基調講演
海底探査からみた日本列島の生い立ち
平朝彦 (東京大学海洋研究所教授)
はじめに
日本列島周辺の深海底の研究が新たな展開を見せている。それは海底の変動帯のテクトニクスや地震発生機構の研究である。あの阪神・淡路大震災以来、日本列島のテクトニクスの研究は地震予測や防災の基礎として重要性が認められるようになった。さらに近年、日本列島の構造とテクトニクスの研究は、造山帯の成り立ちや大陸地殻の進化の研究に重要なことが解ってきた。日本列島の約半分は海中にあり、またプレート境界部のほとんどは深海にある。ここでは、深海底の探査からみた日本列島のテクトニクス研究の前線について概説しよう。
海溝とプレートの沈み込み
地球の表層は、約十数枚のプレートと言われる岩盤から成り立っている。この岩盤は100キロぐらいの厚さを有し、お互いに相対運動をしている。例えば太平洋プレートは、東太平洋海膨という海底の山脈において、マントルからマグマが上昇し、冷えて固まり形成されている。太平洋プレートはゆっくり西方へ移動してゆき、日本海溝からマリアナ海溝で沈み込みマントルにまた消えて行く。この考えをプレートテクトニクスと言う。プレートの沈み込む所には、海溝があり、火山列島がある。その代表的な例が日本列島である。日本列島の周辺では、日本海溝から伊豆小笠原海溝にかけて太平洋プレートが沈み込んでおり、南海トラフから琉球海溝にかけてフィリピン海プレートが沈み込んでいる(図1)。日本海溝は深い海溝で7,000m、伊豆小笠原海溝はさらに9,000mの水深がある。それに比べて南海トラフは浅い海溝で、水深は約5,000mである。
これらの海溝ではプレートが沈み込み、さらに深い所で起る地震活動(深発地震)が認められ、それが沈み込んでいるプレートの存在を表している。フィリピン海プレートは平坦なプレートではなく、火山列島(伊豆小笠原海嶺)と海盆(四囲海盆)との二つの要素から成り立っている。