(報告)
限定近海船に対する満載喫水線基準
小川剛孝※
1. はじめに
内航海運の効率化を図る観点から、平成7年7月に船舶安全法上「限定近海船(概ね距岸100海里以内を航行する内航貨物船)」に係る新基準が設けられた。これを受けて船舶設備規定等の改正を行い、限定近海船が新基準による設備を設けることが可能となった。しかしながら、安全性の観点から満載喫水線基準の見直しが不可欠であり、これに対して内航海運業界からの要望が高まっている。
一方、船舶の満載喫水線について、外航船に対しては「1966年の満載喫水線条約(LL66)」に技術基準が定められ、内航船に対しては、1968年に国内規則として技術基準が制定されている。しかし、これらの制定当時は、耐航性理論等が十分発達していなかったこともあり、主として経験則に基づいて技術基準が定められたといわれている。その後、特に近年、耐航性理論等が発達し、技術基準の理論的検討が可能な状況となっており、理論的に実証された合理的な満載喫水線の基準の策定に対する要望も高まっている。
そこで限定近海船の満載喫水線基準について、船型および航行の実態を勘案した合理的な基準とすることを目的として平成8年度から4ヵ年計画で第45基準部会において調査研究を行い、限定近海船で必要になると考えられる乾舷の推定及び乾舷の指定条件の検討を行った。
2. 調査・検討事項
第45基準部会においては、主に以下のことについて検討を行った。
(1) 日本近海の波浪データの整備
(2) 内航船の実態調査
(3) 水槽実験による船体応答計算法の妥当性の検討
(4) 海水打ち込みにより発生する荷重の推定法及び長期予測法の検討
(5) 限定近海船に対する満載喫水線基準案の検討
(1)〜(4)までの検討事項の詳細についてはRR45成果報告書をご覧いただくこととし、(5)「限定近海船に対する満載喫水線基準案の検討」の概要について以下に報告する。
3. 限定近海船に対する満載喫水線基準案の検討
3.1 満載喫水線と安全性
現行の満載喫水線基準では、一定以上の水密性や船員の保護設備等を備えた船舶において、最小の乾舷及び船首高さを規定することにより、満載喫水線より上部の水密区画の容積(予備浮力)や乾舷甲板等の海面からの高さが安全上適切なものとなるように定めている。その結果、復原力の重要な要素である予備浮力が確保されるとともに、甲板上への海水打ち込みが制限され、転覆の防止、開口部からの浸水の防止(ひいては沈没防止)や暴露甲板上で作業する船員の保護等の安全性が担保されることになる。
このうち海水打ち込みに対しては、乾舷甲板等の海面からの適切な高さによる打ち込み水の制限、船員保護設備の設置による暴露甲板上での安全性確保及び出入り口やハッチの保護による船内へ浸水の防止、更に、船内に浸水した場合に予備浮力による安全性確保(沈下・沈没防止)といった多段階の状況が満載喫水線基準で考慮されていることになる。
※ 船舶技術研究所