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1. 研究の目的と狙い

 

地球温暖化ガスの一つと言われるCO2の排出削減が世界的に関心の高い環境問題であるが、船舶から排出される大気汚染物質の低減についても国際的な議論が進められ、1997年9月IMO海洋汚染防止条約締約国会議においてMARPOL73/78附属書VI「船舶からの大気汚染防止のための規則」が採択された。

この付属書の核となるのが硫黄酸化物(SOx)、及び窒素酸化物(NOx)の規制であるが、SOxの現実的な低減方法は低硫黄分の燃料の選択であるため、経済的側面を除けば技術的に困難な課題は殆どない。しかしNOxについては、商船の殆どで使用されているディーゼル機関において、NOx計測そのものが容易でないこと、その低減手法が多岐に亘っていること、更に機関のNOx関連部品の定期的な点検(就航後の改造によって排出量が変化していないかの検証)が必要となること等から、機関の鑑定、定期検査の運用にあたって幾つかの疑問点・問題点が指摘されている。

そこで、このNOx排出規制対策を円滑に実施していくため、機関の鑑定に関わる基準の統一、機関パラメータ変更時の対応方法、その手続き等、運用に係わる課題の調査研究を実施して、来るべき条約発効に備えることが造船・海運業界の急務となってきた。

このため、舶用ディーゼル主機関を対象として上記の実運用に係わる課題を技術的・経済的な観点から調査研究し、機関製造・船舶建造段階のみならず、竣工後の船舶運用(運航、保船、検査、アフターサービス等)が円滑に機能するために必要且つ有効な基礎データを得ることが本研究の第一の目的である。これを(その1)大気汚染防止運用システムの調査研究として進めることとした。

一方、既述のごとく現在最も関心の高い環境問題はCO2の削減であることから、SOx、NOx等の排出を削減する為にCO2が増加することが容易には許容されない趨勢になっている。ところが、一般的にNOx低減対策を施行すると熱効率が低下し、結果的にCO2発生量が増加する傾向が存在する。そこで、幾つかのNOx対策の中でCO2増加というペナルティが少なく、且つ経済性・安全性に優れているEGR(排ガス再循環:Exhaust Gas Re-circulation)方式の実用化が、重要な開発課題となってきた。

しかし、EGRは自動車用小型ディーゼル等で実用化されているものの、低質油を使用する舶用機関では、再循環ガスに含まれるSOxや燃焼残査によるピストンリング・ライナの摩耗、空気冷却器、掃気トランクの汚れ等が予想されるため、機関の信頼性・耐久性低下が懸念され、これが実用化の妨げとなってきた。

そこで、タンカーで十分な舶用実績のあるIGSスクラバを利用したガス洗浄装置を排ガス再循環ラインに組み込むことで信頼性・耐久性の向上を狙った舶用EGRシステムの試験プラントを設計・運転し、その技術的・経済的課題を抽出し対策を立案することで、トータルシステムとして舶用化の目処を立てることとした。これを、(その2)EGRシステムの舶用化研究とすることとした。

本研究では、以上の2つのテーマを取り扱うこととしたが、課題が広範囲に亘る為、船舶技術研究所、船級協会、船主協会、大手船社、大手造船所、主要機関メーカー、及びIGSメーカーと言う体制で、本研究を進めることとした。

 

 

 

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