しかし、驚いた事に貧しい国に付き物の乞食がほとんどいない。後にスークが密集したオールドサナアを見物したときに二度ほどしつこくない物乞いに遭遇したのが唯一であった。さらに、子供がわれわれを珍しがってついてきたときも傍らの老人がきつく戒めていたことも高潔さの現れであろうか。オールドサナアやマーリブを始めとして国内至るところに数100年数1000年前の建物や遺跡が残る割には観光開発が進んでおらず、人々がすれていないのもあるのであろう。男たちの多くは普段から腰におなじみの半月刀ジャーンビアを帯び、スークでもかなりの店がジャーンビア専門店である。イスラムの伝統が守られている。
(カートの誘惑)
それと正反対に位置しているのがカートの服用であろう。カートは低木の葉で弱い麻薬のようなものである。男たちは口の中でくちゃくちゃと噛んでほうをゴムマリのように膨らませてカスを吐き出す。隣国では禁止されているという。街中ではたまに見かける程度であったが消費量は多いらしい。麻薬は麻薬であり勤労意欲はそがれるであろう。高いものではないようであり、金のかからない楽しみなのであろうが、このままでよいものか疑問である。
(レストラン事情)
世界中至るところに中華レストランはあるが、ここイエメンにはアデンにある一軒を除くと満足できるものはほとんどないといって良い。他の料理に至っては高級ホテルを除くと皆無である、マクドナルドも見かけなかった。
(アルコール事情)
アルコールはアラブの国の割には手に入りやすいのではないか。ホテルではコーヒーショップに至るまでビールをサーブしてくれる。ビールも街中で購入できるらしい。スコッチウイスキーなどは入手困難ではあるが。
(伝染病)
滞在中気になったのはリフト・バレー・フィーバーである。アフリカ原産と考えられているこの病気は、蚊などの吸血昆虫を媒介して家畜と人間の間で伝染し、家畜は100%人間は数%の致死率をもたらす恐ろしい病気である。サウジアラビア方面からホデイダの北80Kmまで汚染が広がり、大使館の医務官から警告されたり、空気感染するといううわさが流れたりであったが、ホデイダの港務局では何の心配もしておらず拍子抜けであった。しかし、念のためにホテルに蚊取り線香を持参した。ホテルの外には道端で就寝する栄養状況が必ずしも良くない人が多く見られ、このような人々には感染するかもしれない。
(テロ)
帰国してからの事件であるが、米海軍の駆逐艦がアデン港で給油中に小型ボートによる自爆テロに遭い多数の死傷者を出したことは記憶に新しい。これものんびりとしたアデンの町と相容れないものがあるように思えた。
(風貌)
こちらの男たちはひげを蓄えいかめしい表情を崩さずとっつきにくいところがある。しかしながら、門番の老人に手を上げて挨拶すると、すかさず手を挙げて応えてくれるなど、相変わらず表情は変えないものの友好的な印象であった。サナアの女性は黒いベールで完全に顔を覆っているのでその顔立ちを窺うことができない。もともと彫りの深い顔立ちであり、美形であることが予想されたが残念な結果に終わった。