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もちろんそれは、私自身、仏教者として、お寺の住職として残念なことだから、そんな現状を突破したいと思い、私のお寺でもいろいろな試みをしている。しかし、やはり場所としての限界、一人の人間としての限界もある。そこで毎日開放している「お寺」として開いた場が「坊主バー」だったのだ。それが「落ち着く」と言われ、この忙殺、閉塞の現代社会にあって、少しゆとりを取り戻す場所、私たちが生活していくうえで自分を取り戻せる場所・時間・空間になっていることは、とても嬉しく、逆に「そうかお寺は、こういう場所だったんだ」と自分自身を再確認することにもなっている。

 

2 自分のことを語る場「ひらの聞思洞(もんしどう)」

「坊主バー」を生み出したお寺の集いは、「ひらの聞思洞」という名で、いまも月1回開かれている。

その集いには「自分のことを語る」という以外に何の条件もない。世の中の出来事や、他の人のことでもかまわないが、そのことを自分はどう思うのか、どう考えるのかを、また自分はこんなことをやってきたとか、とにかく自分のことを語ってもらう。

初めて来た人には「自分史」を語ってもらう。単なる肩書きの自己紹介ではなく「今、こう、在る」私のことを語ってもらい、2回目以降は「最近の私」ということで語ってもらう。しばらくそうして語ってもらううちに、みんなでワイワイ語り合えるようになる。午後7時半ぐらいから始めて9時半ぐらいになってくると、本堂の縁側にお酒用の冷蔵庫があって、そこから純米酒が出てきて、お酒を飲みながら語り合う。こういう場を月1回開いている。

そこで語られることは千差万別である。3才のときにお父さんと死に別れたことから話しだした人もいたし、中学校の音楽の先生で、叔父に財産のことで恨みをもっている人が、自分の恨みの内容をおもしろおかしく語られたり、15年間愛人生活をしていたが、その彼が亡くなって寂しいとか、在日朝鮮人の方が会社での差別の実態とか、それに対抗している自分の活動をアピールされたりとか、本当にいろいろな方が来られ、そのそれぞれの話をみなで楽しく聴かせてもらっている。それぞれが素直に自分のことを語り合える、そんな信頼のある場になってきていると思う。

 

 

 

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