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また、和歌山県水産試験場と岩手県水産技術センターの協力を得て、データセット内の誤データーの発生状況とその原因を調べた。この結果は、海洋学会や調査技術学会で発表し、後者の学術雑誌「海洋調査技術」に2編の論文として印刷されている。

また、このソフトウェアは、国際的にも高い評価を得ており、UNESCO/IOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)のプロジェクトIODE(国際海洋データ情報交換システム)議長のBen Searle氏の要請もあり、英語版を作成しアジアの海洋学的開発途上国を中心に提供を行ってきており、高い評価を受けている。これも誇るべき成果の一つである。

 

日本近海の水温・塩分アトラス

海洋物理学データの研究・技術開発関連のデータプロダクツは、当然のこととして新しく充実させたJODC/MIRCデータベースを基にした日本近海の水温・塩分の詳細な1/4度格子の統計量(データ数・平均値・分散値を各標準層について、また年平均・季節平均・月平均値等について与えるもの)のアトラスを作ることである。しかし、このような標準的な取扱いだけでは、ユーザーのニーズを十分満足させることは出来ない。例えば本州南方海域では、黒潮の直進時と蛇行時では海況に大きな変動があり、この変化は季節変化よりもはるかに大きい。そのため、通常の平均場の海流は非常に平滑化されてしまい、漂流予測などで利用すると大きな誤差の要因となる。MIRCでは蛇行・直進の黒潮パターン等が、沿岸水位のデータによってモニターできることを利用し、パターン分けした平均場を求めることも試みた。結果として、従来に見られないシャープさで黒潮流路を表現に成功しており、これは海洋データを研究の対象とみなしてきているMIRCの誇るべきデータプロダクツの1つと考えている。この手法は、後の述べる海流場に関するデータプロダクツにも応用していくことを考えている。

 

高度の品質管理手法の開発

先に述べた品質管理ソフトウェアにおいては、その中でのチェック操作において、諸種の観測値の、正常値の存在範囲をあらかじめ設定して用いている。この範囲については、通常の設定値として米国のNODCが世界を対象として編纂したWorld Ocean Database 98の作成過程で用いられた値を採用している。しかし、海域を限定すると、三陸沖の混合水域のような複雑な海域でも、与えられた範囲が広すぎて高度の品質管理が望めない。この研究の一部は科学技術庁の振興調整費にもよっているが、三陸沖で適用すべき範囲についてMIRC独自の提案を行っている。その際、水温分布の値の分布が非常に歪んでおり、平均値から9倍の標準偏差を越す真値も現れることが示された。これは、純粋の黒潮水が稀にこの海域に侵入するような場合、大暖水塊が稀に岸近くまで接近するような場合に起こる。この結果が示すように、高度の品質管理手法を開発するには、対象海域の海洋学的知識が不可欠となる。しかし、世界的に見ても、データの品質管理の観点から海洋現象の解明まで行っている研究者は皆無に近い。この結果は、海洋学会などで発表しているが、リスボンで開かれたIODEの総会でも発表した。

 

 

 

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