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南海トラフの地層は有機物を含む。それが分解されて二酸化炭素になり、その二酸化炭素をさらにメタンに変えるメタン発酵バクテリアが海底下の堆積物中に生きている。先に述べたようにベルトコンベアー効果が地層を圧縮しているため、強制的に地層の中の水、もともと含まれた海水が排水されている。その時、地層中のメタンが海底に向かって上昇し、温度の低い状態に置かれると、水と化合してシャーベット状のものになる。これをガスハイドレード(メタンハイドレード)と言う。ガスハイドレードが氷になっている所と、下で溶けているところの境界が反射面として見えるのである。ガスハイドレードは天然ガスとして重要な資源として考えられつつある。南海トラフのメタンハイドレードは全体で日本の年間消費量の90年分くらいあると言われている。

通常、深海底には栄養分は届かない。海の表層で作られた有機物は途中でバクテリアで分解され深海まではほとんど届かない。貧栄養の深海にも拘らずこれだけの生物が存在することは異様なことである。この特殊な動物群集は、海底下からもたらされる栄養素、この場合はメタンと硫化水素であるが、それを酸化するバクテリアがおり、それが体内に共生しているのである。この貝は消化管を持たず、周囲から有機物を摂取する必要はない。細胞の中にメタンや硫化水素を栄養とするバクテリアが住んでおり、それから栄養をもらっている。このようなシロウリガイ動物群が南海トラフに見られる理由は、先に述べたガスハイドレードの成因と同様に、付加体形成のブルドーザー効果で多量の水が栄養分とともに特に割れ目(断層)に沿って泉となって湧き出し、そこにこの動物群が棲んでいるということである。これも付加体形成の作用にともなう重要な過程を見ていることになる(図8)。

日本列島は海溝で誕生した。約2億年の歳月を経て、年輪が成長するようにアジア大陸の縁でつぎつぎと付加体ができ、陸地となっていった。この作用は現在も続いている。

 

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図8 付加体形成のしくみ

 

おわりに

海溝ではプレートの沈み込み境界に沿って巨大地震が発生する。巨大地震発生帯から派生した断層は、海底において顕著な変動地形を作る。このような変動地形には、急崖、海底地滑り、断層破砕帯などがあり、それに沿ってしばしばシロウリガイ群集が認められる。現在、上で述べたような種々の探査機器を用いて海底の活断層の様子がマッピングされている。さらに、これからはそのような基本図を活用し、海底の地殻変動(短縮量や隆起沈降量)の実測、地震発生域の精査が行なわれようとしている。これには、国際的な協力がぜひ必要となろう。

さらに21世紀初頭に向けて、現在、科学技術庁と海洋科学技術センターが中心となり新しい深海掘削船の建造を含む海洋掘削の国際計画が検討されている(OD21)。これが実現すれば、新世紀は深海新時代の到来を画することとなろう。

 

参考文献

平朝彦(1990):日本列島の誕生。岩波新書、226頁。

平朝彦(1994):プレートの沈み込みが引き起こす大陸の成長。日経サイエンス、No.11、56-70頁。

 

 

 

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