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講演

 

高潮と波浪に対する海底地形の影響

高野洋雄 (気象庁気象研究所台風研究部研究官)

 

はじめに

海洋の諸現象のうち、高潮と波浪は津波とともに、沿岸にしばしば大きな災害を引き起こしてきたことから、比較的なじみの深い現象で、多くの関心を集めてきた。特に周囲を海に囲まれた日本では、沿岸部の低地に暮らす人々の割合が多く、これらの現象が与える影響は大きいため、防災上の観点からも重要視されてきた。

高潮と波浪、それに津波といえば、沿岸域における海象災害の代表といって良いであろう。これらは、その特性においては外部重力波として統一的に解釈することが可能である。外部重力波の「外部」は、波が媒体内を鉛直方向に伝播せず、発生面(この場合は海面)付近において卓越する波であることを意味する。重力波は重力を復元力とする波のことである。こういうと難しく聞こえるが、要は重力の働きにより、高いところは下がり低いところは上がって、水面を一定にしようとすることによる波動ということである。

この三つの現象の特徴についてまとめたものを表1に示す。これらの発生原因は、津波は海底の地震や火山活動などの地殻変動(地象)によるものであるのに対し、高潮と波浪はいずれも台風や低気圧などの気象によって引き起こされるものである。しかし、波の性質をみると、波浪は「短い」波であるのに対し、「長い」波である高潮と津波のほうがその性質は似ている。ここで「長い」波や「短い」波というのは、波長と水深との相対比で決まる尺度である。波浪の波長のスケールは大体100m程度であるのに対し、高潮は大体台風や湾の水平スケールに相当する数10km程度、津波も断層変化が大体数10kmから100km程度になる。海の平均水深が3km程度だから、津波や高潮の波長は水深に比べて十分長いのに比べ、波浪の100mという値は十分短い。(沿岸部などで水深が数10mと浅くなる場合は、当然この表現は当てはまらない。このことについては後で詳しく述べる。また、「長い」と「短い」という用語の具体的な目安についても後述する)

現象の時間スケールについても簡単に比較しよう。波浪では、個々の波は大体10秒程度の周期を持つ。津波は、一過性の地殻変動による現象であるため、数分くらいの周期の波であることが多い。高潮の場合は、台風の大きさや動きによって十数分から数十分と、津波よりは比較的長い周期の現象となることが多い。ただし、津波や高潮は地形などの影響により、湾などで共鳴して複数の波が引き続いて起こることもある。

 

表1 高潮・津波・波浪の比較波浪

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高潮が受ける海底地形の影響

高潮は、台風や低気圧の気象要因の現象であることは述べた。具体的には気圧の低下による海水の吸い上げと、強風に伴なう海水の吹き寄せによって、海水が集積することによって水位が上昇する現象である。沿岸・外洋に関わらず起きている現象であるが、沿岸では地形の影響により大きな高潮になりやすいうえ、居住区に浸水被害をもたらすなど直接災害につながりやすい。

 

 

 

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