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4. 結言

 

本研究の一番目のテーマである「大気汚染防止運用システムの調査研究」では、各業界の最前線におられる方々に参加頂き、机上検討のみならず可能な限り現実と同じ条件を取り入れた模擬運用の実施に努めた結果、予想を上回る有益な経験と基礎データを蓄積することが出来た。本研究の開始にあたっては、得られる成果の見通しが必ずしも明確でないため懸念もあったが、海外の実情調査、海外船級協会との意見交換等を実施して行く過程で、この調査研究が世界的にも例がなく先進的な活動であることが次第に判明してきた。これを励みにしながら、予算的にも厳しい状況の中で全委員が成果達成に向け努力してきたことは特筆すべきであろう。

本研究によってIMO附属書の解釈・理解が深まった結果、条約発効に至っていないこの時期に各事業者がどの様な準備、対応をすべきか判断できるようになったことが、最も大きな成果である。また、事前には予想していなかった課題が見えてきたことも、副産物であった。排出規制に対する漠然とした不安が解消され、我が国の業界関係者がNOx対策に対して沈着、冷静に対応できるようになったものと確信する。

一方、第二の研究テーマである「EGRシステムの舶用化研究」では、C重油という低質燃料を使用する舶用機関において、海水を利用した排ガス洗浄装置を組み入れる事により、懸念材料であったピストンリング、シリンダーライナー等の信頼性低下を克服する目処を得ることが出来た。予算の制約上必ずしも十分な確認運転が出来たとは言えないが、少なくとも実用化は可能であり、且つ、第2次IMO規制で予想される30%以上のNOx低減率を実現するための有力な選択肢として、EGRを位置づけることが可能になったと評価できる。また、この研究を通じて、従来ボイラの排ガス洗浄装置として広く採用されていた充填塔スクラバーではなく、ジェットスクラバーという別の方式がEGRに適していることが判明したことも大きな成果である。

1997年9月に採択されたMARPOL73/78附属書VIの発効要件は、15カ国以上の国であってその商船船腹量の合計が総トン数で世界の船腹量の50%に相当する以上となる国が締約国(批准国)となることとされている。

現時点では、スウェーデン、ノルウェー、シンガポールの3カ国が批准しているのみで船腹量もまだ約10%であるため条約発効の見通しが立っていないが、2002年までに発効しない場合は、発効要件の見直し等を検討する会議が開催されることになっている。

短期的には賛否の拮抗が予想されるが、長期的に見れば環境保全の流れが留まるとは考えにくいため、何れ条約が発効し更に次第に規制が強化されていくものと予想される。条約発効の見通しが立っていないにも拘わらず、大方の機関メーカーが積極的に親エンジン等の予備鑑定を進めており、一方、相当数の船主がNOxの予備鑑定を選択している状況であるが、これも関係者の多くが環境保全の流れを重視している証拠であろう。

一方、最も海洋の環境対策に力を入れているバルト海周辺諸国では、既に一定以上の排出に対し課税されるシステムがスタートしており、グローバル規制を待たずローカル規制が先行することも考えられる。

この様な環境下で、NOx対策に関わる2つのテーマを2年間に亘って研究してきたが、これによりNOx対策に関する我が国の関連業界のポテンシャルが大いに向上したことは明白であり、また今後予想される国際的な議論の場においてもこの成果が必ずや有効に利用されるものと期待する。

 

 

 

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