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6) ピストンピン
(1) 構造と機能
 ピストンピンはピストン頂面で受けた燃焼ガスの圧力を連接棒を介しクランク軸に伝えるものである。このためピストンピンには、曲げと高い軸受圧力が働くので表面硬度を高めうる靱性の高い材料を使用し剛性を高める形状とする必要がある。一般には中空の肌焼鋼あるいは特殊鋼に、表面焼入して使用する。ピストンヘの取付は浮動式すなわちピストンピンをピストンにも連接棒にも固定せず、運転時には自由に回転できるようにした方式が採用されている。ピストンのピン孔部には軸受メタルがなく、連接棒小端部にのみ軸受メタルが使用されるのが一般的である。ピストンピンの両端には、ピストンピンがピストン孔から抜け出さないよう2・46図に示すサークリップあるいはスナップリングが使用されている。また大形機関では、ピストンピン蓋などで抜け出しを防止しているものもある。
2・46図 ピストンピンの取り付け状態
(2) 点検と整備
 両端面のふくれやマクレなどはヤスリで修正する。端面まで焼入され修正できないものはその部分をグラインダで軽く修正するか交換する。ピストンピンの外径寸法をマイクロメータで計測し、摩耗量又は真円度が使用限度を越えているものは交換する。
又内外周の損傷および亀裂を目視とカラーチェックまたは磁気探傷法により点検し、傷のあるものはメーカの整備基準により使用の可否を判断すると共に亀裂の認められるものは交換する。
 
7) はずみ車
(1) 構造と機能
 4サイクルディーゼルエンジンは、クランク軸が2回転する間に吸気、圧縮、膨張、排気の4行程をおこなっている。つまりはずみ車が2回転するごとに、1サイクルを完了する。
 これらの4行程のうちエンジンに回転のエネルギを与えるのは、膨張行程のみである。他の3行程はクランク軸の回転力を他の運動部分へ与えなければならないので、クランク軸の回転力は不同であり、回転トルクは時々刻々と変化している。そのためはずみ車をクランク軸端に取り付け、燃焼行程の余分なエネルギをはずみ車に吸収させ、他の行程では、その回転惰力のエネルギを吐き出させ、クランク軸の回転を円滑にさせる重要な働きを持っている。はずみ車は一般に鋳鉄製で外周リムの断面を有する車輪形状に造られている。
 
8) バランサ装置
(1) 構造と機能
 近年、エンジンの高速化、船体のFRP化により要求される性能としては出力性能はもちろんのこと、低振動・低騒音であること、すなわち乗り心地の良いことが重要なポイントとなってきている。この市場の要求に応えて、比較的振動の大きい3シリンダエンジンに1次バランサを、4シリンダエンジンに2次バランサを取付けて振動・騒音の低減を図っている。
(イ) 1次バランサ
 往復運動部重量による慣性偶力を消去するため、バランスウェイトにより1/2の偶力を、残りの1/2の偶力は、クランク軸と同じ速さで反対方向に回転するバランサ軸により生じさせる。このようにすることで、1次の慣性偶力は完全に消去される。2・47図にその概要を示す。
2・47図 1次バランサ
(ロ) 2次バランサ
 往復運動部重量による慣性力を消去するため、クランク軸の2倍(2次)の速さで回転するバランサ軸を2本、しかも互いに逆方向に回転させることにより上下方向の慣性力を消去することができる。2・48図にその概要を示す。
2・48図 2次バランサ
(2) 点検と整備
バランサ軸の曲り、軸受部分の摩耗損傷を点検すると共に軸受ブッシュの内径をシリンダゲージで測定し使用限度を越えるものはブッシュを交換する。
バランサ軸や中間歯車のスラストスキマならびにバックラッシュを点検修正する。
 
9) ダンパ(減衰器)
(1) 構造と機能
 クランク軸に発生するトルクは、クラッチ軸、減速軸、中間軸、プロペラ軸を通じてプロペラに伝達され、船の推進力となる。このように比較的細長い軸系に、バランスウエイト、フライホイール、プロペラなど多くの慣性体が付属した場合、軸系に加えられる変動によって、軸系全体にねじり振動が発生する。ねじり振動によるねじり応力は、付加応力となり、伝達トルクによる応力に加わり、これが軸の許容応力を越えると疲労破損を起こす。
 また、軸系にはタイミング歯車、減速歯車などがあるが、ねじり振動による振巾が、ある限度をこえると、これら歯車の噛合部がたたきあい、騒音源となったり、歯面を損傷する。このような場合、ダンパを使用する。
 ダンパは、ねじり振動の振巾がもっとも大きくなる軸端などに装着し、ダンパの慣性体の動きで、振動エネルギをおさえ、ねじり振動による被害を低減させる。
2・49 粘性摩擦式ダンパ
2・50図 ゴム内部摩擦式ダンパ
 ダンパには、ダイナミック式、固体摩擦式、粘性摩擦式、ゴム内部摩擦式などがあるが、一般に使用されるダンパの例として2・49図に粘性摩擦式、2・50図にゴム内部摩擦式の構造例を示す。
 粘性摩擦式(2・49図)では、慣性体Aが振動することにより、クランク軸に固定された摩擦板Bとの間に相対運動をおこし、隙間に封入したシリコンオイルCの粘性摩擦により、振動エネルギを吸収する。
 ゴム内部摩擦式(2・50図)では、慣性体Eが振動することにより、クランク軸に固定した支持板Fとの間にはさんだゴム材Gを変形させ、ゴムのヒステリシスによる内部摩擦により、ねじり振動エネルギを吸収する。
 ダンパは通常、クランク軸前端に固定して使用する。
(2) 点検と整備
 ダンパは通常、ゴム、粘性液などを、振動エネルギの吸収材に使用しているため、ある程度の劣化は避けられず、定期的な点検による不具合の早期発見とメーカの指定した使用時間に達した場合は必ず交換し、クランク軸等のねじり振動による折損事故を未然に防止する必要がある。








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