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減産資金・人員削減が必要になり経営判断としては苦しい選択を迫られているが、経営資源・体力を消耗してしまわない前に各部門が自立、自律する姿勢を示すことが明日への再生の早道である。現状のままで推移すると設計対応力も韓国に比べて確実に比較劣位になるだろう。8,000〜12,000TEU型コンテナ船への対応も急ぐ必要がある。主機関設計はMBWの開発担当副社長の最近の言によればL型14、16シリンダ数で対応する方針とのことであった。

造船業が専業の中手クラスは、コスト競争力を構成する資材費、工費、経費では経費は相対的にスリム化されており、競争力のある他産業同様、設備集約的な産業になれば、工費の縮減が可能になる。

 

1. 舶用ディーゼル機関(舶用DE)について

1.1 舶用2サイクルディーゼル主機(2サイクルDE)

2サイクルDEは1980年代前半に掃気方式がユニフローに統一されてからも高出力化・軽量化は著しい。ロングレンジで見れば、信頼性や保全性は相当程度改善されつつあるが、以下のような重大トラブル事例も未だ時々発生している。

1]燃焼室周辺の重要部品リング・ライナーのスカフィング、ピストン冠の損傷、2]主軸受のメタル剥離損傷、3]機関構造(フレーム、コラム)の損傷、4]過給機ローター損傷、5](NKは機関室火災の研究会を実施したが)ライセンサーの不完全な設計が原因で、主機関燃料高圧管より漏洩したFOによる火災は火の周りが早く初期消火に失敗し、機関室が類焼した事例等もある。

ライセンサーを問わない古典的なトラブル事例で、新開発機関でも再発する可能性のあるトラブルである。MFOの燃焼特性、シリンダ油の潤滑特性、排気系(過給機)の汚れ問題もある。通常、舶用2サイクルDEはシステムの冗長性があり、部品交換により機関性能は相当程度回復する。重要部品の損傷がない場合は、メンテナンスコストも抑制される。三菱がVLCCに搭載のUEC75LSII機関の主軸受損傷の解決過程でホワイトメタルのSN線図作成とEHD解析法(elastohydrodynamic Analysis)*を確立した。B&W機関はデンマークMBW、日立造船はキャッチアップしようと務めている段階で、出力増の新機関では不安が残る。

* "Oil Film Pressure Measurement & Fatigue Evaluation of the Large Scale Diesel Engine Main Bearing under Fluctuating Load by the Test Rig"(ISME TOKYO 2000-TS 139)

 

1.2 主機関の出力率アップ競争

エンジンメーカー〜ヤード間の販売価格のベースは主機関の定格出力により決められている。船種毎の新船型開発の余波を受けて機関室長さの縮減が過去継続的に起きており、出力率アップのための開発競争が数年置きに起きている。機関の基本仕様を変えずに同一燃焼室スペースにより多くの燃料を噴射するわけであるから、熱負荷は厳しくなる。ピストン冠の爆発面の形状変更、ピストントップリング位置を下げたり、MBW機関が採用したハイトップランド設計、高圧噴射により噴霧粒径を微細化し、燃料弁数を2弁から3弁に増やすなどの通常の手法が採用されている。欧州メーカー(ライセンサー)は排ガス規制が緩やかで、売電できるので開発機関の検証は有利である(スルザー・ウインターツールの新運転設備では排ガス規制により脱硝装置を設置)。ワルチラNSDの新規開発中速エンジンは1,200時間の検証運転を行っている。日本では自治体の規制もあり実行不能である。A船社が国内メーカーに要求した陸上運転時間は過去最大で300時間が限界である。

開発競争を一時中止して運航者サイドは機関の信頼性を玉成して欲しいと要望しているが、マーケッティングに優れたライセンシーが仕掛ける数年毎の開発競争に巻き込まれる。ライバルのライセンサーは競争を受けてbmepを上げたバージョンを発表し、果てしない開発競争が続く所以である。かくして、船社の機関担当者は、売船・スクラップまで新たに発生する問題に長期間付き合うことも稀ではない。

 

 

 

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