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4) ピストン
(1) 構造と機能
 ピストンは、シリンダヘッド、シリンダライナと共に燃焼室の一部を形成するピストン頂部とリングが装着されるリングランド部、ピストンピンを支持するピストンピンボス部、ピストンにかかる側圧を支えるスカート部にわけられる。2・38図に構造の一例を示す。
2・38図 ピストン
 エンジンの小形、軽量、高出力化に対応し、ピストンは従来の鋳鉄製から軽いアルミ合金製となり、ピストン頂部の熱負荷低減対策として、ピストンの内側から潤滑油による強制冷却方式が採用されている。方式としては連接棒上端からのオイルジェットの他に最近はシリンダブロックに設けた固定ジェットにより冷却する方式が主流になっている。またピストンの往復運動に伴なう損失を低減するため、ピストンリングの本数は、従来の圧縮リング3〜4本、オイルリング1〜2本の組合せから、圧縮リング1本、オイルリング1本のものが小形エンジンに実用化されている。高速機関では最近の傾向として圧縮リング2本、オイルリング1本の3本構成が多くなっている。なおこのリング構成のもとで潤滑油消費量を少なく保つためにオイルリングの面圧を高めるとかピストン側面の形状を特殊形状にしたものや、ピストンとライナの組合せに厳密なスキマ管理が行われているものもある。その他潤滑油消費量の低減、あるいは高速高出力化のための特殊加工、特殊処理など、種々工夫がなされている。
 ピストンの頂面は10MPa(102kgf/cm2)前後の高圧と2,000℃程度の高熱にさらされるため、ピストンには、高熱と高圧に耐えるとともに慣性質量を少なくするため軽くて熱伝導の良い、特殊アルミ合金が一般に使用されている。トップリング溝部には、耐摩環(リングトレーガ)を鋳込みリング溝の摩耗に対処している。初期ナジミを良くするため、表面に錫メッキあるいはグラファイトコーティングを施したものもある。また最近薄肉鋳鉄ピストン(ダクタイル鋳鉄一体形ピストン)も実用化されている。
 中・大形機関では、高過給機関になる程ピストン燃焼面の温度は高くなり、この温度が材料の耐熱限度を越えると、亀裂発生などの事故を起こすので、潤滑油によりピストンの裏面を強制的に冷却する必要があり、冷却形ピストンが多く使用されている。ピストンの形状と材質はピストン頂部とスカート部が一体となった鋳鉄一体形から、ピストン頂部とスカート部を分けて特殊鍛鋼製のピストン頂部と鋳鉄スカート、アルミスカートまたはダクタイル鋳鉄(FCD)スカートなどを組合せた組合せピストン、そしてダクタイル鋳鉄一体形ピストンなどが採用されている。それぞれの一例を2・39図に示す。ダクタイル鋳鉄ピストンは保油性、なじみ性に優れ又熱膨張係数が小さく、シリンダライナとの隙間も小さくすることが可能であり、ブローバイ及び潤滑油消費量の低減を図ることができる。ピストンリングもトップリングはガスタイトリング、シリンダライナ摺動面はバレルフェイス、その他シリンダライナの表面処理に合わせた処理(タフトライド処理ライナに対して、クロームメッキリング採用等)を施したものもある。
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2・39図 中小形機関のピストン断面
 高速機関においても熱負荷は出力率に比例し、高過給機関のピストン燃焼面の温度は高くなる。この対応として2・40図に示すような冷却空洞付ピストンが多く採用されている。
(2) 点検と整備
 頂面の亀裂の有無をカラーチェックで調べ、ヘアクラック程度の浅い亀裂はグラインダで完全に削りおとし、亀裂の深いものは交換する。又、リング溝やピン孔ボス部の亀裂やリングトレーガの接着状況をカラーチェックで調べ、亀裂のあるものは交換する。なお、リングトレーガの接着部に亀裂のある場合はメーカの指示を受けること。トップランドを始めリングランドやスカート表面の損傷、縦傷、スカッフ、焼付や強い当りなどを詳細に調査し、深い縦傷、スカッフや焼付などがあれば交換する。部分的に発生している当りの強い箇所は細かなサンドペーパで研磨したあと油砥石で仕上修正する。小さなスカッフはヤスリと油砥石で修正する。いずれも横方向に研磨修正すること。
2・40図 冷却空洞付ピストン
 次にスカート部の外径を2・41図のようにマイクロメータでA、B方向に測定し、シリンダライナ内径とのスキマを算出チェックし、使用限度を越えるものはライナ又はピストンを交換する。ライナとの組合せスキマの指定があるものはそれに従うこと。
 裏面に油焼けが出ていれば冷却不足であり、殆んどの場合、スカッフ、焼付きなどを生じているので交換しなければならない。オイルジェットの噴孔の向きが悪い場合もあるのでチェックする。ピストンピン穴内径をA、B方向に測定しピストンピン外径とのスキマを算出する。油穴がある場合は穴部をさけ両側の軸受部中心で測定する。
 ピストンのリング溝のカエリや引っかかりなどは2・42図のようにして新品のピストンリングをはめ込みながらリング溝の外周を一回転させて点検する。ピストンリング溝とピストンリングのサイドクリアランスは2・43図(a)のように新品のリングをリング溝に入れ、リングとリング溝のスキマをスキミゲージを入れて計測する。スキマが使用限度を越えるものはピストンを交換する。キーストンタイプは2・43図(b)のようにストレートエッジを当ててリング位置を固定しスキミゲージでサイドクリアランスを測定する。サイドクリアランスは全周を6等分した箇所で測定する。ピストンリングを交換したときはピストンのリング溝ヘリングを軽く押し込んでリングの外周がピストン外周より溝の内側へ2・44図のように引込んでいることが必要で、もし飛出しているとリングの焼付折損を生じる恐れがある。又、強制冷却形のピストンの場合は油通路、油溜の洗浄を十分に行うこと。
2・41図 ピストン外径の測定
2・42図 リング溝のチェック
2・43図 リングとリング溝のすき間の測定
2・44図 リング溝の深さチェック
5) ピストンリング
(1) 構造と機能
 圧縮リングは圧力の気密作用と熱の伝達作用の2つの役割をもっている。まずピストンが圧縮行程の上死点付近で燃料が燃焼できる赤熱空気を発生させるように気密を保ち、次におこる爆発燃焼ガス圧力を逃がさないようにすることと、ピストン頂部に受けた燃焼熱の大部分をピストンリングを介してシリンダライナ壁へ伝達し、更に冷却水に吸収させる役目をもっている。
 オイルリングの役目はピストンの往復運動の際にシリンダライナ内面に飛散した潤滑油をかき下げて余分な潤滑油が燃焼室へ入ることを防止している。
 ピストンリングには、耐摩耗性に勝れた特殊鋳鉄が使用されている。また、摩耗にそなえ、リングの摺動面に硬質クロームメッキを施したり、リング溝の摩耗を低減するため、摺動面とリングの上下面にもクロームメッキを施した、通称三面クロームメッキリングと称されるものも使用されている。また最近は摺動面に軟質メッキを施し初期なじみを良くしたリングも数多く使用されている他、最近の高速機関では特殊鋼(スチール)製のピストンリングを採用するものが増えている。
 ピストンリングの断面形状と特徴を2・5表に示す。
2・5表 ピストンリングの断面形状と特徴
断面形状 名称 特徴
f1067_02.jpg プレーン コンプレッションリングとして最も一般的。トップリングとして使用する場合は摺動面にクロームメッキを施し、丸味(バレルフェース)をつける。
f1067_03.jpg 片面キーストン リングスティック防止効果大、次のキーストリングより製作が容易。
f1067_04.jpg 両面キーストン リングスティック防止効果大。
f1067_05.jpg テーパフェース セカンドリング以下のコンプレッションリングに用いられることが多い。オイルコントロール作用を有する。
f1067_06.jpg インサイドカット シリンダに挿入すると図の矢印の方向にわずかにねじれてテーパリングのようなオイルコントロール作用を示す。
f1067_07.jpg アンダカット プレーンリングよりもオイルコントロール作用が強い。
f1067_08.jpg カッタオイルリング リング群下部に2本組みにして使用されることもあり、1本ではオイルコントロール作用不足。
f1067_09.jpg コイル付きカッタオイルリング コイルスプリング、板ばね等により強い張力を得ている。1本で十分オイルをコントロール出来る。
f1067_10.jpg リンクベント(R)-SBオイルリング 特に強力なオイルコントロールが必要な場合に使用する。やや組み付けにくい。

 最近の高速機関では、オイルリングにコイルバネの入ったエキスパンションリングを使用し、オイルリングを1本としてライナとの摩擦損失を少なくしたものが多くなっている。
(2) 点検と整備
 ピストンリングの外周を点検し、欠損や当たり不良、エッジの欠損などを調べ、不具合の認められるものは交換する。メッキリングやMo溶射リングなどはこれらの表面処理層が摩耗し地肌が出たものや剥離又は亀裂が母材まで達しているものは交換する。
 ピストンリングの合口スキマはリングゲージ又は新品のシリンダライナヘピストンリングを押し込み2・45図のようにスキミゲージで合口スキマを測定し、使用限度を越えるものは交換する。
2・45図 ピストンリングの合い口すき間の測定
 ピストンリングの厚さおよび巾は合口の両端付近と中央部の3箇所をそれぞれマイクロメータで測定し摩耗限度を越えているものは交換する。
 なお、バレルフエースリングやテーパリングについてはライナとの摺動面の当り幅が広くなるとオイル消費が多くなるので一般的には当り幅によって交換している。
 








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