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現地実態調査報告
実態調査は下記のとおり11カ所で実施した。
[1] (社)北海道小型船舶工業会(函館地区)
[2] (社)東北小型船舶工業会(八戸地区)
[3] (社)新潟小型船舶工業会(新潟地区)
[4] (社)関東小型船舶工業会(横浜地区)
[5] (社)東海小型船舶工業会(名古屋地区)
[6] (社)近畿小型船舶工業会(大阪地区)
[7] (社)兵庫県小型船舶工業会(淡路地区)
[8] (社)中国小型船舶工業会(木江地区)
[9] (社)四国小型船舶工業会(徳島地区)
[10] (社)九州小型船舶工業会(長崎地区・佐世保地区)
ヒアリング結果を以下の3つに分類し整理した。
1.抱えている問題
2.問題解決のために障害となっている要因
3.問題の対応策
[1]北海道地区
1.抱えている問題
・新造船がほとんどなくなってきている。
・定期検査の間隔が規制緩和により長くなり、修繕も減少している。
・公共投資の削減により、作業船の建造が少なくなっている。
・CADを使いたいが、使いこなせない。
・リストラを行う資金がない。
・固定資産税が高く、競争力が落ちる。
・春から夏にかけては忙しいが、秋から冬になると仕事がなくなる。
・ペンキの飛沫や焼却による煤煙に対し周辺住民から苦情がくる。
・船が大型化している。船台の拡張をしたいが、大幅な設備投資ができる状況にない。
・漁船に女性が乗る時代であり、トイレや居住性を考える必要がある。
・省エネタイプの船、油圧機器を搭載した船が求められているのではないか。
・函館では、マリーナは不足しているが、組合があり参入障壁は高い。
2.問題解決のために障害となっている要因
 特に意見なし。
3.問題の対応策
・平時は修繕に対応できる人員体制にし、新造がある場合には人員の応援を受けている。
・ペンキの飛沫対策として、防護ネットを張っている。
・ロシアに船の需要があると思うが、政府間及び経済状況により経済交流が行えると市場が広がるのではないか。
・CADが簡単に使えるようなパッケージソフトが欲しい。
・ペンキの改良、スプレーガンの改良や吹き付けに替わる塗装方法の研究をしてはどうか。
[2] 東北地区
1.抱えている問題
・青森県の新造船の売上は、前年比51%と半減している。
・給与等待遇面で造船業自体に魅カがなく、若者が集まりにくい。
・漁船の修繕が中心となっているが、漁業不振のため、仕事量も減少、さらに売掛金の回収もままならない。
・漁業者は食料やガソリン代の支払を優先させるため、修繕費の支払は劣後となり、漁業の不振の影響を直接的に受ける形になっている。
・陸上工事も減少している。
・現状は技術の伝承を行い高齢化問題に対処しているが、いずれ高齢化問題は表面化するものと思われる。
2.問題解決のために障害となっている要因
・売上債権の回収に際し、漁協が漁業者に対し造船所の支払を遅らすよう指示する場合も見受けられる。
3.問題の対応策
・漁業者に対し、事前に見積書を提出し、漁業者が資金調達の目途をつけ易いよう配慮している。
・個々のグループでは、人材の共有化を行っているところもある。
[3] 新潟地区
1.抱えている問題
・FRP船は台湾企業の進出が著しく、競争が激化しつつある。
・漁業の水揚げ減少の煽りもあって、売上が減少している。
・債権回収期間も長期化している。
・新造船が1年に1隻若しくは2年に1隻程度であり、製造の効率が悪く、修繕の方が旨みが多い状況にある。
・修繕船の放置ゴミに対して処理費をもらえず、また、処理運搬量を減らすため焼却すると、焼却灰は産廃業者が引き取ってくれない。
・新潟地区は漁師の数が少なく、約95%は家族経営の零細業者である。船台を大きくしても、需要拡大に結びつかない。
2.問題解決のために障害となっている要因
・一部共同購入を実施しているが、各企業とも独立志向が強く、なかなか足並みがそろわない。
3.問題の対応策
・個々には、共同化のための勉強会(他の業界の成功事例を研究)を開き、一部共同購入を行っているところもある。
・シンボルタワーの作成や、観光船の需要調査を行なうなど、需要拡大ための努力を行っている。
・人員削減を、工期を延長することで対応している。
・バリアフリー船の研究をするなど、新たな需要開拓のための努力をしている。
・高齢化杜会を向かえている今日、バリアフリー船など、福祉に目を向けた船の開発も行う必要がある。船の使用目的、性格に合った独自の開発を行いたい。
[4] 関東地区
1.抱えている問題
・東京湾内の船腹量は減少傾向にあり、小型船造船業を取り巻く受注環境は厳しい。新造船は当面期待出来ない。
・漁船の建造・修理についても、建造船価・修繕工事代金が漁獲量に左右される。
・塗装作業中の塗料の飛散に絡んで周辺からの苦情が多い。横浜市は条例で、囲いの中での作業を義務付けている。
・マリーナ兼業について興味はあるが、場所(占有海面)の問題、製造業とサービス業の違いの問題等から二者択一であり、マリーナを選択すると造船は止めねばならない。
・FRP船の解体事業について、立地場所が限られること、最終処分場の確保が出来ないこと等から「業」として成り立たない。
2.問題解決のために障害となっている要因
・工業会参加メンバーの抱えている個別課題は異なるので、方向性を統一すること。
3.問題の対応策
・平成13年度、関東地区造船舶用工業技術情報支援センターを開設し、人材育成に取り組むことを計画しているが、参加企業を増加させることが課題となっている。
・政府に対する要望として、国内におけるバランスのとれた物流体系の再構築を行うことにより、海上輸送の見直し、復権が計れるようにして欲しい。
・前述の関東地区造船舶用工業技術情報支援センターを手始めに検討を進めたい。
[5] 東海地区
1.抱えている問題
・船舶の大型化による船腹量の大幅な減少により、小型船造船業界の受注分野は新造船はもとより、修理船も減少を余儀なくされている。
・船舶の大型化に対処すべく、過去、造船団地を建設して協業化を実施したこともあったが失敗した経緯がある。小型船造船事業主は一国一城の主であるため共同化は難しい。
・修繕船が排出する廃棄物(洗濯機、冷蔵庫等)の捨て場となっており、廃棄物の処理に苦慮している。処理代金を徴収するよう努力しているが100%徴収はほど遠い話である。
・技術面の後継者難と若者の定着率が低いこと。小型船は、大きさ(トン数)、船型ともに多種多様であること、大手造船の専門工と異なり多能工であることを要求される。従って、1人前になるには15年前後を要する。若年者の採用難と相俟って技術の継承が懸念される。
2.問題解決のために障害となっている要因
・小型造船事業主は一国一城の主であること、かつ、受注内容もトン数・船型など千差万別であること等共同化が困難であること。
3.問題の対応策
・CAD/CAMシステムの採用で後継者不足に対処する。
・FRP船の解体作業時に発生する粉塵防止対策として、「ポータブル超高水圧ジェットFRP船体切断機」の開発を進めている。
・CAD/CAMシステムを利用して、高精度の作図と部材加工が出来る新しい生産方式の構築を目指してパイロット地域を設け5年計画で試験運用と検証を行う。
・現図技術者の高齢化と後継者不足に対処することを狙いとしている。
[6] 近畿地区
1.抱えている問題
・当工業会は、2府3県をエリアとしているが、地域特性、会員の規模・取扱船種が異なるため、工業会の意見統一が困難である。
・新造船の受注は皆無に等しい状況である。また、修理船の受注もピーク時の50%減である。
・経営基盤強化計画の必要性は認めるが、前提として、受注確保が先決である。
・(今回ヒアリングに参加された4社は、それぞれ独自の事業分野を確立しているためか、個別企業の問題より工業会全体のあり方に議論が集中した。)
2.問題解決のために障害となっている要因
・地方の工業会は、平成14年度以降どのようなビジヨンを描けばよいのか判らない。
・特定業種の指定が早すぎたのではないか。経営基盤強化計画の策定も準備期間が短く無理があると思う。
3.問題の対応策
・早急に準備に入り、対応したい。
[7] 兵庫地区
1.抱えている問題
・条例により廃棄物を焼却できなくなった。
・海面使用料、固定資産税の負担が大きい
2.問題解決のために障害となっている要因
・船主が船を造りたくても、ファイナンスがつかないため船が造れない。
・設計の標準化を行った場合、付加価値がなくなる。
3.問題の対応策
・ペンキが周辺に飛び、近隣住民に迷惑をかけるが、風向きによって周辺の住民には電話をかける等して対応している。
・また、ペンキが飛ばないよう移動台を採用したり、ローラーによる塗装を行なっている。塗装にかかる時間に大きな差はでない。
・タイヤなどの廃棄物は船主に持って帰ってもらっている。
[8] 中国地区
1.抱えている問題
・建造単価が値崩れしており、採算が合わない。
・ペンキの飛沫や焼却の煙、騒音等に対し周辺住民から苦情がくる。
・内航船建造について、検査・規制が厳しいのに対し、海外の規制は緩やかなので価格競争力が劣る。
・高齢化に対処して、人材育成の必要があるが、その余裕はない。
・資材の共同購入は、共同で中国などから仕入れることができればいいが、船主より資材の指定があり難しい。
・造船学校や造船学科がなくなっている。
・若い人は地元から出たがっており、若者が集まらない。
2.問題解決のために障害となっている要因
・船主が船を造りたくても、ファイナンスがつかない。
・内航海運の運賃単価が低下しており、加えて、荷動き自体も落ちている。
・設計の標準化を行った場合、付加価値がなくなり、費用以上に価格が下落する恐れがある。
・新規事業を行うにしても、海事関係の仕事以外となると難しい。
3.問題の対応策
・材料の包装等からでるゴミは、仕入業者に引き取ってもらっている。
・外国人の就労情報や中国・韓国の状況等、国際的な情報が欲しい。
・廃棄物処理に費用がかかっており、ゴミ焼却炉を作るなど、何らかの対応をして欲しい。
・PRTR法に対処できるソフト等があれば有り難い。
[9] 四国地区
1.抱えている問題
・サンドブラスト作業は、周辺住民に事前に通知して行っているが、いずれ日本国内ではできなくなるのではないか。
・工員が高齢化しており、技術の伝承等が今後の課題である。
・売上がピーク時の20%まで減っている。また、単価の下落も著しく、利益を確保するのに苦戦している。
・ビルジ等については船主より費用を請求しているが、仕入に伴って発生する廃棄物の量が多く、廃棄物の処理に対する費用がかかっている。
・修繕時にでる廃棄物(蠣殻等)の処理に困っている。
・海藻が流れてくるため、オイルフェンスを張るなどして対応しているが、それをのりこえてくるものについては、廃棄に費用がかかる。
2.問題解決のために障害となっている要因
・船主が船を造りたくても、ファイナンスがつかない。
3.問題の対応策
・技術伝承のための教育マニュアル等の作成を考えている。
・設計・NC加工を専門に行う会社を立ち上げる計画を検討している。
・ホームページは、現状必要なくとも将来的に必要になることが予想されるので、作成すべきである。
・海の中で船底についた貝を落とす方法が考えられないか。
[10] 九州地区(長崎)
1.抱えている問題
・ペンキ飛沫や騒音、電波障害等で周辺住民から苦情がくる。
・労災事故が増加しており、また塵肺問題が深刻になってきている。
・古タイヤ等の廃棄物の処理に費用がかかるが、処理費をとれない。
・組合で資材を一括購入したことはあるが、それぞれ企業の製造するものが違うこと、時間的な問題等もあり失敗した。
・遠洋まき網船が大幅に減船しており、受注が減少している。
・高卒の新入社員が、周囲の年齢差に馴染めずに辞めてしまった。
・設備投資を行いたいが、担保がないため資金調達ができない。
2.問題解決のために障害となっている要因
・船主が建造したくても、ファイナンスがつかないため船が造れない。
・ISOをとったとしても国内ではメリットがない。
3.問題の対応策
・技能マニュアルは既に作成している。
・人材教育センターは県が既に作っている。
・ホームページを組合で作る場合に、地方のデータを中央で受けて、それをまた全国に配信してはどうか。
・船の材質や構造についての規制緩和を行ってもらえると価格競争力が上がる。
・ISOをとった場合は検査を簡便化するなどの対応をして欲しい。
・固定資産税や海面使用料を軽減して欲しい。
・長崎は離島が多い、連絡船のバリアフリー化を船主に働きかけてはどうか。
[11]九州地区(佐世保)
1.抱えている問題
・建造単価が値崩れしており、採算が合わない。
・造船業だけでは生き残れない。
・ペンキの飛沫、焼却の煙、騒音等により周辺住民から苦情がくる。
・高齢化問題はあるが、現状では人材を育成している余裕はない。
・廃棄物に対する規制が厳しくなっており、処理費用が嵩む。
・桟橋等の陸上構造物、沈船漁礁について、造船業者にも入札資格を認めて欲しい。
・修繕に対する支払条件が厳しくなってきている。
2.問題解決のために障害となっている要因
・船主が船を造りたくても、ファイナンスがつかない。
・新規事業を行うにしても、海事関係の仕事以外となると難しい。
・サンドブラストを行った後の砂の処理に費用がかかるため、ウォーターブラストやアイスブラストを試みたが、錆の黒点をとるほどの力がなく、実用化には至っていない。
3.問題の対応策
・異業種交流でお茶や魚の自動選別システムなどをつくった。
・廃棄物処理に費用がかかる。何らかの対応をして欲しい。
・FRP船の処理について真剣に取り組むべきである。
・他分野に進出するための助成金・補助金等の情報が欲しい。
・造船技術を使って、観光事業を立ち上げられないだろうか。
・部品等の購入のための海外の情報が欲しい。
・サンドブラスト作業を共同で離島等でできればいいのだが。
・廃業者の数の推移や造船業全体の情報が欲しい。
まとめ
1.抱えている問題
[1]受注の減少が最大の問題点である。
 新造船は皆無に等しく、修繕船も大幅減少している。
[2]公害、廃棄物処理問題
 塗料の飛沫、修繕船の排出する廃棄物等の処理にどう対処するか。
[3]従業員の高齢化問題
 技術の承継問題、若年労働者の採用難と定着難にどう対処するか。
[4]新規事業化の問題
 マリーナ事業はサービス業で業種が違う。
 海と関連のない事業は進出しづらい。
[5]業界の問題
 共同化、共同購入の足並みが揃わない。
2.問題の対応策
[1]新製品、新技術等の開発
 バリアフリー船の研究開発
 FRP船の船体切断機の開発
 CAD/CAMシステムの活用
 塗装方法の開発
[2]教育・技術マニュアルの作成
[3]共同化の検討
 設計・NC加工専門会社の設立
 サンドブラスト作業の共同化
 資材の共同購入
[4]環境対策
 廃棄物処理に対する新技術の開発
 廃棄物処理に対する公的支援の問題








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