日本財団 図書館


ケアの代表的なものに看護がありますが、看護という行為と、一般に広い意味でケアと言われる行為の微妙な違いも、そこにあるのではないでしょうか。

たとえば、看護の場合は、入院患者さんが、検査や食事や薬の服用のために体を起こさなければいけないとき、できるだけ痛みを感じずに起きられるように、いいタイミングで手を添えることが重要になります。しかし、ケアにおいては「セルフケアを支える」ことなので、本人が非常に苦痛を感じていても何とか自分で起き上がろうとしているときには、ある距離をおいて見守っているということがたいへん重要だと思います。そしてセルフケアをしようと試みながら、どうしてもそれがうまくいかないという瞬間にさっと支えの手を差しのべることが大切になります。

つまり、ケアは、その人にとって何が幸福であるかを考え、その人にできないセルフケアを支え、そして距離をおいて見守る関係だと言えます。

私が聴くということの大切さについて考えはじめたきっかけになる、大阪大学医学部の中川米造先生(医療哲学)の文章があります。ホスピスケアなどでご活躍の柏木哲夫先生らが厚生省のプロジェクトの中で作られた非常に有名なアンケートについて、中川先生が書かれたものです。

アンケートは、「『私はもうだめなのでしょうか』と語りかけてくる患者の前であなたはどう答えますか」というものです。これには5つの回答が用意されています。

1番目は「そんなこと言わないでもっと頑張りなさいよ、と励ます」、2番目は「そんなこと心配しないでいいんですよ、と答える」、3番目は「どうしてそんな気持ちになるの、と聞き返す」、4番目は「これだけ痛みがあると、そんな気にもなるよね、と同情を示す」、5番目は「もう駄目なんだとそんな気がするんですね」皆さんなら、どの言葉を発せられるでしょうか。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION