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ユーザビリティの評価に関しては、現在は、ユーザビリティテスト(usability testing)という手法が一番頻繁に用いられている。これは、ユーザに機器を与え、ある課題作業を実行させ、その経過を観察することによって、機器のユーザビリティの問題点を発見しようとする手法である。いわば、人為的に構成された問題解決状況における人間の行動を分析する手法といってよいだろう。その意味では、認知心理学の手法との関連が深く、発話思考法(thinking aloud)などが用いられている。ただし、この手法では多量のデータを集めることは困難であり、10人前後の被験者からデータを集めることが普通である。この手法は、手間暇を要するため、30人とか50人といった被験者を利用してデータを集めることはきわめてまれである。したがって、結果の処理は一般に定性的、つまり、どのような内容のエラーが発生したか、というような観点から行われることが多い。ただし、作業遂行時間の平均値や作業を完遂できた被験者の比率などの定量的な指標が用いられることもある。この手法を効率化するために、ロギングツール(logging tool)というパソコン上の記録ソフトが利用されることが多い。こうしたツールを用いると、テスト終了時にはある程度の集計が得られる。

 

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図8 ユーザビリティテスティングの状況(被験者がリモコンによってビデオを操作している。観察者はこちら側からその行動を観察し、記録している)

 

ユーザビリティの評価には、その他にも、インスペクション法という、ユーザビリティ評価者の直感にもとづいた手法なども開発されており、開発ステージや製品の特徴によって使い分けられている。いずれにしても、デザインしたものを評価し、それを再デザィンのためにフィードバックすることが最重要な点であるため、現場では、あまり長い時間をかけることは困難である。

人間中心設計の考え方を分析する手法としては、HQLの委員会が開発したCOEDAなどがある。この手法は、まずカードマッピングの手法によって様々な活動(ユーザの観察とかプロトタイプの構築など)の名称が書かれたカードを大きな台紙の上に配置してゆく。次に、それらのカードの間に時間的な流れを矢印で記入し、さらに各カードに、その活動に参加している人々(エンジニア、デザイナなど)を記入する。最後に、ユーザがどの活動に参加しているかを記入する。以上の説明から、この手法がISO 13407の要求事項に対応していることは明らかであろう。この手法では、こうした自由描画的なデータを所定の書式に転記し、その書式の比較によって企業間、事業所間の人間中心性の比較分析を行う。また、特定の企業や事業所についても、反復的デザインの実施や学際的なアプローチの程度、ユーザ参加の程度を診断することができる。

これらの手法を活用することによって、ユーザ工学を実践し、ユーザビリティ水準の高い製品の開発につなげてゆくことが、特に今後の日本企業においては強く求められているといえるだろう。もちろん、船舶に関連した製品、あるいは船舶そのものについても、こうしたユーザビリティの観点は必須のものになるはずであり、ユーザ工学の早急な適用が必要である。

 

 

 

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