話し終えて周囲を見回す俺の眼に、ラスとタキチロの退屈した顔があった。むろん四人のサムライたちは我関せずとばかり、女たちとふざけていた。だいたいタキチロに俺の話が全部理解できたのか判らない。ましてキウエモンに伝わったのか怪しいものだ。しかし、キウエモンの目玉の輝きを見ると、要点はのみこめたのかも知れない。彼はひとり興奮覚めやらぬ体だった。やっぱり船乗りは船乗り同士ってわけだな。聞けばキウエモンはルソンどころかシナに航海した事もないという。ルソン、バタビアまで長くて一ヵ月、オランダまでは数ヵ月の航海だと言うと、そのような長い航海が出来る船と、その船を操る船乗りに、同じ船乗りとして畏敬に近い気持ちを持っていると答えた後、
「むかし私の祖先は瀬戸内から大坂築城のために巨石を運ぶ御用を承ったそうです。そのとき船には積めない巨石を、船から綱で水中に吊り下げて運び人々を感心させたそうです。幼い頃、祖父からその話を聞かされてから、いつか私も知恵でご奉公したいものだ、と思っているのです」
としめくくった。