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高潮によりどの程度の潮位上昇になるかは、ある程度定量的に見積ることが可能である。簡単な見積として、海水は気圧や風と平衡状態にあるとして、それぞれの釣り合いから海面偏差を求める方法がある。この方法では、気圧低下に伴なう吸い上げによる水位上昇は、

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と表される。ここで?Pは気圧低下量、ρは(海水の)密度、gは重力加速度である。

この値は大体1hPaの気圧低下に対して約1cmの水位上昇に相当する。地上気圧の平均は1013hPaくらいであり、最も発達した台風などでも900hPa位であるから、水位上昇量を見積もると約113cmになる。日本の沿岸では、台風の中心気圧はかなり強いものでも950hPa前後のものが多いから、気圧の吸い上げによる上昇量はこれより大きくはならない。しかし、過去に300cmを越える高潮が起こっているのは、主に強風による吹き寄せによるものであることを意味している。

強風による吹き寄せによる水位上昇も、海水に加わる力のバランスを考慮して

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と表される。ここでτsは風の応力、lは湾のスケール、hは水深である。この関係式から、吹き寄せの効果は、風速だけではなく湾の水平スケールや水深にも影響されることが分かる。図1は、仮想的な海に20m/sの風を南から吹かせ続け、平衡状態に達した時の状態を示したものである。水深が20mの時よりも15m、7mと浅くなるほど沿岸部(北端)における偏差が大きくなるのが分かる。なお、図には海水の流れのベクトルを矢印で示しているが、流れが真北に進まずやや東よりになっている。これはコリオリ力の影響である。一般的に北半球では、風によって起こされる流れ(吹送流という)は、風に対して30度程右よりの向きを取る。

では、地形の形状による変化はどうであろうか。図2に、いくつかの例をあげておく。これらはみな図1と同様の条件でつくられた偏差である。湾が奥まで広がるほど偏差が高くなることは、吹き寄せの式(湾のスケールlが分子に入っている)からも分かる。水深を変化させると、遠浅の海の方が偏差は高い傾向を示す。また突き出た海底地形に対しては、海水が周りを迂回するため、あまり偏差が出ないという特徴がある。

今まで示してきた例は、定性的な理解のために、単純な場合に対し仮想的に計算した例である。実際の場合には、地形はより複雑であるし、海水は、時間と共に変化する風系に追随して変動するため、このような静的バランスのみでは不十分である。したがって動的バランスを力学的に考慮した詳細な数値計算によって見積もる必要がある。

 

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図1 水深による吹き寄せ効果の違い

 

以下では実際の高潮を例に見ていこう。昨年(1999年)9月に台風第18号が西日本を通り、九州の八代海や瀬戸内海の周防灘で顕著な高潮が発生した。

 

 

 

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