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まず、仕事の内容に関することとしては、「利用者からのセクハラ」や、「夜勤時に一人で数十人の利用者をみなければならない」といった深刻な状況や、移動や食事の介助時に経験した危険な場面、仕事の内容や量が賃金に反映されない、また社会的地位も低く見られがちであることなどが挙げられた。このような状況については、ケアする人が充分に技術や能力を高めるとともに、安心して仕事を行えるような情報や環境も今後の課題であると言える。

そして、もう一つは自分自身の精神的な行き詰まりが挙げられる。バーンアウトやそれに近い状態を経験したり、バーンアウトにまで至らない場合でも、職場での人間関係がうまくいかずに孤立感を感じているケースや、危険を感じる場面を経験したために自分の不注意や勉強不足を責めて自信をなくしているケースがある。

さらに利用者の死に出会うケースもいくつか挙げられた。このような危機に対しては、同僚や上司の支えで乗り越えたり、その時の対処について振り返ったりアドバイスを受けて解決している人もいる一方で、「一生忘れられないことです」「現在進行中です」といった回答もあった。

このほか、忙しい状況の中で利用者の声や身体の状況に注意が向けられない状態に対して危機感を抱いたり、利用者になじられたり、自殺企図を予告されたりなど、利用者の危機にケアする人がもろに受けとめなければならない状況がある。

 

3. 「ケアする人のケア」ができるためには必要なことは何か

大変な状況を担うときの工夫、乗り越えてきた経験、良い状態で仕事をするために必要なものについて、さまざまな知恵や経験が寄せられたが、大きく分けて二つの方向性がある。

一つ目は、具体的に解決することである。利用者との間の問題に対しては、コミュニケーションを重視したり、指導や助言を得たり、職場内で話し合ったり介護技術を高めたりといったことが挙げられる。また、そのためには「仲間」や「職場内の人間関係」などが必要な条件として挙げられている。

もう一つは、自分の姿勢や考え方を良い方向にもっていくという自分自身の気持ちの問題である。「前向き」、「やる気」など、自分の気持ちをポジティブに心がけることや、逆に「冷静に客観的に」、「私的感情、考えはださない様に」のように、関係に距離をおくといった回答もある。

さらに、それを支えるものとして、自分自身の心身の健康に気をつけることのほか、家族や友達に愚痴を言うなどして発散したり、プライベートの時間を充実させるといったことが挙げられた。

また、この調査をする過程で、「ケアする人のケアについて考える時間をとれたことがとても良かった」「アンケートに回答をするうちに問題が自分で見えてきた」といった声もあり、考えたり話したり、書いたりすることが「ケアする人のケア」ができるための一つの機会であったと言える。

 

 

 

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