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<寄稿>

 

カンボディアの概況と運輸事情

高垣泰雄*

 

私は平成11年9月から2年間の予定でカンボディア国公共事業・運輸省に大臣付JICA専門家:運輸・港湾アドバイザーとして派遣されている。このたび折角の機会をいただいたのでカンボディアの概況と運輸事情の一端を紹介することによって、少しでも両国の相互理解の役に立てれば幸いである。

カ国公共事業・運輸省は道路、港湾、空港建設、鉄道、内陸水運等の公共事業と空港管理を除く運輸行政全般を司る。今回その全てを紹介することはあまりにも通一遍のものとなるので、特に道路交通と内陸水運を取り上げてお話したい。カンボディアの特殊性は、つい先ごろまでの内戦・内紛により社会経済インフラが徹底的に破壊されるとともに、長年にわたり維持管理されることなく疲弊していることと、ポル・ポト時代に全ての既存の社会秩序が否定・破壊され、有知識層が粛清されたことである。具体的には戸籍も地籍も教科書もありとあらゆる書類は廃棄され、眼鏡をかけているという理由だけでインテリとして処刑されたといわれている。したがって、カンボディアは開発途上国というよりもある意味では、開発欠損国であり、大きなマイナスを克服していかなければならない。それは社会秩序の回復、教育システムの再構築、人材の養成、社会システムの建設、経済の回復、社会基盤の建設・維持等と多岐にわたる。いまカンボディア国民は平和の訪れを喜び、一歩一歩自国の再建に努力しているところである。今後ともカ国が自助努力とともにご支援をいただき、早期に独り立ちできるよう温かく見守っていただきたい。

まずカンボディアの地勢であるが、これはよく「傾けたお皿」に例えて紹介されている。この機会に世界地図を広げていただきたい。北西はタイ、北東はラオス、南東はヴィエトナムにそれぞれ国境を接した国で、南西は辛うじて海に接している。何故辛うじてといったのかは、海に接した側にもっとも高い山脈が走り、南端部分を除きほとんど道路が発達していないことと、歴史のなせる技であるがタイ・ヴィエトナム国境により沿岸部は両側からすぼめられている状況がおわかりになることと思う。

また母なるメコンは遠く中国に源を発し、ラオスに入り、タイ、ラオスの国境を形成後、再びラオスに入って、カンボディアへ流れくだり、ほぼ南北に国土を貫き、南東のヴィエトナムヘ抜けている。なお、ラオスとカンボディアの国境にメコン川水系最大の落差を誇るコーンの滝群があり、ここを境に、上流と下流の水運利用は分断されている。

国土の中央にある広大なトンレサップ湖を源とするサップ川がメコン川と合流し、また分かれてバサック川とメコン川なる地点、このX字型の右岸に形成された都市が首都プノンペンである。明らかに水上交通の結節点である合流点の交通利便性を重要視しての立地であった。このトンレサップ湖は、主流であるメコン川の調整池である。つまり雨季にはメコン川があふれ、サップ川を逆流し、トンレサップ湖は乾季の数倍の面積に拡大するのである。10月までは雨季であり、11月にはまた海に向かってトンレサップ湖からサップ川を通じ、海に流れ出す。

 

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雨季後の国道3号線の浸食状況

 

* カンボディア公共事業運輸省 運輸・港湾アドバイザー

 

 

 

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