日本財団 図書館


そういうことが、いわゆる「セルフケア(自分自身が自分自身を取り戻していく)」ということなのかもしれない。「今日も一日生きてきたな」を確認し「明日もまた仕事に、いろいろな営みに勇気をもって関われる」ことにつながっているのではないかと思う。

それは現代の日本社会に支配的な、お金とか物、世間の評価とは、まったく異なった価値である。自分ひとりではない、そこに仲間がいるという大きな信頼感、安心が価値の中心であろう。現代の私たちにいちばん肝心なことは「本来」に戻るということではないか。自分自身が自然な素直な心を取り戻す、特別に癒される必要もないしケアする必要もケアされる必要もない、自然に自分を表現し合えるような社会を取り戻すことではないか。

 

3 「祈り」の姿

それでは「ひらの聞思洞」は、どのようにできてきたのか、それには、この20年の流れ、さらに大きくみれば800年の流れがある。

私は20年前にお坊さんになったが、そのとき同じ宗派のお寺で、おもしろい所がないかを捜した。2つあって、1つは仏教の先生の話を聴いて、そのあと参加者で座談をもつ。全国各地から毎月1度、50人ほどの人が集まる熱気のこもった話し合いがあり、若い者はそのままお寺で泊まり込んでしまう、そんなお寺が“聞思洞”の名で活動していた。もう1つは、いわゆる仏教の話ではなく、社会的活動をしている人を招いて話を聴き、参加者がそれぞれ「自分の発表」をする。ここも“聞思洞”という名前だった。

私はそれらの住職方の活動に刺激され、3年間ほど毎月その2つのお寺に通った。そのうちに「私もやりたい」という思いがだんだん自分自身のなかで煮詰まってきた。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION