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(解説)

 

ものづくりとユーザ工学

―ISO 13407という国際規格の動向―

 

黒須正明

 

1. ものについての間題点

我々の身の回りにあるものには、さまざまな問題点が内在している。船舶においても、近年では情報化が著しいことと思うが、そうした情報機器はもちろん、操舵関係の機器、船内で利用されるAV機器、従業員や乗客のための什器、それらの設置される居住環境などのさまざまな機器やシステムにいろいろな種類の問題が含まれている。

その問題の中には、耐用年限以前に壊れてしまって使えなくなってしまうと言うような信頼性(reliability)の問題、火事の原因になってしまったり、誤操作によって指をはさんでしまったりする安全性(safety)の問題、同じ船のなかでもネジの規格が一致していなくて、多種類のものを用意しておかなければならないというような互換性(compatibility)、清掃や部品交換のために機器の内部をあけてみると、当該の部品の場所に手が届かなく、他の部品をはずさなければならない、といった保守性(maintenance)の問題などが含まれている。

ここで取り上げるユーザビリティ(usability、使い勝手)の問題もそうしたものの一つであり、ユーザにとっての使いにくさ(操作性)や分かりにくさ(認知性)という種類の問題である。特に情報機器は、ソフトウェアによってさまざまな機能の設定が可能であり、そのソフトウェアのデザインが適切に行われていないと、きわめて使いにくく、時には事故につながる危険性すら生じることになる。情報機器以外でも、たとえばレバーやダイヤルといったハードウェア部品について、それをどちらの方向に操作すればどのような効果が生じるのかが直感的に把握できないと、誤操作の可能性がうまれる。また、操作の手順も、ユーザビリティに関して生じる問題の中では重要なものである。プレジャーボートの始動手順は簡単なものではあるが、それですら初心者にはなかなか習得しにくいものであり、そのためにトラブルが生じることがある。大きな船舶では、手順はさらに複雑になっており、それをわかりやすい形でユーザである乗務員に提供することが大切である。

このように、身の回りのものには、さまざまな問題があるが、中でもユーザビリティに関する問題は、それを解決しないことには、せっかく用意された機能や性能が活かせないことになり、また時には安全性などに影響を及ぼすこともある。

ものが開発される時には一般にまず機能の開発からスタートする。つまり、何らかの新しい機能が開発された場合、たとえその性能がすばらしいものでなくとも、とにかく新しいことができるということで、それが製品化される。一般の民生品でいえば、ワープロにしても、パソコンにしても、携帯電話にしても、あるいは最近話題のMP3プレーヤにしても、最初に登場した時には、性能は問題にならないほど低いものであった。しかし、たとえばワープロについていえば、それまで和文タイプで作成し、書き直しになると、すでに作成したものの再利用ができず、あるいは部分的な修正ができずに全面書きなおしをしていたものが、ともかくも既存のデータファイルを活用することによって少ない負担で再利用できるようになることがメリットとして評価され、市場に受け入れられることになった。

 

※ 静岡大学情報学部

 

 

 

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