「ほう、どんな奴だ?」
俺はラスの戸棚から勝手にジンのボトルをつかみ出し、手酌で喉へ流し込む。
「地元の船頭で、タナカという男、それにヤマシタ、もう一人は他所者でキウエモン」
「キウエモン?あの踊るキウエモンか?」
俺は片手をひらひらさせてやった。どいつもこいつも素人じゃないか。俺のイライザ号を本気で揚げる気があるのか。
「奉行所は長崎の事は土地の人間に解決させたい意向だ。まずタナカに任せる事になった」
「そいつはお手並み拝見だな」
「おい、他人事みたいな口をきくな。君もタナカの仕事を手伝うんだ」
「わかってるさ」
数日後、俺はタナカという男とイライザ号に向かった。坊主のように頭を剃りあげているタナカは、見るからに気の荒そうな船頭だ。
この日の海は幸いに穏やかだった。彼は番船の許しを得ると、沈んでいるイライザ号に接近し、水面からわずかに出ている船尾楼(プープデッキ)の柱にもやい綱を結んだ。次に連れてきた二十人ほどの手下を艀船の上に並べると、
「今日は沈船の様子見じゃ。人手は二組に分けるぞ。一の組は船の外から船底の傷み具合と泥の深さ、淦水の深さを測るんじゃ。二の組は船の胴の間に潜って、積み荷の樽をいくつか引き揚げてこい」