止など取扱い上の不注意により発生する場合が多い。
(ロ) タービンブレード破損
 殆んどの場合は吸排気弁傘部の欠損による破片がタービンブレードに巻き込まれ二次的事故として破損することがある。運転中タービン部から異音が発生したら直ちに機関を停止し、タービンブレードを点検することが重要である。ブレードが曲ったり折損していると高速回転におけるバランスが崩れ、振動が出たり、タービンロータ軸が曲り、大事故となる恐れがある。吸排気弁のスキマを点検するか各シリンダの圧縮状況を点検して傘部欠損シリンダをさがすことが大切である。
(ハ) タービンケースの赤熱
 排気温度が異常に高い場合であり、過負荷運転、燃焼不良によるアフタバーニング、機関室温度の異状上昇、排気弁からのガスもれの他、空気冷却器の汚れによる冷却効果の低減、などにより発生する。但し夜間などはタービンケースが赤熱して見えることもあり、正常な排気温度か否かを点検する必要がある。
(ニ) 給気圧力の低下
 サイレンサカバー(フィルタ)の汚れ、コンプレッサホイールの汚れ、タービンブレードのカーボン汚れ、タービン背圧が高過ぎるなどのほか給気系統のもれ及び排気ガスのもれなどがある。
 コンプレッサホィールの汚れ清掃は少量の清水を高負荷運転中に注入して行う方法もある。またサイレンサのスポンジフィルタは中性洗剤で洗ったあと清水で良く洗って陰干しにして使用する。
 背圧がメーカの規定値を越える場合は悪影響が出るため、抵抗を少なくするように配管しなければならない。
(ホ) コンデンス現象によるトラブル
 大気の湿度が高い時に高過給機関では空気冷却器内の温度低下が大きく空気中の水蒸気が凝縮して大量のドレンを発生することがある。
 この多量なドレンを機関に吸い込ませると、運転中再び蒸気となり排出されるので直ちに事故とはならないが、吸気弁やライナの腐蝕などを促進したり、また停止中にシリンダ内へ流入し、弁およびシート、ライナ、ピストンリングなどに錆を発生させるためできるだけ凝縮水をシリンダ内へ吸い込ませないようにすることが大切である。
 このため殆んどの空気冷却器にはドレンコックを設けたり、ドレンセパレータを設けており、運転中にはこれらのドレンコックを開いてドレンを排出することが湿度の高い時には必要である。ドレンコック開放運転による給気圧力の低下はそれ程、大きな影響はない。
(ヘ) サージング現象
 ブロア側に発生する不安定な運転状態であり、故障ではないがコンプレッサホィールが正転しているにもかかわらず圧縮空気が逆流し、振動と大きな騒音を発生する。この現象をサージングと云い高速高負荷運転中、急激に低速回転域へ調速ハンドルを操作した時に発生し易く、特に空気冷却器の空気通路が汚れ不純物が堆積して通路が狭くなっている場合は中低速高負荷運転時に発生し、運転不能となることもあるため空気冷却器は定期的に清掃することが大切である。サージング現象が連続して発生する場合は機関回転数を下げるか負荷を減少して早く脱出することが重要である。
2) インタクーラ(空気冷却器)
(1) 構造と機能
 過給機のブロワを出た高温空気を水で冷却して容積を減らし、シリンダヘ送る空気の密度を増して余分に燃料油を燃焼させ、機関の出力を増すためにブロワとシリンダとの間に空気冷却器を設けている。
 空気冷却器は2・155図に示すように角形の箱内に多数の冷却管をおき、冷却管の外側には表面積を大きくするため銅あるいはアルミニウムのフィン(薄板)が巻いてあり、管の内部を水が通り、外側を空気が流れて冷却するようになっている。
(2) 点検と整備
空気冷却器の冷却水管の腐食によるピンホール、拡管部の弛み、ロー付のはずれ、亀裂などからの水もれを点検する。通常冷却水圧力の約2倍の水圧テストにより実施する。水もれがある場合は、それぞれの個所に応じて修理する。長期間使用していると水管内壁にスケールが付着したり、空気通路側には錆や汚れが堆積し、熱伝導が悪化して冷却効率が低下するため定期的にこれらの清掃を行なわねばならない。清掃は油冷却器同様に洗剤を用いて行うが冷却管内壁は電気ドリルの先端にナイロンブラシを取付けて1本ずつ清掃する。また空気通路側は洗剤を用いて行う。
2・155図 インタクーラ








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