日本財団 図書館


 
3.2 海上輸送のシミュレーション技術とその活用
3.2.1 国内長距離フェリー・RORO航路の需要予測と船型
 国内のユニットロードの動く道路(主要一般道、高速道路)と鉄道(コンテナ貨物)、フェリー・RORO船航路をネットワークで結び(図3.2.1)、その経路に物流貨物がどう分配され輸送されるかという問題の下に、その経路の1つである長距離フェリー・RORO船航路の需要を求める。
 貨物の経路分配の原理を犠牲量の少ない経路が選ばれるものとし、輸送コスト、所要時間、フェリーの両端陸上距離を変数とした犠牲量モデルとした。犠牲量の修正項のフェリー運賃の係数f値を変えて最も実績値に合致する場合を求めた。既存の長距離フェリー航路の需要予測値と実績値の比較を図3.2.2に示す。航路が貨物を取り合う競合関係の下でもよい一致が得られた。新規航路についての需要予測(図3.2.3)と最適船隊・船型および船社会計の最もよい場合が求められた。
 
 
図3.2.1 ユニットロード物流ネットワーク
 
 
図3.2.2 既存航路の需要、計算値と実績値の比較
 
 
図3.2.3 新規航路の需要予測
 
3.2.2 太平洋定期船航路のシミュレーション
 PIERSのデータをべースに、現状の太平洋定期船航路の時間追従のVESSEL運航シミュレーションを行った。出力はシミュレーション画面の他には、船舶の積載量(率)や船舶毎の会計、荷物の平均輸送時間統計、などである。
 船型大型化については、[1]ますます大型化する。[2]大型化しない という2つの見方がある。そこで、このシミュレータを用いて、海運秩序の変化に伴う影響を見ることにしよう。
 いま、コンソーシアムの1つが競争に敗れ、構成船社が倒産や吸収合併となると、1コンソーシアムの集荷量は増え、航路が変わらなければ、船型は大きくなる。どれだけ大きくなるか、従来の航路編成で十分のサービスが提供できるか、貨物の積み残しはないかなどの検討をシミュレーションで行うことができる。
 いまHanjinグループがCoscoグループに吸収されるケースを仮定した。この場合、両グループの扱い貨物量は不変とする。その際に、Coscoグループの全航路にHanjinグループのいくつかの航路が追加されて運航されることとした。3ケースを計算した。[1]は7航路で、寄港しない貨物は他のコンソーシアムに移り、[2]は航路は同じだが、寄港地を調整して貨物を集めた場合、[3]は9航路とした。これらについて船型を計算した。
 計算結果は、船型が10,000 TEUの船隊が現れている。[2]では船型がさらに大きくなり10,500 TEUの船隊が現れている。[3]ケースの場合は、航路数が増えたため船型は小さくなり最大6,000 TEUの船隊で済んでいる。このように荷主へのサービスを強化すると船型は小さくなり、船社は規模の経済を享受できない。航路編成を如何にうまく行うかが重要事項であることが言える。
 
表3.2.1 2コンソーシアムの統合による8航路および限定寄港地
航路:Cosco/KL/Yang Mingの全航路 + All Water Service
中継港:(Norfork ->New York)+(Osaka ->Kobe)+
(Kwangyang ->Busan)+(Port Kelang ->Singapore)
 
航路番号 東航積載量
(TEU)
西航積載量
(TEU)
リプレース船型
(TEU)
航路の
リプレース船型
(TEU)
航路の
現存船船型
(TEU)
3009   401 401 1,500 3,500
1,399   1,399
3010 2,729 816 2,729 3,000 3,500
  1,229 1,229
2,515 1,048 2,515
2,797   2,797
3011 8,897   8,897 10,000 5,500
7,653 1,951 7,653
1,528 1,109 1,528
9,031 1,569 9,031
3018 5,604   5,604 6,000 4,500
  1,112 1,112
  2,806 2,806
3024 3,819 2,545 3,819 4,000 3,500
  3,141 3,141
3,046   3,046
3025 3,323 1,147 3,323 3,500 2,500
1,886 929 1,886
2,532 1,633 2,532
3026 2,381   2,381 4,000 3,500
3,113 2,004 3,113
  2,296 2,296
3,534   3,534
3,159 1,780 3,159
3027 9,935 2,430 9,935 10000 3,500
5,324 2,466 5,324
  2,683 2,683


 
表3.2.2 2コンソーシアムの統合による8航路および拡大寄港地
航路:Cosco/KL/Yang Mingの全航路 + All Water Service
中継港:(Norfork ->New York)+(Osaka ->Kobe)+
(Kwangyang ->Busan)+(Port Kelang ->Singapore)+(Busan ->Kobe)
 
航路番号 東航積載量
(TEU)
西航積載量
(TEU)
リプレース船型
(TEU)
航路の
リプレース船型
(TEU)
航路の
現存船船型
(TEU)
3009   401 401 1,500 3,500
1,399   1,399
3010 2,729 861 2,729 3,000 3,500
  1,229 1,229
2,515 1,048 2,515
2,797   2,797
3011 8,897   8,897 10,000 5,500
7,653 1,951 7,653
1,528 1,109 1,528
9,031 1,569 9,031
3018 5,604   5,604 6,000 4,500
  1,112 1,112
  2,806 2,806
3024 3,819 2,545 3,819 4,000 3,500
  3,141 3,141
3,046   3,046
3025 3,323 1,147 3,323 3,500 2,500
1,886 929 1,886
2,532 1,633 2,532
3026 2,381   2,381 4,000 3,500
3,113 2,004 3,113
  2,296 2,296
3,534   3,534
3,159 1,780 3,159
3027 9,935 2,430 9,935 10,000 3,500
5,324 2,466 5,324
  2,683 2,683
 
 
表3.2.3 2コンソーシアムの統合による10航路および限定寄港地
航路:Cosco/KL/Yang Mingの全航路+All Water Service+Pendulum I+PNX2
中継港:(Norfork->New York)+(Osaka->Kobe)+
(Kwangyang->Busan)+(Port Kelang->Singapore)
 
航路番号 東航積載量
(TEU)
西航積載量
(TEU)
リプレース船型
(TEU)
航路の
リプレース船型
(TEU)
航路の
現存船型
(TEU)
3009   401 401 1500 3500
1,030   1,030
3010 2,729 861 2,729 3000 3500
  1,225 1,225
2,515 1,048 2,515
2,797   2,797
3011 5,993   5,993 6000 5500
4,916 1,892 4,916
  1,383 1,383
5,538 1,538 5,538
3012 4,212 3,490 4,212 4500 5500
  3,557 3,557
  2,063 2,063
4,350 3,265 4,350
3,434   3,434
3016 3,238 1,004 3,238 3500 3000
1,235 709 1,235
3,611 994 3,611
2,720   2,720
  932 932
3018 5,604   5,604 6000 4000
  1,112 1,112
  2,806 2,806
3024 3,819 1,102 3,819 4000 3500
  1,300 1,300
3,046   3,046
3025 3,021 1,147 3,021 3500 2500
1,612 929 1,612
2,295 1,633 2,295
3026 2,381   2,381 3500 3500
2,960 1,522 2,960
  1,689 1,689
3,687   3,687
3,159 1,665 3,159
3027 5,337 2,094 5,337 5500 3500
3,253 2,071 3,253
  2,360 2,360
 
3.3 海上輸送のネットワーク技術とその活用
3.3.1 設計ツール
 海運アライアンスの形成以降、急激な船型の大型化とこれに伴う航路の再編が行われてきた。この航路設計は、競合他社とのサービスの差別化を図る上で重要な船社の意思決定事項である。そこで海上コンテナ輸送を対象に、船社の航路設計支援を行うことを目的として海上輸送ネットワーク設計ツールを開発した。設計ツールの概要は次のとおりである。
 海上輸送ネットワーク設計ツールは、船社の航路設計支援を行うことを目的として開発されたツールである。本設計ツールは、船社へのヒアリングをもとに、定曜日寄港など航路設計において考慮すべき基本的事項を取り入れたものであり、輸送にかかる燃料費、港費、船費等の総費用が最小になるように、与えられた航路、船型の中から最も適切な組み合わせを求めることが可能である。そして、最適解における船型・航路別の必要隻数、寄港頻度、船の稼働率・積載率、積み卸し荷役量、港湾における取扱量等を出力結果として得ることができる。
 
3.3.2 海運アライアンスの特徴
 国際輸送ハンドブックのデータをもとに各海運アライアンスの特徴を明確にした。(図3.3.1)そして、これらの結果をもとに、経済性と高速性の観点から各海運アライアンスの位置付けを示した。(図3.3.2)
 
表3.3.1 各海運アライアンスの特徴
グループ名 船腹量(TEU) コンテナ船の
平均積載量
(TEU)
一航路あたり
平均寄港回数
(回)
一航路あたり
平均船社数
The New World Aliance
Grand Aliance
United Aliance
COSCO+K-Line+Yangming
Mearsk+Sealand
Evergreen+LT
グループ名 各航路の配分 構成船社の特徴
三大航路 アジア地域 その他 規模のばらつき 航路分担
The New World Aliance 少しあり
Grand Aliance 少しあり
United Aliance あり
COSCO+K-Line+Yangming 少しあり
Mearsk+Sealand
Evergreen+LT 極大 極小
 
図3.3.2 各海運アライアンスの位置付け (概念図)
 
3.4 新海上物流システム研究の方法と可能性
(1) 新海上物流システム研究の視点
 時代は情報社会に入り、かっての工業生産を中心とした時代から情報を中心とした社会になった。このことは社会の支配的論理が製造業から情報産業に移ったということである。ハードをつくる論理が優先していたが、今日ハードの工業生産はソフトの指示の下でのみ有効性をもつという立場の逆転が生じている。
 船舶も例外でない。かっては船舶というハードを如何に作るかが中心課題であった。しかし、船舶は海上輸送の手段として用いられるのであるから、今日どのような船舶を使っていかに海上輸送をうまくやるかが造船業にとっても大きな関心事にならざるをえない。顧客に満足を与える、提案型の営業活動に早く移っていく必要がある。
 そのような観点から従来の産業活動、知的集積、経営および経営戦略が見直され、その構造が改革されるべき時代である。単なる研究活動に留まらず、社会と歴史に呼応した視点の下で新提案が創造され、これが大きな社会運動のうねりに重なり実社会の中で有効な力となる、そのような知識を生産するのがこの新海上物流システム研究の位置付けである。当然のことながら、研究活動の成果が論文作成に終わってはならない。実業の世界に生かされなければならない。
 世界の経済活動は歴史上最高の規模と質を誇っている。先進国経済は途上国経済と密接に繋がり、グローバル化している。世界貿易は空前の規模に達し、先進国が途上国にアウトソーシングする構造がますます強まり、輸送活動が経済の重要な部分になっている。果たして世界はどこまで膨張するのかという不安も広がっている。どの産業も世界戦略をつくる必要性を感じ始めているのではないだろうか。企業活動は他社との競争やアライアンスを画策し生き残ろうとしている。物流はこのような企業活動と不可分な関わりをもっている。社会や人間との関係抜きには描写できない総合的知を必要としている。新たな歴史観・世界観・人間観をもとに繰り出される提案が検討され試されて、経営者の知に適ったもののみが日の目をみることになる。
 したがって、新海上物流システム研究は従来の工学の範疇に留まることなく、頷域を越えてトータルな知的活動として展開される必要がある。物流はとりわけ経済現象であるので、経済学的視点や手法を活用しつつ工学的手法を適用すれば、新たな分析方法を開発する可能性がある。このような新しい分野を起こすとき、解こうとする問題はより高度な全体を根底から支配するような問題、より重要な問題から取り組むべきである。例えば、業務の改善よりは経営や経営戦略に関わる問題、一企業のことよりは国家の政策・世界戦略に関わることをまず追究すべきである。新海上物流システム研究にはそのような課題が輩出している。

(2) 具体的課題
1) 物流構造に関するもの
[1] 物流シミュレーション
自社あるいは業界および国レベルの物流シミュレーションによって、合理化の評価・環境影響の評価などを行う。最適配船や施設の最適配置を行う。輸送に必要な船腹量を求める。定期船シミュレータ、不定期船シミュレータ、海運のシミュレーションによる世界モデルなども含む。
 
[2] 物流ネットワーク解析
国内・国際物流システムの静的評価をする。需要予測をする。
 
[3] サプライチェーンマネージメント(SCM)
荷主企業の物流システムを最適設計化し、海運をその一部にし、実行を請け負うことを目指す。
 
[4] 運賃市況の予測・船価の予測・投機の研究
従来経済学のテーマと考えられてきたが、ITソリューションを開発する観点からエンジニアリングする必要がある。
 
[5] 知識の集積とその活用(データマイニングなど)
IT化されると、ロジステイクスなど各種のデータが山のようにできる。これを有効活用し、業務や経営に活かす必要がある。データマイニングは山とある情報から有意義な情報を引き出す技術である。
 
[6] 航路ダイヤ編成白動化
荷主へのサービスを最大化し、船社の採算を確保する最適航路・航路群・ダイヤ決定を自動化する。
 
[7] 情報蓄積
荷主企業の経営・経済・社会情報のコンテンツを集積し、自社の知的優位性を維持する。

2) 会社組織に関するもの
[1] エンタープライズモデル(BPR-Business Process Reengineering)の開発
企業業務をモデル化することにより、企業の構成要素を把握し、これを操作することの影響を事前に検証できるなど、組織の再検討ができる。
 
[2] 企業アライアンス効果の評価技術
M&Aの評価を多面的に行うソリューションの開発。企業の適正規模と範囲の評価を行う。
 
[3] ナレッジマネージメント
各部所の入手した情報を有効に組織的に活用し、業務・経営に活かす。概念検索の高度化などが課題である。

3)規制緩和の検討
内航船分野では、国内物流効率化に寄与する内航海運を構築する観点からIT化や集約・協業化を促進しするとともに、諸規制の緩和と船型の自由化を促進する体系的な調査研究が必要である。海運秩序の変化や技術レベルの変化を考慮して各種の総トン数規制、船舶長規制などの安全性への影響を検討し、緩和を体系的に行なう。例えば、499総トン数規制が599総トン数規制に緩和されても安全性に支障ないなら、現行499船舶の大半が599船舶になる。これは物流合理化になり、コストダウンや地球温暖化ガス排出量削減になる。

4)物流データベース
[1] 純流動調査の経年的分析
5年に1度の調査の合計6回の経年変化を分析し、物流サービスの向上などの情報を得る。
 
[2] 国連貿易統計、0ECD貿易統計、各国輸送機関別統計などWorld-wide Databaseの検討
世界規模の物流に関するデータベースの相関関係や補完を調べ、高度な情報を得る。
 
[3] アジア各国港湾統計の収集
情報の統合と組立てをする。
 
[4] 日本の税関データの活用の検討
米国税関データが活用されているのと同じレベルの情報公開が望まれる。
 
[5] PIERSデータの大規模分析
米国を出入りする貨物の世界的な流れを明らかにする。定期船シミュレータによって海運アライアンスのサービスレベルの向上の経過を分析する。

(3) 研究の方法と可能性
 物流情報を解析し高度の知を得ることを享受するのは、企業や、業界や、政府であるなどいずれも大きな組織である。一方、膨大な情報を管理し有効利用するのは組織的な対応が必要である。その意味でこの分野の研究は組織的展開をする必要がある。
 情報という形の無い、見えざるものを扱う視点は世界観・歴史観・人間観に基づいて出てくるので、多人数の闊達な議論が必要である。そして、成果が実業で活かされることで更なる前進に繋がる状況を仕組みとして組織的に創り出す必要がある。
 未来志向の企業や業界であれば、情報社会の真の力の源泉が知にあることを見抜けるであろう。それに投資する位の余力は日本経済にまだあると思われる。この研究分野への投資があって、研究テーマがあって、実益を上げるテーマがあれば、研究が実る可能性は高い。
 具体的研究課題を追求する過程で、物流情報解析技術の分野で大きな可能性があり、同時にその研究方法のアウトラインが見えてきた。
 
4. 得られた成果
具体的基礎的研究課題では
 
(1) 純流動調査データを中心にした国内物流に関する調査検討がなされ、分析のツールが開発された。
 
(2) 米国税関輸出入貨物データ(PIERSデータ)を中心にした太平洋海上輸送の物流調査検討がなされ、種々の知見と分析ツールが開発された。
 
(3) 国内ユニットロード物流のネットワーク解析ツールが開発され、フェリー・RORO航路の診断ができた。
 
(4) 太平洋定期船航路のシミュレータが開発され、遺伝的アルゴリズムによる航路編成の技術開発とともに、定期船航路の検討ができるようになった。
 
(5) 定期船航路の設計支援の海上輸送ネットワーク設計ツールが開発され、海運アライアンスの分析が行われた。また、これら基礎的研究課題を追求する過程で、新海上物流システム研究の方法と可能性について検討した結果、
 
(6) 物流研究の一層の高度化を展望する物流研究の諸課題が挙げられ、IT時代の経済・経営および国家戦略に関する知識の生産が産業社会の再生に必要不可欠であるという認識が得られた。
 
5. 成果の活用等
 成果が活用されるためには実用化を目指したより一層の高度物流解析技術の開発が行われる必要がある。その前提の下で、次のように実用的成果を活用できる。
 
[1] 国内物流ネットワーク解析によって、フェリー・RORO航路の診断ができるので、船社は航路を経営する観点から、造船所は船舶を設計する観点から、金融機関は事業に融資する観点から、国は国内物流効率化を日指す観点からこの技術を活用できる。
 
[2] 太平洋航路の海運秩序の変化を検討する、定期船シミュレータと遺伝的アルゴリズムによる航路編成技術によって、外航船社のアライアンスを視野に入れた経営戦略や航路効率化による経営効率化に役立つ。外航海運の世界動向を分析することによる国家戦略構築にも活用できる。
 
[3] 海上輸送ネットワーク設計ツールによって、定期船航路の最適化が行われるので、船社や造船所に活用される。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION