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また、海水打ち込みの制限は、復原性や暴露甲板上の構造設備の強度等に関する基準の前提となっており、船の安全性確保に対して満載喫水線基準の果たす主要な機能と言える。

 

3.2 安全レベルの考え方

上記のことから、海水打ち込みの制限を最大課題として乾舷を考える。その場合、打ち込みが全く生じないような高さに乾舷を設定するのは現実的ではない。そこで、現行の船舶の沿海及び近海での打ち込み頻度や甲板荷重の発生確率を把握し、限定近海で想定される海象において、これらと同じ頻度で発生する場合の乾舷及び船首高さの推定、さらに設備要件等を検討する必要があると考えられる。

 

3.3 船首高さと乾舷値

満載喫水線規則における乾舷値の取り扱いとして、遠洋・近海規定では船首高さと船体中央部の乾舷を区別して規則を定めているのに対し、沿海規定では区別せず扱っている。海水打ち込みと乾舷及び船首高さとの関連を考えると船体中央部は打ち込み水による衝撃荷重の発生はほとんどなく、本部会で行った模型実験においてもその事は確認されている。このことより、船首については甲板荷重といった海水打ち込みに関連する直接的な諸量で評価することとするが、船体中央部の乾舷を検討する際は甲板荷重ではなく主に水没性や予備浮力の観点から検討を行うのが適当であると考えられる。ただし、その場合に復原性は他の規則で担保されているので、要求基準の設定においては予備浮力を船内浸水に対する安全マージンとしてのみとらえ復原力そのものの確保を考慮しないこととする。

このような考え方に基づき、限定近海船の乾舷及び船首高さを各々設定することとする。

 

4. 長期予測計算にもとづく乾舷値の推定

前章での考え方に基づき、長期予測計算により沿海規定及び近海規定で担保する安全性の評価を行い、限定近海船の乾舷及び船首高さを設定する。

 

4.1 計算条件

現行の内航船で代表的な船型18隻(主にタンカーと貨物船)を計算対象とした。船体運動の計算にはストリップ法(NSM)を用いた。また、甲板荷重については、本部会において開発した予測手法を用いた。長期予測計算に必要となる波浪頻度表のうち沿海区域及び限定近海については、本部会で収集・解析を行った日本周辺の詳細な波浪データを用いた。

打ち込み発生確率について、船首相対水位変動が乾舷及び船首高さを越える場合に打ち込みが発生するとして発生確率をそれぞれ求めた。これと同じ確率で限定近海を航行する場合に必要となる乾舷及び船首高さを設定した。

 

4.2 限定近海で必要と考えられる乾舷

満載喫水線規則では、沿海船及び遠洋・近海船について基本乾舷(満載喫水線規則第70条)及び基準乾舷(満載喫水線規則第51条)といった基本となる乾舷を各々定め、その上に各船の構造配置に応じた各船固有の修正を施すことで各般毎の乾舷を定める。

よって、これらの規定において基本的に担保されている安全性は基本乾舷及び基準乾舷と考えられる。そこで、基本乾舷(沿海規定)が担保している安全性を海水打ち込みの観点から評価し、同じ安全性(長期発生確率)を担保するために限定近海で必要となる乾舷を設定する。

沿海規定で定められる基本乾舷で沿海を航行する場合の船体中央部の打ち込み確率を求め、これと同じ確率で限定近海を航行するために必要となる乾舷を推定した。推定値と基本乾舷の比を図1に示す。横軸は船長を表す。船長にかかわらず比はほぼ一定となることがわかる。ここで推定値と基本乾舷の比の平均値は1.06となった。これらのことから乾舷に関しては、打ち込み確率の観点からそのレベルを同じとした場合に推定される乾舷値は現行の基準と一定の比率にあると考えられる。

そこで、限定近海船の基本乾舷は、沿海規定で定められる基本乾舷に修正係数として1.06を乗じることで推定可能と考えられる。

 

 

 

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