イライザ号の胴に巻かれた太綱には二十六箇所のロープが結ばれ、それらは全て船の周囲に並んだ漁船の上の数百個の滑車を通して、二十六本の柱に繋いであった。
その日キウエモンは未明から起き出し、いつもの通り西漁丸の艫屋倉に出た。鉛色の雲が頭上を覆い、日の出の位置すら確かでない。
だがキウエモンは正しく東の方角を向き、柏手を打って拝礼をすると、あとはじっと海面をにらんでいた。俺が声をかける隙もない。
いまは干潮の底だ。海面上に船縁を見せるイライザ号の上には複雑な丸太組みがかぶさっている。それを取り囲む七十五隻の漁船と、船尾に寄り添う西漁丸からは無数のロープが蜘蛛の巣のように伸びていた。
定刻、五百人がすべての持ち場についた。
キウエモンは海面にいる手下に、イライザ号の船尾に付けた潮位の目盛りを読ませる。
返ってきた数値を聞いてキウエモンがつぶやいた。(よし満潮時より五尺も低いぞ)
キウエモンは帯から扇子を抜きバサッと広げると、その場で足踏みするように踊りだした。海の上から西漁丸を見上げていた五百人の漁師たちは驚いた。
「おい、見ろよ!旦那が踊ってるぞ」