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6) 弁押し棒(プッシュロッド)
(1) 構造と機能
 タペットの上下(往復)運動をなめらかに弁腕に伝える働きをする。弁押し棒には慣性力およびばね荷重が働く。高速回転時には荷重が大きくなるので圧縮荷重に対する十分なる強度が必要であると同時に剛性を高め変形量を少なくする必要がある。変形量が大きいと、回転数により弁開閉時期が変化し、高速時の吸・排気効率が低下したり、弁のおどりが発生し、吸入効率の低下、騒音その他の不具合が発生する。
 このほか、慣性力を小さくするため重量を軽くし、また機関の過熱、過冷に対する熱膨張の少ない材料を使用することが望ましい。したがって形状としては径を大きく長さを短くした中空の構造となる。また機関作動時の温度で熱膨張による弁間隙の変化を少なくするためシリンダブロック、シリンダヘッド、弁腕軸受部の熱膨張による長さの増大量と弁押し棒および弁の熱膨張による長さの増大量に大きな差を生じないよう材料ならびに長さが考慮されている。
 形状は、前述のように中空丸棒となるが、2・62図に示すように両端の形状は球面が多く用いられる。球面の形式には弁腕側を凸球面とするか凹球面とするかの2種があり、後者は弁腕に弁間隙調整ねじを設けるにも潤滑油供給にも都合が良いので多く用いられている。
 弁押し棒の材料は、鋳鉄製シリンダブロックの場合は、一般に機械構造用炭素鋼管が用いられ、その両端は衝撃荷重を受けるため、CrMo鋼で作った前記球面部品を焼入れし、弁押し棒両端に溶接している。
2・62図 弁押し棒の形状
(2) 点検と整備
 弁押し棒を定盤上に置き、転がしながらスキミゲージで曲りを測定する。曲りが使用限度以上の場合は修正する。また弁押棒両端の球面部分の偏摩耗についても点検する。
 
7) タペット
(1) 構造と機能
 端面は常に吸・排気カムに接しながら上下に往復運動しており、弁押棒を介して弁腕を動かしている。
 タペットの形状には2・63図に示すようにピストン形とマッシュルーム形およびローラ方式のものがある。一般にはピストン形が多いが、マッシュルーム形もローラ方式も用いられている。なお、ローラ方式以外のタペットのカムとの接触面は、平面あるいは球面に加工されている。
 小形機関用にはチル鋳鉄を用い、カム面と同様パーカライジング(燐酸塩皮膜)処理を施し、初期なじみをよくしている。
 このほか耐摩耗性にすぐれたハードナブル鋳鉄が使用されることもある。
2・63図 タペットの形状
(2) 点検と整備
 タペットのカム軸との当り面を点検し、虫喰い状の痕跡や、亀裂がないか、著しい偏摩耗がないか、また当たりが良好であるかを点検する。
 タペット外径をマイクロメータで測定し摩耗量が使用限度を超えている場合は交換する。
 シリンダブロックのタペット穴との間隙も点検し、間隙がメーカの指示した使用限度を超えている場合はタペットを交換する。
 
8) カム軸およびカム
(1) 構造と機能
 カムの運動はタペット、弁押棒、弁腕の順で弁に伝えられ、弁に必要なリフトを与える。機関作動中、弁間隙があるためカムとカムフォロア接触面は衝撃荷重を受ける。一般に小形機関におけるタペットの径はカム幅より大きくし、かつ2・64図に示すようにタペット中心線をカム幅中心より、オフセットして取付けタペットに上下運動と同時に回転運動を与え接触面全体に均等な当りが生ずるよう配慮している。
2・64図 タペットの位置
 カム軸には吸排気カムおよび燃料噴射ポンプ用カムが一体構造の方式と、吸排気カムと、燃料噴射ポンプ用カムを別構造とし、カム軸にキー止めする方式があるが、小形機関では前者の方式が一般に使用されている。なお、最近の高速機関にはインラインタイプの燃料噴射ポンプが多く使用されているため吸排気カム軸と、燃料噴射ポンプ用カム軸は別体のものが多い。カム軸に加わる力は、排気弁啓開時が最大となる。これは排気弁啓開時のシリンダ内の圧力、弁ばね力と運動部分の慣性力が加わるためである。従って一般に排気カムを軸受に近接し配置する。シリンダブロックに設けられているカム軸受の数は主軸受と同数か、1つおきとするのが一般的である。
 カムと一体構造であるカム軸の材料は機械構造用炭素鋼、Cr、Mo鋼、可鍛鋳鉄等が使用され、カムおよび軸受部のみ浸炭焼入または高周波焼入によって表面硬化される。鋳鉄品はカム部のみチル硬化して使用される。
(2) 点検と整備
(イ) カム軸前後方向の遊び
 遊びが大きいとカム軸が動き弁開閉時期に狂いが生じ、あるいは騒音を発する原因となるので、分解前に軸前後方向の遊びを点検する。No.1カム軸受のフランジ側端面又はスラストメタルと歯車ボス端面との間隙をスキミゲージで測定し、使用限度を超えた場合はNo.1軸受メタル又はスラストメタルを交換する。
(ロ) カム軸、カム面の摩耗点検
 カムのリフト量をマイクロメータで測定し、使用限度以下になったものは交換する。又条痕、虫喰いなどがある場合は修正あるいは交換する。
(ハ) カム軸の軸受部と軸受メタルとのすき間点検
 すき間が大きくなると打音を生じメタルの摩耗を早めることになる。マイクロメータで各軸受部の外径を測定し、使用限度以上摩耗している場合はカム軸を交換する。また、各カム軸受の内径をシリンダゲージで測定し、カム軸受部とのすき間が使用限度を超える場合はカム軸受メタルを交換する。
(ニ) カム軸の曲り
 カム軸の曲りが著しくなると回転が不円滑となり軸受の摩耗を早めるので、カム軸両端軸受部を、Vブロックで支え中央軸受部にダイヤルゲージを当て、振れを測定し、使用限度を超える場合は交換する。
 
9) 調時歯車列(ギヤトレーン)
(1) 構造と機能
 4サイクルエンジンの場合、クランク軸からクランク歯車によってカム軸を機関回転の2/1の早さで回転させ、タペット、弁押棒を介して弁腕を動かし、定められた時期に、吸・排気弁の開閉ならびに燃料の噴射を行う役目をしており、2・65図に歯車による伝達の一例を示す。クランク軸の回転がアイドル歯車、カム軸歯車および燃料噴射ポンプ駆動歯車に伝達される。カム軸歯車及び噴射ポンプ駆動歯車はクランク軸歯車の2倍の歯数である。各々の歯車には合マークが刻印されており、これを合せることにより弁開閉時期および噴射時期が合う構造になっている。
 各歯車はスパー歯車も用いられるが、高速機関では一般に騒音上有利なヘリカル歯車が用いられる。
 各歯車の材料は機械構造用炭素鋼が使用され、歯には高周波焼入れ、浸炭焼入れまたはタフトライド処理をほどこし耐摩耗性を高めている。
2・65図 ギヤトレーン
(2) 点検と整備
 各歯車の歯面の損傷程度を点検する。噛合面の荒れや軽度な段付摩耗については油砥石で修正する。ピッチングや摩耗のひどいものは交換する。中間歯車ブッシュ内径と中間歯車軸径を測定し、スキマが使用限度を超える場合はブッシュを交換する。中間歯車を取付け、歯車ボス部のエンドプレーをダイヤルゲージで測定し基準内に入るようにシムで調整する。
 2・66図に示す各歯車の噛み合い部分の歯形背面の遊び(バックラッシュ)をダイヤルゲージで測定し、組立基準内であるか点検する。
 バックラッシュは軸とブッシュのスキマ、歯面の摩耗、軸芯のズレなどにより変化し、バックラッシュが大きくなり過ぎると歯に衝撃力が働き円滑な噛合はもとより、騒音(ギヤ音)の発生が大きくなり歯の欠損などの原因となる。また小さ過ぎると噛合いが窮屈になり歯先が干渉するなどして円滑な噛み合いができなくなる。
2・66図 バックラッシュ








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